奈落の底で
魔女狩りで火あぶりされてから何年が経過しただろう。
数年?
数百年?
長い、長い、時間、ずっと夢を見ていた。
世界征服。
それが、あたしの復讐。
そして、夢なのです。
たとえ、天のあれが認めなくても。
どんなに暗い奈落の底へと落とされても。
あたしは、あきらめない。
だって、それが夢というものでしょ。
魂が朽ちて消えても、その欠片まで、きっと……
そして、ついに彼女は、地獄の第九階層まで落とされた。
そこは、奈落の底。光がない、闇の世界。
契約を結べ!
羽の生えた黒猫が現れた。
「我はルシファー、天を追われし堕天の悪魔」
偉そうに黒猫が言う。
とにかく偉そう。それでも、言葉を交わすのは、いつ以来だろう。火刑の際、浴びせられた罵倒の数々、それすら、今は、とても懐かしい……
黒猫が言う。羽の生えた黒猫。禍々しい羽。
暗い闇の中、光る黒い影。
その猫が
「我はルシファー、天を追われし堕天の悪魔」
と言う。
はいはい、二度目なので聞き流す。
「我は」
「ルシファーでしょ」
三度目だ。
もしかして、壊れてる?
暗い暗い、闇の底、その先客なのだから、仕方ないといえば、仕方ない。
「そう、我はルシファー、契約を結べ」
「契約?」
契約には、良い思いでがない。裏切られてばかり……
だから、あたしは、きっと、ここにいる。
だから、契約は嫌いだ。
「ドラゴンズ・ミート、竜の肉質を持つ破滅の魔女、アリシアよ! さあ、契約を結べ。その願いは、地獄の第九階層、そして、その主である、ルシファーさまが、叶えようぞ!」
尊大な猫は、自分自身に陶酔をしている様子だ。
主と自称するだけあって、この場の全てが、応じろという圧をかけてくる。
ルシファー、魔王サタンの堕落前の呼称……
本物か? 偽物か?
真偽のほどは関係ない。
「いやよ!」
あたしの答えは決まっていた。
自称ルシファーの黒猫は、
「にゃっ!」
と猫らしい悲鳴。
そんなことは、関係ない!
「さあ、あたしに従いなさい、ルシファーよ! そうすれば、きっと、あなたの願いはかなうわよ!」
黒猫のルシファーは、再び「にゃっ」と小さな悲鳴。そして、牙を少しのぞかせニヤリと笑う。
それが、彼の返事。
そして、アリシアの魂と黒髪のルシファーは、地上を目指す。
契約は嫌い。
約束は、裏切られる。
だから、あたしに従いなさい。
あたしは、絶対に裏切らない。
そして、夢もかなえてみせる。
夢は、自分でかなえるもの。
従え!
それ以外は、全て、踏み潰して見せましょう!
世界の片隅、とある一角、深い森の中、朽ちた屋敷。
物理的に重い悪役魔法少女、ここに、爆誕!!