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【第1話 僕の生命力はたったの4!?】

【第1話 僕の生命力はたったの4!?】


 死んだ。


 あっさり死んだ。

 まさか学校の屋上の手すりが錆びてボロボロになってるとは思わなかった。手すりに力をかけてもたれかかっただけなのに、そのまま手すりごと屋上から落ちるとは思わなかった。

 でもまぁ、それはいい。


 ……いや、よくはないけど。

 ただ、それよりも問題なのは、死んだはずの僕の前に神様(?)がいるということだ。


「神ではないGM(ゲームマスター)と呼んでくれ」


 何もない空間に浮かんでいる僕。その僕の前には光を帯びた人影一つ。その神々しさに顔も服装も認識することはできない。そんな存在を神様以外の何だと言うんだろうか。しかし、その神様然とした存在は、自らをGMと名乗った。


「そのGMさんが僕に一体何の用なんでしょうか? 多分、僕は死んだと思うんですけど」

「確かに君は死んだ。しかし、16歳というその若さで死ぬのはあまりにももったいないし、やり残したことも多いだろう。そこでだ! 新しくファンタジー風の世界で再び人生を送ってみる気はないか?」


 これはあれだ! いわゆる異世界転生というやつだ! まさか例のあれが現実に僕に起こるとは!

「はい! ぜひお願いします!」

 僕は二つ返事で承諾する。

「ラノベやアニメではいくつも見てきたけど、まさか自分にこんな機会がくるとはさすがに思ってませんでしたよ! チート能力をもらって、女の子のハーレムを築くやつですよね! 人生勝ち組ってやつですよね! 成績は中の上、運動も人並みにはできるけど体育祭で活躍できるほどではないし、容姿も悲観するほどではないけど、バレンタインに女子からチョコレートをもらえるほどではない。そんな僕がついに主人公になるときが来たんですね!」

 興奮して早口になってしまう僕。しかし、GMは呆れた顔をしながら冷めた言葉を向けてくる。

「いやいや、そんな異世界転生があるわけないだろ」

「でも、ラノベやアニメでは……」


「ラノベと現実を一緒にするな」


 説得力はあるが、なぜか釈然としない言葉を向けられ、僕は黙るしかなかった。

「君はテーブルトークRPG、いわゆるTRPGというものを知ってるか?」

「ええ、友達と何度かやったことはありますが……」

 それがどう関係あるのかわからず僕は戸惑う。


 TRPGとは、ゲーム機などを使わずに、紙や鉛筆、サイコロなどを使って、人間同士で会話しながら、ルールブックに記載されたルールに従って遊ぶ対話型のRPGのことだ。本来、RPGとはこのTRPGのことを指していたけど、日本ではゲーム機で遊ぶコンピューターRPGのほうが流行ったために、RPG=コンピューターRPGと認識されるようになったという話を聞いたこともある。


「君が転生するのはそのTRPGのような世界だ。その世界では、君のように理不尽な死を迎えた者が、冒険者として第二の人生を送っている。君も彼らと同じようにその世界で生きることになる。その世界ではダイスがすべてを決める」

「ダイスですか?」

 ダイス、わかりやすく言うとサイコロのことだ。確かにTRPGではダイスを振って行動の成否を決めたりするが、ダイスがすべてを決める世界というのがイマイチピンと来ない。

「というわけで、さっそく君の能力値をダイスで決めよう」


 GMが指をパチンと鳴らすと、僕の目の前の空中に1~6の目が刻まれたダイスが4つ現れた。

「それが君の能力値を決める運命のダイスだ。そのダイスを手に取ってくれ」

 戸惑いながらも僕は言われるままに4つのダイスを手に取る。


「まずは器用さを決めてもらおうか。器用さは、攻撃を当てられるかどうかや、罠を外したり設置したりとか、手先を使った行動の成功率に影響する能力だな。さぁ、ダイスを振ってみたまえ」

「はぁ……」

 GMの言うことがイマイチ理解できないまま僕は4つのダイスを空中に転がした。ダイスはそのまま空中に停止する。


 出目は、2、3、4、5の合計14。

 ダイス1つの平均値は3.5だから、4つの場合の平均値は14。平均的な能力しかない僕らしいダイスの出目と言えた。


「14か。まぁ、平均値だな。可もなく不可もなくといったところか。次はすばやさだ。これは移動力や攻撃の回避率に影響する能力だな。さぁ、振った振った」

 うながされ、僕はまたダイスを振る。


「ふむ。すばやさは15か。平均値よりはちょっと高いが、とりたててどうこういうほどではないか。次は筋力だ。攻撃の威力に影響する能力だな。筋力が高いほど、重い武器や防具を装備することもできる。前衛をやるのなら重要な能力だぞ」

 男なら高い筋力には憧れる。ここはいい目を出しておきたいところだ。僕は気合いを入れてダイスを転がす。


「うーん、13か。平均値以下だな。前衛をやるには少し物足りないかもな」

 GMに言われるまでもなく僕もそう思ってがっかりしている。

「次は知力だ。知力は知識を活かした判定に影響する能力だな。魔法使った場合の成功率や威力にも影響する」


 魔法! やっぱりRPGと言えば魔法だよな。これから転生する世界にも魔法があるらしい!

 僕は期待を込めてダイスを転がした。

 コロコロ。


 ダイスが示した数は、2、4、6、6の合計18。


「お、知力は18か。なかなかいい数値じゃないか。見た目によらず、意外と頭はいいタイプなのかな」

 見た目によらずは余計だと思いながら、少し誇らしい気持ちになる。テストの成績はよくないけど、頭自体は悪くないと自分でも思ってたんだよね。

「じゃあ、次は精神力だ。魔法への耐性に影響するし、魔法を使うと精神力を消費する。精神力がゼロになると気絶してしまうから魔法使いを目指すなら少しでも高い数値を出しておくべきだな」


 せっかく出した知力18。これを活かすために、魔法使いという選択肢はベストと言える。それに、ファンタジー世界といえば魔法、魔法といえばファンタジー。魔法使いなんて誰でも憧れる。魔法使いになるためにも、ここは少しでも大きな数を出しておきたいところだ。


「いい数字こい!」

 僕の期待と気合のこもったダイスが宙を舞う。


「……えーと、1、2、2、5の合計9と。残念ながら魔法使いをやるには低い能力だな」


 なんなんだよこのクソゲーは! 平均値が14なのに、9とかありかよ! 能力値一桁とかダメじゃん!


「最後に生命力だ。生命力がゼロ以下になると気絶状態になり、そこで生死判定が行われる。生命力の数値はその生死判定にも影響するから、とにかく高い方がいいな。生命力が低いと、すぐに気絶する上、生死判定でも失敗しやすくなるから、いろいろと大変なことになってしまうぞ」


 精神力が低くて魔法使いができないから、前衛をやるしかない。筋力が平均以下だから、アタッカーよりも生命力が高くて盾となれる前衛が理想だ。ここは少しでも高い数値を出すしかない。知力18に匹敵するような能力値来い!


 ダイスに念を込めて、僕は今まで一番高くダイスを放り投げた。


 綺麗な放物線を描いたダイスが出した出目は……


 1、1、1、1。


「…………」


「いやぁ、まさか1296分の1の確率でしか出ない1のぞろ目をここで出すとは」

 GMが驚きの顔を浮かべている。

「私も長いこと見てきたが、生命力でこれを出したのは君が初めてだな。まさか最低値の4を出すとは。んー、なんというか……まぁ、がんばれ」


 同情じみた目で見ないでほしい。


「振り直しとかはないんですか?」

「ない」

 泣きそうな顔でGMに尋ねてみたが、間髪を容れずに否定の声が返ってきた。


「生命力4とか、もう不具合のレベルじゃないんですか!? 最低値の保証とかそういうのないとダメなんじゃないですか! 生命力4で、精神力も低いとか、どうやって生きろって言うんですか!?」

 溜め込んだ想いが一気にあふれ出した。相手が得たいの知れない存在だったから遠慮していたが、もう遠慮もクソもない。しかし、そんな僕に返ってきたのは……

「……がんばれ」

 両手で肩を強くつかまれ、まっすぐ目を見ながらそう言われてしまった。

 ああ、これはもうどうしようもないんだ。その目と肩に感じる力の強さでそのことを痛感した。



「改めて整理をすると、君の能力値は、器用さ14、すばやさ15、筋力13、知力18、精神力9、生命力4となった。思うところはいろいろとあるだろうが、次に君が決めるのはスキルだ。君には初期のスキルポイントが3000ある。それで必要なスキルを取得してくれ。すべて使い切らず、将来に備えて残しておいてもいいぞ。詳しくはこの聖書(ルールブック)を読むといい」


 僕が落ち着くのを待ってからGMはそう説明し、一冊の本を渡してきた。

 僕は力なくその聖書を手に取ると、受け取った聖書(ルールブック)を開いた。この聖書(ルールブック)には、TRPGのルールブックのように、新たな世界で生きるのに必要かつ有効な情報が細かく書かれていた。生命力4の僕が生きていくには、誰よりもこの聖書(ルールブック)を極めるしかない。僕は目を皿のようにして必死に聖書を読んでいく。


 聖書(ルールブック)によると、スキルとはゲームで言うと職業やジョブのようなもののようだ。


 まず目についたのは白兵戦闘系のスキルだ。戦士スキル、騎士スキルなど、いろいろと種類があるようだ。


 戦士スキルは、すべての武器を扱うことができ、攻撃にも回避にもボーナスが付く。ちなみに、戦士スキルがなくてもどんな武器でも使うことができるが、その場合には攻撃や回避にボーナスはつかない。


 騎士スキルは戦士スキルと違い、剣とランスの扱いに長けていて、これらを装備したときにボーナスが付く。あとは、馬に乗りながらの攻撃が得意で、防御に特化したアビリティを使うこともできる。

 しかし、生命力が4しかない僕が全面に出て戦闘するなんてリスクしかない。というわけで、白兵戦闘系のスキルは却下だ。


 盗賊スキルも戦闘に使える上、スキルを取得すると、罠解除や鍵開けなどアビリティを使うことができるようだ。だが、重い武器や防具は使えないなどの制限があるし、罠の解除に失敗してダメージを食らったらそれだけで死んでしまう可能性もある。というわけで、盗賊スキルも却下!


 白兵戦闘系スキルを選択肢から外すと、ほかの候補はやはり魔法系のスキルだ。まずは魔術師スキル。魔術師はマナと呼ばれる魔法元素を使って魔法を使う便利なスキルだが、スキルを取得するのに多くのスキルポイントを使用してしまう。防具も軽いものしか装備できないときた。こんなの敵から狙われるに決まってるよな。そもそも精神力が9しかないし、やはり却下。


 次は、精霊使いスキルだ。精霊使いは、魔術師と違い、精霊の力を使って魔法を使うスキルだ。魔術師よりは消費スキルポイントが少ないが、精霊がいないところではスキルを使えないという問題点があり、金属製の鎧も身に着けることはできない。これも魔術師と同じ理由で却下だな。


 あとは、神官スキルか。神の力を用いて魔法を使うスキルで、主に回復系の魔法が使えるが、回復要員なんて一番先に狙われるじゃないか! 却下だ、却下。


 そもそも生命力4、精神力9にぴったりのスキルなんてあるのか!?


 僕はさらに聖書(ルールブック)を読み進めていく。


 …………


 学者スキル? なんだかインテリジェンスな匂いがするスキルじゃないか。

 消費スキルポイントも、学者スキルの1レベルを取得するのにたった500ポイントしか使わなくて済む。ちなみに、一番スキルポイントを消費する魔術師スキルの場合は、レベル1取得に3000ポイントも必要になる。学者スキルの場合、2レベル取得で1000ポイント、3レベル取得で1500ポイントしか使わないから、3000ポイントあれば、一気に3レベルまで取得することができるぞ! 新しい世界ではスキルレベル以外にも冒険者レベルというものがあって、複数のスキルがあっても、その中で一番高いスキルのレベルが冒険者レベルとなるらしい。つまり、学者スキルを一気に3レベルまで取れば、いきなり冒険者レベル3から始められるということだ。冒険者レベルが高いと、この世界では格が高いということで一目置かれたり、受けるダメージを減らしたりなど、いろいろとメリットがあるみたいだ。さらに学者スキルがあれば、宝物鑑定や人物鑑定などのアビリティも使えるようだし、これってめっちゃよくない? こんなスキルに目をつけるとか、僕って冴えてる!


「よし! スキルポイントを3000使って、学者スキルを一気にレベル3まで取得します」


「え、……まじ?」

 GMがあ然とした顔を僕に向けてきたが、すでに僕の頭の中に学者スキル3という文字が浮かんできて、それと同時に学者スキルの知識が一気に流れ込んできた。今まで知らなかったことなのに、まるで以前から知っていたことのように学者スキルに関して一瞬で把握できてしまっている。すごいな、これ。GMの力なのか、それとも新しい世界の摂理なのか。


「別にいいけど……まぁ、がんばれ」

 感動している僕に向けられた投げやりなGMの言葉。僕はそれに言い知れぬ不安を感じてしまうのだが、気のせいだよね?


「あとは所持金として20万ゴールドを渡しておく。ゴールドはこの世界の通貨の単位だ。冒険者ギルドに行けば、仕事を紹介してもらえるし、君と同じような冒険者の仲間を見つけることもできるだろう。所持金が尽きる前に金を稼がないと食いものにも困ることになるから、頑張ってくれたまえ。それでは、君を我が世界に送らせてもらう。健闘を祈っているぞ」


 GMが言い終わると同時に、僕の身体が光に包まれていく。

 どんな世界が待っているのか今の僕にはまだわからない。きっと前の世界での常識が通用しないような世界なんだろう。そこには家族も友人もいない。僕が知っている人も、僕を知っている人もいないだろう。普通なら不安で押しつぶされそうになるのかもしれない。


 でも、今の僕は違った。

 不安がないと言えば嘘になる。

 けど、それ以上に、新しい世界で新しい自分として生きることにとても期待してしまっている。


 未知の世界に挑む冒険の心。それはきっと人間が持って生まれたものなのだろう。その心で人類は新たな世界を築き、ここまで発展してきた。僕もやっぱり冒険者という名の人類なんだ。



 光が大きくなり僕の全身を包み、光以外のなにも見えなくなった次の瞬間、光は消え、僕の目の前には見たことのない世界が広がっていた。


 それは簡単に言うなら、いわゆる西洋風ファンタジー世界。

 石造りの西洋風建築物が並ぶ街。その街の通りを歩く人も現代世界の洗練されたファッションとは異なり、皆質素な作りのもの。ただし、中には鎧のようなものを身に着けたり、多少奇抜な格好をしている者もいるが、おそらく彼らは僕と同じようにGMから送られた冒険者なのだろう。つまり、この世界には、元からこの世界に住んでいる住民と、異世界転生をした冒険者が共存しているということだ。


 んー、なんだかワクワクしてきたぞ!

 きっと、僕と同じようにこの世界に来て、ともに世界を探索する仲間を求めている人もいるはずだ! 仲間とともに数々の苦難を乗り越えて、財宝を手に入れ、世界を救う……考えただけで興奮する! 前の世界では想像はできても実際に体験することなんて絶対できないことが、この世界ならできる!

 身体が震える。怖いからじゃない。武者震いってやつだ。


 自分の興奮が抑えきれない。


 弾むように一歩踏み出すと僕は駆けだした。


 これが僕の冒険の世界なんだ!

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