【第2話 パーティ結成!?】
【第2話 パーティ結成!?】
この世界に来て僕がまず確認したのは自分の姿だ。
ここには僕が前にいた世界のように鏡やガラスがどこにでもあるわけではない。そのため、自分の姿を見るなんていう簡単なことが簡単ではなかった。
なんとか水に自分の姿を映して確認したところ、残念ながらと言うべきか、幸運にもと言うべきか、そこに映ったのは、この世界に転生する前の僕の姿だった。イケメンとか言われれば肯定する自信はなく、かと言ってブサメンとか言われればさすがにそこまでではないと即座に否定できる、そのくらいの特にこれといって特徴があるわけでもない凡庸な容姿。
キャラメイクできるなら美形にしてほしかったな。でも、そういえば、容姿に関するダイスは振ってなかったっけ。ということは、この世界では基本的に転生前の容姿のままってことなのかな。
まず自分の容姿を確認した僕は聖書を改めて隅々まで読む込むことにした。世の中にはとりあえずやってみてやり方を理解する人間と、最初にしっかりやり方を把握してから挑む人間とがいるが、僕は基本的に後者だ。特に、こういうやり直しがきかないようなことに挑む場合はなおさらだ。
そして、しっかりと聖書を読み込んだ僕は、まず武器防具屋に向かい、装備を整えた。
購入したのは扱いやすいショートソードと、スモールシールドと呼ばれる小型の盾、そして革製の鎧だ。ちみなに、鎧といっても戦国時代の武将や西洋の騎士のようなガチガチの鎧ではない。胸や背中や主要な部分を守る程度の軽装の鎧である。ショートソードも護身用程度のつもりで購入している。なにしろ生命力4なので、戦闘自体回避していきたい。僕が戦うという状況になってる時点で大ピンチなのだから。
ちなみに、ショートソードが11,000ゴールド、スモールシールドが6,000ゴールド、革鎧が42,000ゴールドであわせて59,000ゴールドの出費となった。そのほかにも、聖書に、背負い袋、水袋、毛布、たいまつなど冒険に必要な基本的な道具が書いてあったのでそれをも購入した。その結果、僕の残りの所持金は12万円となってしまった。命を守るためなので仕方がないとはいえ、なかなか痛い出費である。
ともあれ、準備を整えた僕は仲間探しと仕事探しのために冒険者ギルドへと向かうことにした。
冒険者ギルドは簡単に見つかった。街の中央のわかりやすいところにあったからというのもあるが、初めて見る文字なのに読めてしまっていることが大きい。学者スキルのおかげかとも思ったが、この世界の共通語については読み書きできるようになっていると聖書に書いてあったことを思い出した。ちなみに、学者スキルを取得すると、1レベルにつき1つ、共通語以外の言語の読み書きどちらかを習得できるのだ。3レベルの僕は3つ習得できるわけだが、必要になるときまで何を選ぶかは保留しておくことにした。
それはともかく、冒険者ギルドに来た僕は年会費として10,000ゴールドを支払い、入会手続きを行った。ただ、ギルドといっても互助組織に近いようで、仲間の斡旋や仕事の斡旋などは基本的にしてくれないらしい。会費はこの店の利用料みたいなもののようだ。
店内には掲示板があり、パーティメンバーの募集などはメンバー募集用の掲示板に張り紙を貼ることで行われる。同様に、仕事の依頼も、依頼用掲示板に募集の張り紙が貼られる。依頼を受けたい者はそれを剥がして持って行き、張り紙に書いて依頼者と交渉を行うといった具合である。アニメの異世界もののように一人の冒険者に受付のおねーさんが丁寧に対応してくれるようなことはなさそうだ。なかなかにドライな世界である。
そんな中、冒険者ギルドの店の中で僕は今、パーティ募集の張り紙を見ている。生命力4しかない僕は一人で行動するには危険すぎる。冒険者ギルドで何か仕事を探すにしても、戦いのできる仲間が絶対に必要だ。そう思ってメンバー募集の張り紙を見ているわけなんだけど……
『魔術師募集、初心者でも歓迎。経験豊かな戦士が必ず守ります』
『戦士募集中、手厚い魔法で支援保証します』
『盗賊募集。こちらは戦士二人、魔術師、精霊使い、神官のパーティです』
どの張り紙を見ても学者を募集しているものがないんだ!
だけど、これはよく考えてみたら当たり前のことだった。
戦闘に役に立たない学者を必要とする理由があるのか? いや、ない。
逆に僕が他のメンバーを募集したとしても、学者1人のところに来てくれる戦士や魔術師がいると思うか? いるわけないじゃないか!
今更になって学者を選んだときのGMの表情の意味が理解できてきた。あれは、自分の知っているゲームを友達がしているときに、友達が明らかに間違った選択肢を選んだときに友達に向ける顔だ。ネタバレ禁止されていて、何も言えないが、顔に出てしまう同情と呆れと口に出さない悔しさが入りまじったようなあの顔。
……これ、詰んでないか?
僕は深くため息をついた。
僕と同じように張り紙を見ている冒険者がほかにもいるが、きっと彼らは僕と違って、自分にあった募集が見つけられるんだろう。羨ましい……
おや、その中に一人僕の目を惹く冒険者がいた。
ポニーテイルの透き通るような金の髪に、雪のように白い肌、そして尖った耳。自分と同じ人間でないことを本能的に感じてしまうそのいでたちと雰囲気。それはエルフの少女だった。
金属製の鎧を身に着けているところを見ると、エルフの戦士だろうか。エルフなら精霊使いのような魔法使いをイメージしてしまうが、あえて戦士を選ぶとは、ちょっと変わっている気もするが、学者を選んだ僕よりはよほどパーティメンバーに求められることだろう。
はぁ……
日が変われば、新しい募集があるかもしれない。もしかしたら学者の力が必要な依頼があって、一時的にでもそれをこなすために学者を募集するパーティが出てくるかもしれない。そこで僕が役に立つことを示せれば、依頼のあともパーティに残ってくれと頼まれ、晴れて正式にパーティ入りとなるかもしれない。
そんな期待をわずかに胸に抱きながら、僕は冒険者ギルドをあとにした。
しかし、次の日も学者を求める募集はなかった。
その次の日、またその次の日も……
この世界に来て1週間。僕は毎日冒険者に通い、ただパーティ募集の張り紙を見るだけの生活をしている。
この街では宿屋に1日泊まるだけで3000ゴールドが必要になる。食事は節約のため1日2食にしているが、それでも2食で1000ゴールド。つまり、1日暮らすだけで4000ゴールドも必要になるのだ。装備を整えたため、所持金13万ゴールドにまで減っていたのに、そこからさらに1週間で28000ゴールドも使ってしまっている。これはまずい、非常にまずい。このままではあと一カ月も暮らせないことになる。
こうなったら自分一人でも依頼を受けるか? いや、それはまずい、敵に出会ったらまじで死ぬ。せめて白兵戦のできる人が一人でもいてれくたら……
ふと隣を見ると、エルフの少女が同じように張り紙を見ながらため息をついていた。
彼女は僕がこの世界に初めてきたときにこの冒険者ギルドで見つけた子だ。あれ以来、何度もここで見かけているが、いまだにパーティが決まっていないのだろうか? 確かにエルフの戦士というのには違和感を感じるが、そこまで必要とされないものなのだろうか?
声をかけてみるか?
いや、でも学者の僕に声をかけられても向こうが困るだろう。
エルフの、しかも女の子に戦わせて、その後ろで僕は何をやるんだ? モンスターやパーティメンバーの鑑定でもしてるのか?
そういえば、人物鑑定のアビリティがあったんだった。彼女を鑑定できるかな?
やってみるか。人物鑑定っと……。
僕の手の中に突然2つのダイスが現れた。
そういえば、TRPGのような世界とGMが言っていたな。ということは、このダイスを振ってアビリティの成功度を判定するわけか。
僕はダイスを振ってみた。GMの前で振ったときと同じように、ダイスは空中を転がり、やがて停止する。出目は5と6。
かなりいい数字じゃないか!
そう思ったときにはすでに僕の頭の中に彼女のデータが飛び込んできていた。
【器用さ18、すばやさ20、筋力12、知力14、精神力10、生命力13】
エルフって力はないけど器用ですばやくて頭が賢いイメージだけど、彼女のステータスはそのイメージとはちょっと違うようだ。精神力よりも生命力の方が多いのとかは特に。この世界のエルフは僕のイメージとは違うのか、彼女が特別なのか。でも、生命力13かぁ。いいなぁ。僕の3倍以上あるよ……
【所持スキル:戦士スキル2 冒険者レベル2】
僕の学者スキルが高い上にダイスの出目もよかったからか、次々に彼女の情報が頭の中に入ってくる。
【身長155cm 体重44kg バスト78cm ウエスト55cm ヒップ80cm】
ちょっと待って……いいのか、こんなプライベートな情報まで知ってしまって。こんな情報知ってしまったら鎧の下の彼女の身体を想像してしまうじゃないか。やっぱりエルフだけあって華奢な身体なんだなぁ……
「どうかしましたか?」
僕がちょっとエッチな目でみてしまっていたのがバレたのか、視線に気づいた彼女がいぶかしげに声をかけてきた。
これはまずいかもしれない。許可も得ずに人物鑑定をして、体重や3サイズの情報を入手していたとか、ぶん殴られてもしょうがないようなことをしてしまった気がする。
「いえ、すみません。僕はここしばらくずっとここの張り紙を見てるんですけど、あなたも同じように前からここでパーティ募集の張り紙を見てるなと思って」
とっさに、嘘ではないけど、自分の後ろ暗さを隠すために彼女を見ていた理由とは違う理由を口にした。
「……はい、そういえばお兄さんもそうですよね」
「あはは、そうなんですよ。生命力が4しかない上に学者スキル3とかとってしまって……どこにも入れてもらえそうなパーティがなくてどうしたものかと思ってたところなんです」
事実だが、自分で言って悲しくなるな、このスペックは。
「うふふ。あ、ごめんなさい、笑ってしまって。お兄さんにとっては笑いごとじゃないですよね。生命力4なんて死活問題でしょうに。……でも、私も同じようなものだから、なんだか仲間みたいに思ってしまって」
そう言って僕を見る彼女に青くて大きな瞳は、少し物悲し気だったけど、その奥に優しさの光を感じて僕はついつい彼女に引き込まれてしまう。
「私もエルフなのに知力や精神力が低くて……。精神力なんてたっての10しかないんですよ。エルフの中では最低クラスみたいなんです」
それに負ける精神力9の僕って一体なんなんだろう。ふとそんな思いが浮かんだが、とりあえずその思いは振り払う。
「でも、筋力や生命力はエルフにしてはかなり多くて、筋力12に、生命力が13なんです。だから、魔法系スキルは諦めて戦士スキルをとったんですけど、エルフにしては高いというだけで、ほかの冒険者の人に比べたら全然で……戦士系を募集しているところに行っても、能力値を言うとどこも断られちゃって……。この世界でも私って役立たずのままなんだなーって思ったりしちゃって……」
この世界で「も」か。彼女もこの世界に転生するまでいろいろあったんだろう。だからこそ、僕のようにこの新しい世界での冒険にいろいろと夢を描いていたかもしれない。でも、その冒険の舞台に一歩踏み出す前にまた挫折を感じて……こんな世界でいいのか? 能力値だけで価値を決められてしまうなんて、前の世界と変わらない。いや、それ以上に不条理な世界なんじゃないか? ……そんな世界はいやだ!
「役立たずなんかじゃないですよ!」
僕は思わず叫ぶように強く言っていた。
「能力値で決められてしまう世界なんて絶対におかしいです! 僕なんて精神力9で生命力4なんていうクソみたいな能力です! でも、まだこの世界を諦めてないです! こんな能力値でもこの世界を変えられるくらいのことができると信じてます!」
彼女に向かって言っているが、それは自分自身に言っている言葉でもあった。そうだ、僕たちはクソみたいな能力値で生まれてしまったかもしれないけど、だからといって生きることを否定されたわけじゃない!
「あなたの力は絶対にパーティの役に立ちます! 僕は精神力も生命力も低くて、戦えるスキルも持ってないけど……だからこそあなたみたいな人が必要なんです! ……僕とパーティを組んでもらえませんか? 僕は戦闘では役に立てないかもしれないけど、ほかにも一緒に冒険をしてくれる人を絶対に探してみせます!」
気が付いたらエルフの少女をパーティに誘っていた。自分が人を誘えるほどの能力もスキルも持っていないことはわかってる。でも、同じような思いをしているこの人とパーティを組みたい、分不相応かもしれないけどそう思ってしまったんだ。
「…………」
彼女は無言のまま初めて告白された女の子のように顔を赤くして上目遣いで僕を見つめている。
さっきのはある意味告白と言えるかもしれない。いや、なにこれ。返事待つ時間すごく長く感じるんだけど。告白の返事待つのと同じくらい緊張してる。断られたらマジ落ち込む。三日は宿屋に引きこもらないと立ち直れない気がする。
「わ……」
彼女がようやく口を開く。「わ」ってなんだ。わけわかんないこと言うなって冷たい目を向けられるのか? そうなったらマジ死ねる。
「私でよければよろしくお願いします……」
照れながらそう言ってくれる彼女の顔を僕は一生忘れないだろう。可愛すぎて死ねる。ああ、どっちみち僕は死んでしまう運命だったか。
「ほ、本当ですか! 僕、全然戦闘では役に立たないと思いますよ!?」
彼女の手を掴み、彼女の言葉を確かめる。
「はい! こんなことで嘘は言いませんよ。役に立つって言ってもらえたの、ホントにうれしかったんです。……こんなでも私は戦士なので、戦闘は私に任せてくださいよ。まだ戦ったことはないんですけどね」
彼女は本当に可愛い。後ろでまとめた金色の髪も、雪のような白い肌も、切れ長で透き通るような青い瞳も、小さい口も全部可愛い。でも、僕の能力値やスキルに文句も言わず、そんなたのもしいことを言ってくれる心がなによりも可愛い。
「ありがとうございます! 僕、絶対パーティの役に立ってみせますから!」
盛り上がりを見せるそんな僕ら二人の横にふいに影が現れた。
「あんたたち二人パーティか? エルフの戦士とそっちは……盗賊か?」
「いえ、僕は学者ですが……」
影の正体は身長180cm以上はあるような大男だった。悔しいけど顔はなかなかのイケメンだ。イケメンといってもジャニーズ系みたいなイケメンではなく、ヤクザ系映画に出てくるようなイケメンだが。しかし、そのイケメン大男は、ガタイのよさに似合わないローブに身を包み、杖を所持し、見た目だけは明らかに魔術師の格好をしていた。
「戦士と学者……変わった構成だが、魔術師はいないようだな」
「ええ、今二人で組んだばかりなので……」
大男の魔術師の意図がわからず、いぶかりながら答える。
「だったら俺を魔術師としてパーティに入れてみないか? 俺はこの世界に来たばかりで戦闘経験はまだないが」
まさか結成したばかりのこのいびつなパーティに自ら参加しようとしてくれる魔術師がいるとは思わなかった。魔術師はスキルポイントの消費が大きいせいか、どうも取得する冒険者は少ないようで、募集の張り紙を見ても圧倒的に魔術師募集が多い。その引く手あまたな魔術師が自ら参加しようとしてくるなんて渡りに船である。ただ、なぜそんな魔術師がわざわざ僕らとパーティをくもうとするのか、それがわからない。
僕は彼に気づかれないように人物鑑定をしてみることにした。手の中に現れたダイスを隠れるようにして振ってみる。ダイス自体は僕にしか見えないが、振る動作でなにかしてると勘繰られる恐れがあるからだ。
【器用さ14、すばやさ12、筋力18、知力12、精神力14、生命力16 所持スキル:魔術師スキル1 冒険者レベル1】
出目はよくなかったが、彼の能力を知るには十分だったようだ。にしてもうらやしまい能力だな。でも、この能力値なら魔術師じゃなくてどう見ても戦士向きだと思うんだけどなあ。
「魔術師が入ってくれるのは非常にありがたいんですが、いいんですか? こちらはエルフの戦士と、戦闘力のない学者のパーティなんですが」
「ああ、それは気にしない。ただ、一つだけ条件がある」
やはりか。わざわざこんなパーティに入ろうというんだ、なにか思惑があるに決まっている。もし、彼女に恋人になれとかそういう条件ならすぐに拒否してやる。組んだばかりのパーティだけど、戦闘以外では彼女を守るのは僕の役目だ。
「その条件とは?」
「俺が魔術師をやることに文句を言わないこと。俺に戦士をさせようなどとはしないこと。守れるか?」
「……は?」
予想していなかった条件が提示された。彼の能力的には戦士系スキルのほうが合うのは確かだが、人の取得スキルにわざわざ口出ししようとは思わない。それにうちにはすでに戦士はいる。今欲しいのは魔法系のスキル所持者だ。彼が魔術師をしてくれることを歓迎することはあっても文句などいうはずがないではないか。
「そんなこと言うつもりは全くないですが……むしろ魔術師をやってもらえるのはありがたいですが」
「よし! ならば交渉成立だな。今日からよろしくな!」
なんだかわからないうちに3人目のパーティメンバーが決まってしまった。彼が物理攻撃に向いた能力値にもかかわらずあえて魔術師スキルを取得していることには何か事情があるのかもしれないが、人それぞれいろいろあるのだろう。そこには触れずに、魔術師がパーティに加わったことを素直に喜ぼうじゃないか。
「それじゃあお互いに自己紹介でも……」
「ねえねえ、お兄さんたち!」
僕の言葉を遮ってまた声をかけてくる人が現れた。
視線を向けるとショートスピアを背負い革鎧を装備したショートパンツの女性だった。なんというか鎧を着ていても胸の大きさやスタイルの良さがわかる。
「お兄さんたちのパーティには神官スキル持ちがいないみたいだけど、ボクをパーティに入れてみないかい?」
ナイスバディの上ボクっ娘ときた。どれだけ属性を盛り込むつもりだ。
「ボクの所持スキルは神官スキル1と戦士スキル1。スキルはまだ高くないけど、回復魔法は使えるし、多少は戦闘もこなせるし、入れて損はないと思うんだけど、どう?」
とりあえず、僕はまた人物鑑定を試してみた。出目もいい数字が出た。
【器用さ16、すばやさ14、筋力14、知力16、精神力14、生命力17】
【取得スキル:神官スキル3、戦士スキル1 冒険者レベル3】
【身長160cm 体重54kg バスト85cm ウエスト60cm ヒップ86cm】
嘘は言ってないし、能力値もどれも平均値以上の優秀な数値だ。そのうえ、見た目通りナイスバディ。どうでもいいけど人物鑑定でここまで知れてしまうのはいいのか?
「僕らは3人とも初心者ですけど、そんなパーティでもいいんですか?」
「問題ナッシング♪ ボクだって初心者だからね。ただ、ボクの仕える神様の信者になってくれとは言わないんだけど、できたらちょっとで信仰してもらえたらうれしいな~って」
少し気恥ずかしそうに彼女は言ってきた。前の世界なら信仰を求めてくるような人を相手する気にはならなかったが、この世界は本当に神様がいて、魔法という力で現実的な力として示される。神様を信仰することの意義は前の世界とは比べられないくらい重要なことだとも言える。
ついでに言うなら、聖書によると、この世界には神様が何柱も存在している。正義、戦い、愛、知性、幸運など様々なものを司る神様がいるのだ。神官スキルを取得すると、自分が仕える神を選択肢、それぞれの神様に応じた特殊な神聖魔法も使える。正義の神なら相手の嘘を見破る神聖魔法、戦いの神なら戦闘時に能力を向上させる神聖魔法など、その神の神官しか使えないかなり強力な魔法が使えるため、どの神に仕えるのかは非常に重要な選択と言える。
「それでお姉さんはどの神様の神官なんですか?」
「えっとね、ボクはね……トト様の神官なんだよ」
さっきまであんなに信仰するように言っていたのに、なぜかお姉さんは少し言い淀みながら答えてくれた。でも、トトなんて神様、聖書に載ってたっけ? 神官はあまり選ぶつもりなかったからそこまで詳しくは読んでなかったけど、主要な神様の中にそんな名前はなかったような……。元の世界ではエジプトの神様にそんな名前の神様がいたはずだけど、さすがにこの世界の神様とは関係ないよね。
「そのトト様は何の神様なんですか?」
いろいろ考えるより聞いたほうが早いと思い、僕は素直にそう尋ねた。
「ん~とね、トト様はね、……トイレの神様なんだ」
お姉さんは今まで以上に照れくさそうに神様の正体を教えてくれた。トイレの神様……そんなのいたんだ。トト様かぁ……toto様……ん、TOTO?
「便器の神様?」
「便器じゃないよ! トイレの神様だよ! 最初に神様が集まって、誰が何を司るか決めるときに、誰もトイレの担当をしたがらなくて困ってたときに、トト様は自ら進んでトイレを引き受けたとても徳の高い神様なんだよ! その話を聞いて、ボクが仕える神様はトト様しかないって決めたんだ!」
さっきまで照れくさそうにしていたのが嘘みたいにお姉さんは熱弁をふるった。その熱さだけでも彼女がとてもトト様を尊敬していることが伝わってくる。
「ごめん、ごめん。別にトト様のことを悪く言ったつもりはないんだ。ちょっと転生前の世界のことを思い出しただけで……。ちなみに、トト様の特殊魔法はどんなのなの?」
「んーと、トト様の特殊魔法は、トイレが水洗化してお尻の水洗いもできるようになるんだよ」
「すごいです、トト様!」
お姉さんの言葉に一番に反応したのはエルフ戦士だった。
「確かに、いい魔法だな」
大男の魔術師も追随する。
確かにこの世界に来てからのトイレは、宿屋に設置してあるものでも汲み取り式だった。最初は使い方もよくわからず戸惑ったものだ。それがもしウォシュレット付きの水洗トイレになるとしたら……
「僕も今日からトト様を信仰します」
今ここに初心者4人の新パーティと、トト様の新たな信者が3人誕生した。
パーティを結成した僕らだったが、まだお互いの名前も知らない状態であったため、お互いに自己紹介をしあった。
最初に仲間になったエルフ少女の名前はリーシャ。年齢は16歳。エルフといえば寿命が長く、見た目は少女でも実は数十歳といった話をよく聞くが彼女は見た目通りの年齢だった。本当のエルフは長命というわけではないのかとも思ったが、彼女の話によると長命なのは間違いなく、彼女の年齢くらいまでは人間と変わらない成長をし、ここからの成長というか老化スピードがどんどん遅くなっていくらしい。ついでに言うと、彼女はキャラクターメイクでエルフになったわけではなく、転生前も本当にエルフだったそうだ。エルフのいる世界で死んだあとにこの世界に来たということであり、僕がいた世界とは別の世界から来たということだ。つまり、この世界に来ている冒険者は僕がいた世界からの転生者だけでなく、いろいろな世界から来ているということになる。
彼女の肌は白く綺麗でまるで雪のようだ。長い髪は透き通るような金色で、後ろでまとめてポニーテイルにしている。彼女が首を動かすと、まさに「ふわぁっ」という表現がふさわしいようにポニーテイルが柔らかく舞い、そのときの香りを感じると得も言われぬ気持ちになってしまう。また、彼女の瞳は青く、切れ長のその目は憂いを帯びているようでとても儚げだ。鼻は細く高く、小さな口は可愛らしくてたまらない。その容姿は、妖精だと言われても信じてしまうくらいに幻想的な美しさをたたえている。
所持スキルは人物鑑定の通り、戦士スキル2。装備は、武器は細身で先が尖った剣、いわゆるレイピアというやつだ。小型の盾、いわゆるスモールシールドも持っている。鎧は革をベースに局所的に金属を組み込んだ簡易的な金属鎧だ。フルプレートメイルと呼ばれる全部が金属の鎧に比べて防御力は劣るが、金額的には安くて済む。初心者冒険者としてはむしろ頑張って購入したといえるだろう。ちなみに、いわゆるビキニアーマーを身に着けている人はこの世界にきてから一人も見ていない。肌を露出させておくなど、現実的に考えて無謀すぎる。彼女も鎧の下のウェアは長袖で極力肌は露出させないようにしている。ただ、下半身は黒レギンスに同じく黒のミニスカートを穿いているあたりに、可愛さを求める女の子としてのプライドを感じてしまう。
次に仲間になってくれたのは大男の魔術師メンディー。人間の男で年齢は17歳。所持スキルは魔術師スキル1のみ。魔術師は詠唱時の動作に影響があるため、重い防具を身に着けられない。そのため彼の装備はグレーのローブと、魔法発動に必要な杖となっている。ちなみに、身長は188cmで、体重は90kgだそうだ。本当に魔術師にしておくのはもったいない肉体である。
顔も彫りが深くワイルド系のイケメンだ。ただ、いつも怒ったような険しい顔をしているのがもったいない。実際には怒っているわけではなく、デフォルトがこういう表情のようだ。
最後に仲間になってくれたのはボクっ娘神官のニア。年齢は18歳。パーティ内では彼女が一番年上だが、年上のお姉さんという感じはなく、同級生のようや気安さで接してくれる。また、彼女の髪は少し赤味がかっており、ナチュラルボブなその髪型は彼女の性格にも合っている。瞳は猫のように丸く大きくよく動く。鼻は低目だが逆に彼女にはそれが似合っている。小さな顔のわりに口は大きく、笑顔がとても印象に残る。
防具は僕と同じように革鎧を身に着けていて、武器は、比較的短くて取り扱いやすいショートスピア。リーシャがミニスカートをはいていたのに対して、彼女は黒のレギンスの上に青のショートパンツを穿いている。おそらくこの世界では冒険者の生足を見る機会はないのかもしれない。
わざわざ自分について説明するのもおかしい気がするが、皆が自己紹介してくれた流れもあるし、自分のことも改めて確認しておくことにする。
僕の名前はショウ。この世界で漢字を使うことはないだろうし、この世界では苗字もないみたいなのでそのあたりは省略しておく。ちなみに、苗字やファミリーネームがないと名前が同じ場合識別できないため、この世界では普段、○○村のショウ、○○王国の近衛騎士のショウ、冒険者なら○○パーティのショウや、名を上げた冒険者はドラゴンスレイヤーのショウなどと2つ名で名乗ったり呼ばれたりすると聖書には書いてあった。
話を自分の話に戻そう。身長は170cm、体重は60kg。所持スキルは学者スキル3。ステータス的には知力18がキラリと光る。生命力が全人類の理論的な最低値である4しかないという問題的はあるが、まぁ、そのあたりは個性と言えなくもない。
ちなみに、僕が最初にリーシャに声をかけたという理由で、このパーティのリーダー(仮)ということになってしまった。リーダータイプだとは自分ではまったく思わないが、成り行き上仕方あるまい。
なお、パーティ名も僕が決めることになり、フォーアローズと名付けた。4人パーティということで、毛利元就の三本の矢を超える四本の矢となろうということで名付けた。僕の生命力が4しかないという隠れた意味もあったりする。
とにかく、ここにこの世界で初めて僕が結成したパーティ、フォーアローズが誕生したんだ!