プレアデスの鎖
品の良い調度品。
どの品も過度な装飾はなく、かといって質感が悪いわけではない。
名の無い職人たちによって、どれも丁寧に仕上げれているようだ。
デーブルや飾り台、壁の装飾にいたるまで、一度は、朽ちた品とは、思えない出来栄え。そして、それらは、再び蘇り、屋敷の歴史を語っていた。
使用人たちは、風景に馴染み。
ソファに腰かけている、ルシファーも、まるで貴公子のようで、違和感はなかった。
彼の対面に座る、イクシオンの五番は、異質だ。
粗野で地味に整った顔立ち。
それだけなら、風景にとけ込める。
それ以外の何かが、屋敷が受け入れず、イクシオンの五番を異質なものとして、際立たせていた。
イクシオンの五番は、ルシファーとの会話の締めくくりに、
「お嬢ちゃんは、一度、歴史から消えた。それは、いくら強くても、やりようがあるということさ」
と言った。
聞き耳を立てていた、女中の一人が、
「人質は通用しませんよ。私たちは、もう死んでるから、あとは、成仏するだけです」
と言う。
「人質? そんな、回りくどいことしないだろう。見たところ、お嬢ちゃんは、これ専門だろ?」
イクシオンの五番は、パンチを軽く繰り出して見せた。
ルシファーは、嘲笑しながら、
「お前の、貧相な拳とは、違うがな」
と同意をする。
彼は、背もたれに体をあずけ、あごを突き出すようにして、イクシオンの五番に冷ややかな視線を浴びせた。
「破滅の魔女は、魔法が使えない。これは、砦でもうわさになってた」
「彼らは、それでも、敗走をしたがな」
ルシファーは、討伐軍が、最後に見せた、魔方陣を思い出す。
アリシアのドラゴンズ・ミート、竜の肉質が、人の枠を超えた理不尽であるのと同じように、魔法もまた、理をねじ曲げて、理不尽を実現させる。
究極の魔法は「プレアデスの鎖を解く」と言う。
それは、禁呪。
神に、歯向かう行為だ。
イクシオンの五番が笑う。
「なにが、おかしい?」
ルシファーは、冷めた口調で彼に、問うた。
イクシオンの五番は、聖騎士アリオンの一件、破滅の魔法使いのスカートをめくって……のくだりを思い出して笑ったのだが、ルシファーには、別の理由を話す。
「あんたら、引きこもっていて、世界を知らなすぎる。魔法もいろいろだし、破滅の魔女を狙っているのは、プレアデスの七人だけじゃないってことだよ」
イクシオンの五番、彼自身、名声のために、アリシアの命を狙った。
「それは、誰だ? いや……別に言わなくてもいい」
ルシファーは、席を立とうとする。
「言い忘れてたが、寛容の魔女、エレクトラが、直々に砦に参られるそうだ」
イクシオンの五番は、前屈みで背中を丸め。テーブルに両肘をついて、手のひらを合わせるようにして組んだ。
つまらない。
ルシファーは、口に出さず、思う。
そして、立ち上がった。
イクシオンの五番は、ルシファーを見つめる。
「純潔の魔女、マイアも、刺客を放った」
ルシファーは、使用人をつかまえて、
「地下室はあるか?」
と尋ねた。
「刺客は、イクシオン。純潔の魔女さまは、手を汚すのが嫌いらしい」
「それだけなら、おまえは不要だ」
ルシファーは、ソファに腰掛けたままのイクシオンの五番、彼の肩をつかむ。
「イクシオンと戦うなら、手伝いたい」
彼は、言った。
ルシファーは、顔をしかめる。
いつの間にか、アリシアが、エクレアを連れて居間に来ていた。
「閉じ込めるのも面倒だし、別に良いわよ」
アリシアの物言いに、
「また……」
とルシファーは、言葉を失った。




