【第4話 1stクエスト2 ゴブリン退治だと思ったらオーガー退治!?】
【第4話 1stクエスト2 ゴブリン退治だと思ったらオーガー退治!?】
3匹のゴブリンの後ろ姿を見ながら小をし終えた僕は、もう完全に開き直り、焦ることなくしっかりとズボンを上げて格好を整えた。
しかし、今更このゴブリンたちと一戦交えようという気は起きなかった。言葉が通じるのなら戦うだけが選択肢ではない。第一、ゴブリン3匹相手に僕一人で勝つ未来が見えない。
『すまなかった。君たちはこの辺に住んでいるのか?』
ゴブリン語で話しかけると、律儀になおも後ろを向かいてくれていて彼らが振り返る。彼らも戦闘態勢に入るような様子はなかった。
『オレタチ、チカクのドウクツにスンデル。マエにスンデタバショ、オーガーにオワレテ、シカタなくココまでニゲテきた』
ん? どうも思ってたような状況と違ってきてないか?
僕はゴブリンたちの話を詳しく聞くことにした。
ゴブリンたちの話によると、彼らは元々もっと人里から離れた山の中にある廃屋で平和(?)に暮らしていたそうだ。しかし、その住処としていた廃屋にある日突然オーガーが現れ、住処も食料も集めた宝物(ゴブリンたちにとっての宝物がどのようなものであるかは不明)もすべて奪われた上、その周辺を縄張りにされてしまい、家族や親戚含めて逃げだすしかなかったらしい。
ちなみに、ゴブリン家族と親戚は、子どもも合わせて15匹だそうだ。4人で戦うにはかなり厳しい数だ。まともにやりあわなくてよかったかもしれない。
しかし、こうなると事情が変わってきたぞ。このゴブリンたちを退治したとしても、オーガーに追われたほかのモンスターがまたこの辺に住み着くかもしれない。場合によっては、食料を食い尽したオーガー自体がこっちに来る可能性もある。
ここは仲間とも相談する必要があるな。
僕はゴブリンたちに仲間が近くにいることを説明し(彼らを退治しに来たことは口が裂けても言わない)、彼らとともに仲間の元へ向かった。
「遅かったじゃないか。小じゃなかったのか?」
そう言って振り返ったメンディーがその姿勢のまま固まる。
それはそうだろう。仲間がゴブリン3匹を後ろに連れて戻ってくれば誰でもそういう反応をするに違いない。
「お、おい! ゴブリン!」
メンディーの声に反応したリーシャとニアもゴブリンの姿を認め、それぞれ武器を構え臨戦態勢を整える。
「ま、待ってくれ!」
僕は慌ててそれを制する。
「ゴブリンたちに戦う意思はない! ひとまず僕の話を聞いてくれ!」
僕は手と声でみんなに落ち着くよう伝える。
僕がゴブリンたちに襲われていない状況を改めて認識し、みんなはひとまず武器をおろしてくれた。
仲間とゴブリンたちの両方の通訳を行いながら、僕はゴブリンたちの状況を説明する。
話を聞き終えて仲間たちは押し黙り頭を抱える。
「オーガーですか……」
リーシャがうめくようにつぶやく。
オーガーについては知識判定を行い、その内容をみんなに伝えている。
【モンスター名:オーガー モンスターレベル5。すばやさ10、攻撃力2D+6、ダメージ点12、回避力12、防御力8、精神力10、生命力21。肉食で凶暴な性格をしており、人の肉を好んで食べる。背丈は2メートルを超え、強靭な肉体をしている。知能は低く、単独もしくは夫婦で行動し、集団生活を行うことはまれ】
モンスターレベル5というのはかなりの強敵だ。冒険者が単独で戦おうと思えば、最低でも戦士スキルレベルが5は必要となるだろう。1レベルの冒険者が5人が集まったとしても、足し算ではないから5レベルと同等に戦えるというものでもない。
「でも、俺たちの依頼はオーガー退治じゃないぜ。ゴブリン退治なんだから、オーガーのことは放っておいていいんじゃないのか?」
「それを言うなら、依頼はゴブリン退治でもないよ。正確には、ゴブリンをなんとかしてくれっていう依頼だったよ」
メンディーの言葉をニアが正す。
そうなのだ。今回の依頼書には、ゴブリンを倒してくれとは一言も書かれてなかったし、村長さんから言われてもいないのだ。
果たして、この状況でゴブリンを倒して戻ったとして、それが本当に依頼の解決と言えるのだろうか。今ゴブリンたちが村の近くに住み着くようになった根本原因はオーガーの存在であり、それはいずれ村にとっても脅威となりうる可能性がある。それを放置したままで依頼を達成したと胸を張って言うことができるのだろうか。
ここで僕たちが取れる選択肢を整理してみよう。
1 ゴブリンと戦い殲滅する。
2 ゴブリンと交渉し、村に被害を出さないよう約束させる。
3 オーガーの存在を村に伝えて、改めてオーガー退治の依頼を出してもらう。
4 街に戻りオーガー退治の援軍を集めてオーガー退治を行う。
5 自分たちでオーガー退治を行う。
選択肢1は、この状況になってしまってはいまさら取れないだろう。こうやって争わず話し合いまでしている相手と改めて殺し合いをするなんて人としてできようはずがない。
選択肢2は、現状取れる無難な落としどころであるが、オーガーという根本問題が放置されたままになってしまう。とりあえずの解決策にはなっても、これであとは知らないということにはできないだろう。
選択肢3は、根本解決のための現実的な手段といえる。しかし、問題はその場合、僕たちの報酬がどうなるかという点だ。調査料として必要経費は請求できるだろうが、依頼を解決したわけではないので、当初の報酬がもらえるはずもなく……。これも避けたい選択肢だ。
選択肢4は、オーガーを倒すためには現状で最適な方法と言える。ただし、オーガーを倒せる戦力となると冒険者レベル5クラスの人員が必要なわけで、その依頼料を考えると、今回の報酬を得たとしても赤字になる可能性が高い。赤字を出してまで依頼をこなす余裕が今の僕たちにあるかというと……厳しい話である。
選択肢5は、選べるのならそれにこしたことはない。ただ、現実的に考えて、冒険者レベル1~3(内一人は学者スキルのみの戦力外!)の4人の冒険者でどうにかなる相手ではない。せめてこの数倍の人数でもいれば話も変わるだろうが……
そう思いながらゴブリンのほうに目を向ける。
数倍の人数……ゴブリンの数は15匹……もしかしていけるのか、これは?
僕は頭の中で聖書の内容を思い返し、計算を始める。
「どうする? オーガーの被害が出るとは限らないわけだし、俺はゴブリンと村との間で近づかない約束をさせればいいと思うが」
「私は街に戻ってオーガーに勝てる冒険者を探してくるのがいいと思う」
「ボクはオーガーの存在を村の人たちに伝えるまでが、ボクらの仕事だと思うけど。その先はもっと高レベルの冒険者に任せるべきじゃないかな」
メンディー、リーシャ、ニアが三者三様の意見を述べ、そのまま視線を僕に向ける。
三人の内の誰かの意見に僕が同意すれば、多数決の理論でいけばその意見がパーティとしての選択となる。
だが、僕は三人のどの案にも賛同しなかった。
仲間の三人、それに加えてゴブリン三匹にも、僕が考えた末に選んだ方法、つまり、選択肢5であるオーガーを倒す作戦を説明した。
リスクのある作戦ではあるが、計算上、勝てない戦いではない。この世界は、前に僕が生きていた世界ではない。TRPGみたいな世界なんだ。そこに活路を見出すことができるはずなんだ。
僕の説明を聞いた三人はそれぞれ考え込む。
「……俺はその作戦に乗ってもいいぜ」
「ボクも構わないけど、一番リスクがあるのはリーシャちゃんだよね。リーシャちゃんはどうなの?」
「私は……構わないよ。戦士として生きていくならここで引いちゃうようじゃダメだと思うの。それにショウのこと……信用してるし」
リーシャは僕に強い光の宿った目を向けてくれる。
僕の結構無茶な作戦を聞いてもそれに乗ってくれる仲間たちに僕は感謝しつつ、ゴブリンたちにも意見を求めた。この作戦にはゴブリンたちの協力が絶対必要なのだ。
3匹のゴブリンの内の一人、実は彼がここのゴブリンたちの集団のリーダーだったのだが、彼も僕の作戦への協力に同意してくれた。ゴブリンたちにとってもオーガーは脅威であり、それを排除できるのなら彼らにとっても利益となる。この作戦に乗ってきてくれる勝算はあったが、その目論見通りになったことに僕は胸をなでおろす。彼は、洞窟にいる仲間たちにも作戦内容を伝え、協力することを約束してくれた。
翌日、僕たちは、ゴブリンたちの案内で、ゴブリンたちの以前の住処であり、現在オーガーが住処としてる廃屋へとやってきた。
この場にやってきたのは、僕たちフォーアローズの4人と、ゴブリンが11匹。ゴブリンたちは15匹いたが、内3匹は子どもであったため、子ども3匹とその護衛の大人ゴブリン1匹を残し、残り11匹のゴブリンがここに来てくれた。
僕の考えた作戦はこうだ。
オーガーと直接接近戦を行うのはリーシャ一人。リーシャには攻撃は行わず、盾を構えて回避に専念してもらう。リーシャはすばやさの能力が20と非常に高いため、回避には能力値補正として+3のボーナスがつく。戦士スキルの彼女の場合、回避力は、基本値の7+戦士スキルレベルの2+能力値補正の3で、合計12という数値になる。さらに攻撃を捨てて回避に専念した場合は、回避力にさらに+4の補正がつく。つまり、合計の回避力は16となる。
一方、オーガーの攻撃命中値は2D+6。この2Dというのはダイス2個分ということだ。この世界では、攻撃のたびに自動的にダイスが振られる。オーガーの場合、攻撃するたびにダイス2個分の数値に6を足した数が攻撃力となり、この値がリーシャの回避力を超えた場合、オーガーの攻撃が命中することになる。つまり、リーシャに攻撃を当てるためには、オーガーは17以上の攻撃力を出す必要があるわけだが、ダイスを2個振ってこの数値を出せるのは11と12を出した場合のみ。11と12が出る確率は3/36、つまり約8.3%しかない。
攻撃が命中した場合のオーガーの与えてくるダメージ点は12。リーシャの装備の能力として4点のダメージが減らせる。これにリーシャの冒険者レベル2を加え、合計6点がリーシャの防御力となる。さらにメンディーが魔術師スキルレベル1でも使える『防御強化』の魔法を使うことより、さらに1点の防御力が上昇する。つまり、攻撃を食らっても防御力の7点分はダメージを減らすことができるため、実際に食らうのは12マイナス7で、5点分のダメージということになる。リーシャの生命力は13なので、2回ダメージを食らってもまだ3は残り、死ぬようなことはない。また、ニアが神聖魔法で回復すれば、耐えられる回数はさらに増える。
ただし、オーガーがダイスで6ゾロの12を出した場合、これはクリティカルヒットとなり、防御力を無視した攻撃を食らってしまうことになる。これには注意しなければならないが、逆に言えば、リーシャが生命力13のマックスを保っていれば、クリティカルヒットを食らっても残り生命力1で耐えられることになる。
つまり、リーシャが防御に専念し、ニアが回復をしてくれれば、相当な時間リーシャは耐えることができることになるのだ。
一方でオーガーを倒すためには、オーガーにダメージを与える必要がある。オーガーの生命力は21もあり、最低でも21点以上のダメージが必要となる。
オーガーの回避力は12。これは決して低い数値ではないが、戦士スキルがあれば、当てられない数値ではない。問題はオーガーの防御力8のほうだ。オーガーの屈強な肉体は、せっかく攻撃を当てても8点ものダメージを減少させてしまう。今回、僕たちは、リーシャ以外はオーガーと接近戦という選択肢を捨て、オーガーの後ろから石を投げるという非常に原始的な攻撃を行う。ゴブリンたちはいくつか弓を持っているため、弓攻撃もできるが、古びた弓である上、矢の数も十分ではないため、メインウェポンはやはり石となるだろう。
これがもし前の世界でオーガーと戦うことになっていれば、おそらく僕が投げる石ではオーガーみたいな化け物にはほとんどダメージを耐えられないだろう。しかし、さっきも言ったようにこの世界には6ゾロでクリティカルヒットというルールがある。つまり、1/36の確率で、オーガーの防御力を無視したダメージを与えることができるのだ。
攻撃をしないリーシャを除いた僕たちとゴブリンの数は14。つまり、計算上3ターンに1回以上は誰かがクリティカルヒットを出せることになる。ゴブリンたちのダメージ点は7あるため、ゴブリンが3回クリティカルヒットを出せれば、オーガーを倒せるのだ。
これぞ、僕が考えた「数の暴力でクリティカルヒット作戦」だ!
作戦通り、まずはメンディーがリーシャに『防御強化』の魔法を使う。呪文にあわせてメンディーがダイスを振ったようだ。僕たちにはほかの冒険者が振るダイスは見えないが、かけ直さないところを見ると、どうやら魔法には成功したみたいだ。
僕たちは廃墟から少し離れた森に身を隠し、リーシャが盾を構えながら一人廃墟に近づいてく。
十分に近づいたところで、その音に気づいたのか、はたまた人間の匂いに気づいたのか、オーガーが一匹廃墟から姿を現した。
リーシャはそのまま後退し、オーガーを僕たちのほうに引っ張ってくる。
リーシャ以外の全員が攻撃するには、ある程度開けたところまでオーガーを誘い込む必要があった。廃墟の壁を背にして戦われると、僕たちはリーシャごしに攻撃するしかなく、リーシャに間違えて石や弓を当ててしまう危険がある。万一、廃墟に逃げ込まれでもしたら、僕たちは攻撃できず、作戦は失敗になってしまう。
すばやさに優れているリーシャは、途中で追いつかれることなく、当初の予定位置までオーガーを引っ張てきてくれた。リーシャ自身はそこからひたすら防御に徹する。
「行くぞ、みんな!」
僕の掛け声で仲間もゴブリンが一斉に森から飛び出し、オーガーとは距離をとりつつ、背後や横に周り込む。
オーガーを半円状に取り囲んだ僕たちの攻撃がオーガーに襲い掛かる。
まずは僕の投石攻撃だ!
石は事前に拾い集めて鞄の中に詰め込んでいる。そのうちの1つを手に取り、僕はオーガーに投げつけた。
投げつけると同時に宙に現れたダイスが自動的に転がる。
僕は攻撃系のスキルがないため、スキルや能力値による加点が得られず、ダイスの数値のみでオーガーの回避点12を超える数字を、つまり13以上を出さないと攻撃を当てることができない。ダイス2個では最大でも12しか出せないため、普通なら攻撃を当てることができないことになる。しかし、この世界では、6ゾロの12を出せば、どれほど能力差があっても攻撃を当てることができるのだ。
僕は期待してダイスを見たが、3と4の7。やはりそう簡単に当たるはずがなかった。
ニアは戦士スキルを持っているため、投石攻撃であっても、戦士スキルや器用度によるボーナスがあり、僕よりもよほど高い確率で攻撃を当てられる。――が、彼女も攻撃に失敗したようだ。
次にゴブリン11匹が攻撃をする。彼らの攻撃の際にもダイスが自動的に振られて判定が行われる。彼らの何匹かは攻撃を当てたが、オーガーの厚い防御力の前に誰も傷をつけることはできなかった。やはり、クリティカルヒットが出ない限り、彼らではダメージを与えることができない。
続いて、メンディーが攻撃を行う。
魔術師である彼の攻撃は投石ではない。魔力のこもった光の弾を相手にぶつける『光弾』の魔法だ。
魔法攻撃は、物理攻撃とは違って、回避することができない。狙った相手には必ず命中するのだ。ただし、食らった相手は魔法攻撃に精神的に抵抗することができる。抵抗に成功すれば、ダメージは半分にすることができる。
だがねオーガーは光弾の抵抗に失敗したようだ。通常ダメージがオーガーに入る。魔法攻撃の恐ろしいところは命中率だけではい。肉体的な防御力が意味がないという点も大きい。つまり、魔法攻撃に対してオーガーは8点の防御力によるダメージ減少が使えないのだ。魔法攻撃で防げるダメージは、冒険者なら冒険者レベル、モンスターならモンスターレベルの分だけ。つまり、モンスターレベル5のオーガーの場合、5点しかダメージを減少できない。
メンディーの攻撃はその5点分の守りを突破し、2点のダメージを与えた。
「よし! 2点だがまずは生命力を削ったぞ!」
メンディーがガッツポーズしてみせる。
オーガーの残り生命力はこれで19。
最後にオーガーの攻撃を行われたが、リーシャは華麗に回避していた。
「こんな攻撃、いくらでも回避してみせるからね!」
たのもしいエルフの少女である。
次のターン。僕の攻撃は外れ。
ニアの攻撃は命中したが残念ながらダメージは通らなかった。
「やっぱりオーガーの防御は厚いね。戦士スキルレベル1のボクじゃ、クリティカルヒットでもいなとダメージ与えられないかも」
ニアが悔しそうな顔をするが、まだまだ焦るような時間じゃない。
次のゴブリンたちの攻撃は運がいいことに、2匹が6ゾロを出し、クリティカルヒットを2発与えることに成功した。ゴブリンのダメージ点は7点なので、それが2匹分で一気に14ダメージを与えた。これでオーガーの残り生命力はたったの5点だ。
思った以上に順調にきている。
次のメンディーの魔法攻撃は命中はしたが、オーガーに抵抗されてしまい、ダメージはモンスターレベル分で止められてしまった。
なお、メンディーの精神力はこの魔法で残り1になってしまい、彼の魔法はこれで打ち止め。次からは僕と同じように投石攻撃に切り替えることになる。
オーガーの攻撃はリーシャに当たらず。
3ターン目。
僕の攻撃は外れ。ニアの攻撃は今回も命中したがダメージは通らず。
ゴブリンたちも命中した者もいるが、クリティカルヒットはなしでダメージは与えられず。
メンディーの投石攻撃は外れ。
オーガーの攻撃はリーシャにかすりもしない。
長期戦は最初から覚悟している。僕たちに焦りはない。
4ターン目。
膠着状態になるのは承知の上だが、できればリーシャがダメージを受ける前に倒してしまいたいのも本音だ。回復できるといっても仲間が傷つくのは見たくはない。
これしかできない僕は力いっぱい石を投げつけた。
それと同時に振られたダイスの目は12。
クリティカルヒットきたっ!
攻撃が当たると、さらに武器に応じたダイスが自動的に振られる。
投石のダメージはダイス1個分。攻撃スキルがあればダメージの上乗せもあるが、僕には何もないため、ダメージは本当にダイス1個分のみ。つまり、1~6のいずれか。ここで、5か6が出れば、オーガーをダメージを削り切ることができる!
5か6、でろっ!
――出た数字は5!!
つまり、5点分のダメージがそのままオーガーに通り、ちょうどオーガーの生命力を0にした!
僕の小さな石により巨大なオーガーが倒れ伏す。
こんな奇跡みたいなことを起こるのも、ここがダイスがすべてを決めるTRPGの世界だからだ!
生命力が0になったモンスターは気絶状態になる。気絶したときには生死判定が行われ、これに失敗すると死亡するが、成功すると死亡ではなく、単に気絶している状態ということになる。
オーガーはもともと生命力が高いため、死亡判定には成功したようで、気絶状態となった。このまま放っておけばいずれ息を吹き返すだろうが、この気絶状態で息の根を止めることは、判定さえ不必要なほど容易なことだった。
リーシャが多少ためらいを見せながら、倒れているオーガーにとどめを刺した。
「やったね!」
そばによってきたニアがポンと僕の肩を叩く。
「思った以上にうまくいったよ」
僕はニアに笑顔を向ける。
「俺たちの勝ちだな」
ゆっくり歩いてきたメンディーと拳を合わせる。
駆け寄ってきたのはリーシャ。
二人でハイタッチを交わす。
「お疲れさま、リーシャ! よく耐えてくれたよ」
「がんばったよ!」
応えてくれる彼女の笑顔がとても眩しい。
僕たちはその後、事後処理を行った。
オーガに奪われていた廃墟は多少荒らされていたが、ゴブリンたちが住むのに支障があるほどではなかった。ゴブリンたちの集めていた財宝(ほとんどが僕たちには役に立ちそうにないガラクタのようにも見えた)は無事だった。さすがにこれを奪い取るわけにはいかず、それはそのままゴブリンたちのものとした。
廃墟の状況確認後、洞窟に残したゴブリンの子どもたちを迎えに行き、ゴブリン全員の引っ越しを完了させた。そして、あの洞窟や村の付近には2度と近づかないことを約束させた。
村に戻った僕たちは、村長さんにことの顛末を説明した。ゴブリンが村の近くに住みついた原因はオーガーがゴブリンの住処を奪ったせいであること。オーガーの脅威が村に迫る危険性があるため、オーガーを討伐したこと(ゴブリンとの共闘であることは伏せた)。ゴブリンは元の住処に戻ったため、村への脅威はなくなったこと。あと、もしまたゴブリンが現れるようなら、僕たちがなんとかするから冒険者ギルドを通じてでも連絡してもらうこともあわせて伝えた。
これにて初クエスト、完了!
僕たちは村長さんから依頼料の50万ゴールドを受け取ると、一人10万ゴールドずつわけ、残りの10万ゴールドをパーティ用資金とした。パーティとして支出が必要な場合、今後はこのパーティ用資金から捻出していくのだ。
そして、僕たちは村唯一の料理屋(といっても小さな店だが)で、初クエスト完了記念食事会を開いた。
村の料理屋にコース料理のようなメニューはないので、おのおの好きなものを注文したため雑多な料理がテーブルに並んでいる。それでも僕たちには十分だった。今回の一番のおかずは、クエストクリアという達成感なのだから。
互いの活躍を称えたり、冗談を言ったりしながら食事を進めていた僕に急に言葉が飛び込んでくる。
『クエストクリアおめでとう!』
聞き覚えるのある声、GMの声だ。
『クエストクリアに伴い、スキルポイントを付与しよう。オーガーを倒した経験点として13ポイント』
(少なっ!)
思わず頭の中で反応してしまう。一番必要スキルポイントの低い学者スキル1を取得するのでも500ポイント必要だったのだ。13ポイントではほとんど足しにならない。
『モンスターを倒した経験点なんて冒険者の成長の上ではその程度のものということだ。冒険者として大切なのは、困っている人の願いをきき、その解決のために苦心し、それを成し遂げる、そういった経験だ。そういう意味で、今回の君たちの行動は称賛に値する。今回の場合、もし、単にゴブリンを倒したとしてもクエストクリアであることは間違いない。クエストクリア経験点として1000ポイント付与しただろう。だが、君たちはその先にある問題に気づき、そして見事それをも解決してみせた。その行いには加点があってしかるべきだ。クエストクリア経験点として、2000ポイント付与しよう! おめでとう!』
頭の中の声が消えていくのを感じる。
僕はほかのみんなと顔を見合わせてうなずき、お互いに同じようにGMの声を頭の中で聞いていたこと理解する。
みんなとはGMの話の内容も確認し合ったが、内容はほとんど同じで、もらった経験点も全員2013ポイントだった。
「となると、問題はこの経験点をどう使うかということだね」
「俺はもちろん魔術師スキルのレベルを上げるぞ! 俺の残りスキルポイントは1000ポイントだから、そこに2013ポイントが加わって合計で3013ポイント。魔術師スキルレベル2に必要な3000ポイントがたまったぞ! これで俺は魔術スキルレベル2だ!」
「私はやっぱり戦士スキルを上げるよ! 私の残りスキルポイントが500だったから、今2513ポイント。戦士スキルを3レベルにするには2000ポイント必要だから、3レベルにして、残り513ポイントだ」
「じゃあボクは神官スキルを上げるよ。残りと今回のをあわせてボクのスキルポイントは3013だから、1500ポイント使って、神官スキルレベル2を取得。残り1513ポイントは残しておこうかな」
メンディー、リーシャ、ニアがそれぞれメインスキルを上げていく。まぁ、それが基本だよね。
「しかし、スキルによって必要経験値の差が激しいね。魔術師スキルなんて、1から2に上げるだけで3000ポイントも必要だなんて。学者スキルなんて3から4に上げるのでさえ2000ポイントで済むのに……ふむ、僕の残りスキルポイントは0だったけど、今回ので2013ポイント……上げられな」
今回のクエストで、学者スキルが活きる場面はほとんどなかった。もっと実戦で役に立つスキルを取得するのが自分にとってもパーティにとっても有効なのかもしれない。でもメインスキルを上げられる機会に上げないやつがいるだろうか、いやいない!
「よし! 僕は2000ポイント使って、学者スキルレベルを4に上げるぞ! これで冒険者レベルも4だ!」
「おおっ」
みんなは拍手して祝ってくれる。誰も人のスキル取得に口を出さない。戦士スキルでも取れと言われてもおかしくないのに。こいつら、いいやつらだ!
かくして、僕たちフォーアローズのファーストクエストは無事クリアとなったのだ。
読んでいただいてありがとうございます。
読んだあとは次の作品に活かしたいので☆印の評価お願いします。
誰がどれだけ入れたのかこちらにはわからいので、いくつでもいいので気にせず入れてください。