ロシア、モスクワ大公国の皇女の結婚事情等について
最初にお断りしておきますが、この件については、私なりに最寄りの公立図書館で歴史資料を探したのですが、どうにも見つからず、結果的にネット情報に基づくエッセイになりました。
それ故にロシア、モスクワ大公国史に詳しい人からすれば、ツッコミどころ満載ですが、できる限り生暖かいご指摘を平にお願いする次第です。
16世紀、17世紀のロシア、更にその源流といえるモスクワ大公国史の皇女(大公女)ですが、私の調べる限り、同時代の中西欧史の王女とは異なり、外国の王族に嫁いだ例は極めて乏しいというより、無いと言っても過言ではないようです。
これはある程度は、当然というか、やむを得ない事情に基づく話でした。
そもそも論になりかねませんが、ロシア、モスクワ大公国は東方正教徒の国になります。
従って、結婚相手もキリスト教徒というより、本来は東方正教徒しか認められない話になるのです。
この辺り、21世紀の日本の感覚からすれば、何をズレたことを言っている。
宗教が違うならばまだしも、宗派が違うからと言って結婚できない話があるか。
実際、自分は〇〇宗だが、妻は××宗だった。
それでも何の問題もなく結婚して、〇〇宗の墓に一緒に入ると決めて、親族も納得している。
それが当たり前で、問題になった話等、周囲で聞いた覚えはない。
同じキリスト教徒である以上、例えば、東方正教徒とカトリックが結婚しても全く問題ない話だ、
と反論される方がおられそうです。
しかし、この辺り、この時代というか、東西教会が本格的に分裂したといえる11世紀半ば以降では極めて厳格な問題でした。
例えば、15世紀末にモスクワ大公イヴァン3世の娘エレナは、カトリック信徒のポーランド王兼リトアニア大公のアレクサンデルと結婚しましたが、エレナがカトリックへの改宗を拒み、東方正教の信仰を守ったため、ポーランド王妃としては認められませんでした。
そのために、幸か不幸か子どもに恵まれなかったために問題になりませんでしたが、仮に二人の間に子どもが産まれても、その子には王位継承権が認められなかった可能性が極めて高いと思われます。
(正式な結婚の間で生まれている子どもである以上は問題ないのでは、と言われそうですが。
例えば、サラエボ事件のオーストリア皇太子フェルディナンドは、正式に結婚していたものの、相手が伯爵家の娘だったため貴賤結婚として、子どもには帝位継承権がありませんでした。
このように正式な結婚だからといって、必ずしも子どもに王位継承権があるとは限らないのです)
そういった事情から、モスクワ大公国、ロシア帝国は皇女の結婚相手として、東方正教徒でない国王を選ぶわけにはいきませんでした。
そして、16世紀、17世紀において、東方正教徒の王国(?)といえるのは、モスクワ大公国、ロシア帝国のみといっても過言ではありませんでした。
つまり、モスクワ大公国、ロシア帝国としては、それこそ皇女の結婚相手として選べる国が無いと言っても過言ではなかったのです。
(勿論、皇女がカトリック等に改宗すれば別ですが、それは「東方正教の守護者」を自称するモスクワ大公国、ロシア帝国にしてみれば、宗教的に余りにもよろしくない話です)
では、国内の大貴族に皇女を降嫁させるというのは、どうなのでしょうか。
この頃のモスクワ大公国、ロシア帝国はイヴァン雷帝やピョートル大帝等のイメージから、ツァーリ専制と思われがちですが、実際にはかなり大貴族の力が強かったようです。
実際、リューリク朝断絶からロマノフ朝成立に至る間、ロシアは正当な後継者がいないということを主な理由に大貴族の対立やポーランド等の諸外国の介入があり、動乱時代に突入しています。
こうした現実を見ると、それこそ別の小説中で描きましたが、下手に国内の大貴族に皇女を降嫁させては、帝位(大公位)継承を巡る紛争が起きる危険を、モスクワ大公、ロシア皇帝は警戒せざるを得なかったでしょう。
それに、誰に降嫁させるか、ということだけでも大貴族の間で紛争が起きかねません。
そうしたことから、史実で言えばピョートル大帝の姉ソフィアが良い例ですが、モスクワ大公国、ロシアの皇女は基本的には結婚が許されず、モスクワのクレムリンにおいて、幽閉生活を基本的に送っていたようです。
(更には、幽閉だけでは済まず、修道院に送り込まれ、俗世から縁を切るように父や兄弟から、皇女が強制されることさえも、稀ではなかったようです)
別の小説で描いたイヴァン雷帝の皇女のアンナとエウドキヤは、史実では夭折しているようですので、実際には幽閉はされずに済んでいると私は考えますが。
真っ赤な嘘ではなく、それなりに史実を踏まえた上での嘘の描写ということでお願いします。
それにしても、この当時のモスクワ大公国、ロシア帝国の皇女が幽閉生活を送っており、修道院送りも稀ではなかったとは、私には気の毒でなりません。
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