すでに、隠し事は、野に放たれている。
エレクトラの居城、その謁見の間。
この国の頂点、
世界に輝く七つ星、プレアデスの魔法少女の一人。
世界を天より任せられた聖女。
寛容の魔女、エレクトラ。
名声と富は、思うがままであろう、彼女の居城は、無駄がなく質素。古き良き伝統が垣間がみえる教会のよう。
謁見の間、唯一目を引くのは、天窓のステンドグラス。
太陽の恵みある光に、彩りを添えられる。
清潔感あふれる優しい光。
玉座に座る、少女の銀髪を優しく照らし出す。
寛容の魔女エレクトラは、苛立つ表情を隠さない。
謁見の間に呼ばれた、ネビルが入る。
彼もまた、この世の財には興味はないという服装。古代の聖人がまとうような質素な白い貫頭衣、それだけでは罪人のようともいえる。羽織るマントが、彼を、年老いた聖人のように見せる。
エレクトラは、人払いをし、ネビルだけを残した。
老人特有の人の良さそうな笑顔。
経験豊富で深い知識と人柄の良さを連想させる表情だ。
ネビルは、臆することなく、
「エレクトラさま、なにかご不満でも」
と言ってのけた。
その昔、七人のプレアデス、魔法少女たちのまとめ役を、務めた老人。世界を七つに分割した後、彼は、寛容の魔女、エレクトラに仕えた。
そのことは、秘密裏で、残る魔法少女、六人は、知らない。
エレクトラは、この老人、ネビルに従っている。
それが、世界を穏便に治めるのに最善のはずだからだ。
ただ、エレクトラも言いなりではない、意見は言う。
「いろいろよ」
伝令を処刑した件。加えれば、破滅の魔女が復活したことを、公にしたことなどだ。
「それは、それは、お優しい心を痛めてはなりません」
ネビルは、役者が舞台でするお辞儀のように、大袈裟で派手なお辞儀を嫌味なくしてみせる。
「意味が知りたいだけよ」
彼女とて処刑は慣れている。アリシアを火刑にしてから、心は痛めないと決めていた。秩序を維持するためには、犠牲がいる。
だって、そうでしょ?
相変わらず戦争は終わらない。
あの時から、なにが進歩したのだろう?
ただ、世界の秩序は維持できているという不思議な実感。
「はて? 意味とな……」
しらじらしい……
エレクトラは、最近、ネビルを気持ち悪く思う瞬間がある。
ただ、この表情。
微笑みのネビル。
その瞳を見ると、安心を覚える。
ネビルは、饒舌に語る。
情緒豊かに、身振り手振りを添えて、丁寧に説明をした。
一つ、残る六人のプレアデス、魔法少女の脅威。
破滅の魔女と六人の魔法少女、多方面での戦争は、避けるべきとの主張。
破滅の魔女の復活を公にすれば、残るプレアデスも、仕掛けて来るのは控えるだろうという見解。
二つ、恐怖による混乱を防ぐためとの主張。
伝令の命一つ、処刑の執行は、罪を犯した者の末路を、民衆に連想させるはず。
それが、治安維持となり、秩序の維持と皆の幸せにつながると熱弁をふるう。
力による弾圧と犠牲を、払って成り立つ秩序。
エレクトラは、アリシアの火刑を思い出す。
老人の瞳を見ていると、いつも、誓う。
捧げられた命に報いる方法は、一つ。
世界を一つにまとめる。
そうすれば……
「理解したわ。やっぱり、ネビルが正しい」
エレクトラは、隠し事を思い出した。なぜ、ネビルに相談せずに、それをしたのかを、彼女は、後悔してしまう。
「ネビル、ごめんなさい……一つ、隠し事をしてたわ」
彼女は、ネビルに懺悔した。
老人は、こころよく、それを許す。
謁見の間が、外に開かれた。
扉を守、兵士は、出てきた老人の顔を見て、ギョッとする。
ネビルは、笑顔一つ見せず、足早に、謁見の間を後にした。
ニブルヘイム、魔の森に人影がある。
たった一人で、森を進む人間。
移住してきたばかりのリスが、木の枝から様子をうかがう。拾ってきたばかりの木の実をほおばるのも忘れて、その人影が遠くに行くまで、ジッと見つめていた。
ニブルヘイム、魔の森の中心に、アリシアの屋敷はある。
突然の来訪者に、ニーベルンの館、使用人たちは、右往左往の大騒ぎだ。
長い銀色の髪がそよ風にゆれる。
屋敷の入り口に、少女が、一人、立っていた。




