魔の森
魔の森、ニブルヘイム。
遠方から、そこを監視する砦の兵士たちが騒ぎはじめた。
望遠鏡を使うまでもない異変。
快晴でも、黒い霧に覆われる魔の森、ニブルヘイム。
世界の秩序を司る七人の魔法少女。
永遠の美の象徴して聖なる力の代行者。
その者たちでも清めることが出来ない森。
遠い昔、火刑によって浄化した、破滅の魔女、アリシアの住処だった場所。
ニブルヘイムの異変だ。
砦を囲む森から、カラスが一斉に飛び立った。
この地を治めるているのは、寛容の魔女エレクトラ。
もちろん、この砦には、彼女はいない。
代わりに座するは、聖騎士アリオン。
最強の一角として、寛容の魔女エレクトラから信頼が厚い青年騎士だ。
森に棲む魔獣たちが、騒ぎはじめた。
低い唸り声が響く。
砦を囲む壁、その遠い向こうの先に、黒い霧が覆う森。
ニブルヘイム、魔の森だ。
そこから、天を貫くように黒い光が矢のよう伸びる。
天に突き立てる黒い槍!
アリオンは、遠くを見つめながら、
「なんと、畏れ多い……」
とつぶやいた。
彼が着るミスリルの甲冑、その震える音が周囲にいる兵の耳にも届く。
雑兵の一人が、アリオンを見た、
そして、言葉を失う。そして、ニブルヘイムの異変より、聖騎士であるアリオンを恐ろしいと思った。
隣国から無慈悲のアリオンと恐れられている男だ。
女子供とて容赦しない、オリオンの武者震い。
雑兵たちは、アリオンを恐れる。
彼の機嫌を損ねれば、今、この場で首をはねられてもおかしくない。
伝令の兵が、走ってきた。
アリオンの元で兵が告げる。
「魔物たちの集団暴走が、ここに向かってきます」
「で?」
アリオンが剣を抜く。
雑兵たちは、ヒッと悲鳴をこらえるようして目をつむる。
きっと伝令の首が、はねられる。
誰もが、そう思った。
寛容の魔女、エレクトラの聖なる力が宿る聖武器。
アリオンは、先日授かったばかりの聖剣エレクトラの刀身をあらわにさせた。
「一振りだ」
彼は剣を振り下ろす、地響き、そして耳を覆いたくなる轟音、最後に、雑兵たちの閉じたまぶたでさえ、貫く光がまぶしい。
伝令は首を垂れたまま、ジッと耐えた。もし、ここで、伝令が逃げれば、その家族ですら……
そう思い、伝令は、耐えていた。
アリオンは、そんね伝令に、
「どうした?」
といつになく、優しい声をかけた。
伝令は、恐る恐る、目を開く。
すでに、雑兵たちは、あまりの光景に目を丸くさせていた。
「ニブルヘイムを攻め落とす機会ではないか?」
アリオンは、遠く、黒い霧に覆われた森を見つめる。
伝令は見た。
砦から伸びる新しい荒野。
アリオンが剣を振り下ろして作った荒野が真っ直ぐに伸びる。
魔物たちの集団暴走は、影も形もない。