式の準備〜5
〜sideバルザック〜
ルナとリュウちゃんの結婚式が決まり、その式場をカグラはギックリ腰やるまで気合い入れて整地した日から1週間。
祝い用の酒を準備していたウチは非常に張り切っているナザールとティアに捕まり、宴で出す獲物を狩る手伝いをさせられている。
いや手伝いに関しては別にいいんやけど………。
「ーーーーー別にウチいらなくないん?」
「…なにか言ったか?」
「いやなにも」
現在ウチらは極寒の大陸にいる。見渡す限り白い雪と氷の世界で生息する生物や魔物は厳しい環境下でより強靭で凶暴である。
………そして、素材や肉が非常に美味い。
「いやぁーー!!真っ白ですわねッ!!」
と元から真っ白なティアは吹雪に打たれながらそう叫んだ。遠くから見れば完全に保護色になり見えなくなるから出来れば黒い服でも着て欲しいがティアは頑なに着ようとはしない。
既に雪だるまになっている。
「…確かに白いな。防寒せねば長くは持たないだろう」
そう言うナザールはいつもの露出度の高いドレスアーマーでいる。
「いやお前が言うんかナザール。1番薄着で見ていて寒くなるわ」
「…お前は厚着のし過ぎだ」
「いやこれくらいが普通やろ」
ちなみにウチの格好は厚手のスノーウェアに手袋やニット帽などを着て完全装備している。
「というか、もうええんやないか?あまり狩り過ぎるんのもアレやで?」
「…いやまだ足りないだろう。ルナティアはよく食べるからな。それにイスチーナ様からは間引きも頼まれているだろ。食材も手に入り間引きもできる、まさに一石二鳥だ」
「まぁ、確かにそうやけど………」
ナザール曰くイスチーナ様に増え過ぎた魔物の間引きを頼まれたそうだ。この世界は何故かは知らないが『nightmarememory』に登場するモンスターが数多く生息している。
ちなみにこの1週間でナザールが狩った獲物は次の通りである。
外骨格が不壊鋼で出来た身がぷりぷりで非常に美味な体長20メートルの巨大蟹、アダマンキングクラブ。
数千単位で行動し、通った場所は食い尽くされて荒地に成り果てるあらゆる動物の美味い部分を凝縮させた悪食猪、テンペストヴィルトシュヴァイン。
根が届く場所ならばどこまでも成長し、果てには山をも喰らう食地植物で一生に一度なる実は時価数十億で取引される幻の花、星喰の果実。
普段は深海3万メートルの地点に生息し、その身には魚介類の旨味をたっぷりと蓄えており100年に一度産卵の為に浮上する体長600メートルの巨大サメ、グランオーシャンシャーク。
体長500メートル、体重60トンの群居性捕食動物で捕食した生物の見た目を模倣しその肉はまるで鯨の様な旨味がある化け物、ステルステイカー。
周りの環境を壊滅的に破壊し10年に1個しか卵を産まず、その身はあらゆる毒で侵されているが毒抜きすれば非常に美味で卵は滋養強壮に優れている巨大鶏、ポイズンビックチキン。
他にもおるが……まぁ、代表格はそんなところやろな。というか海産物多くない?
「………なぁ、ナザール?ひとつええか?」
「…なんだ?」
「この狩り……ウチいらなくないか?ティアはわかるんやけど、ウチいらないやろ。だから戻らせてくれへん?」
「…お前は荷物持ちだ。我々の中でルナティアに次いでアイテムボックスなどの収納系が充実しているだろ」
「…………………そんな理由で?」
「…?そうだが?」
………今、すんごくこの不思議そうに首を傾げる戦闘狂の顔を殴りたくなった。
「まぁまぁ、いいではないですかバルザック様。何事も適材適所ですわよ?」
と完全に雪だるまになったティアがそうほざいた。
「………………はぁ、さいですか」
ウチはもう諦めることにした。こうなったら最後まで付き合うまでやし。
「しっかし、これでようやくルナとリュウちゃんが結ばれるなぁ。めでたいことや」
「そうですわね……。彼方の世界では年齢とかの関係で式を挙げられませんでしたし、これで正式に結ばれるのは非常に喜ばしいですわね」
「…そうだな。……………………そうだな」
するとナザールは急に元気が無くなり、その場にしゃがみ込んだ。
「お、おい?どうしたんやナザー」
「…めでたいことはわかるがな。…………ただ、寂しいものがあるものなんだ。ルナティアが……妹が……離れていくのがなぁ………寂しいんだ」
「「……………」」
「…そりゃあもちろん祝いたいさ。ルナティアには幸せになってもらいたいからなぁ。…………ただなぁ、寂しいんだぁ。………腹違いで根暗でダメダメな私を『お姉ちゃん』って呼んで慕ってくれてなぁ。………私と同じくらい他人に関わるのが苦手で嫌な筈なのに率先して他人と関わろうとしたりなぁ。ーーーー」
とナザールは無表情でダバダバと涙を流しながらブツブツと独り言を呟き始めた。
…………これはここ最近ナザールに現れる症状であっちの世界でも発症していた。
あっちの世界でルナが死んでこちらの世界に来るまでの半年間、シスコン度が重症とまではいかないがそれに近い状態になっていた。
今では落ち着いて来ているがここ最近また再発している。理由は言わずもがな、リュウちゃんとの結婚だ。結婚すれば距離を置かなければならないとナザールは思っている様でルナが幸せになるのは嬉しいが、ルナが離れるのは寂しいといった感じで今の様に頭にキノコを生やす勢いで膝を抱えて無表情で大泣きしている。
「ちょっとどうしますの?ナザール様再発してしまいましたわよ?バルザック様が言い出したことですから早くナザール様を戻してくださいませ」
「いやお前も反応しておったやろ………。まぁ、いつ獲物が来るかわからんからしばらく放置しても…………」
とウチがそこまで言ったその時、遠くの方から何かが歩いてくる音と断続的な地鳴りが響いて来た。
「あら、来たようですわね。ナザール様、そろそろ復帰してくださいませ。お肉がやって来ましたよ!」
とティアがナザールの肩を叩いて呼びかけるも元に戻る気配がない。そうこうしているうちにどんどん近づいてくる巨大な影。
「おいナザールッ!!ルナとリュウちゃん祝いたいなら戻ってこんか!!アレはウチとティアでは仕留められん相手や!!早よう戻ってこい!!」
ウチはまだ泣いているナザールの頭を引っ叩きながらそう叫んだ。海ならばウチが活躍できるがここは氷点下の世界で水がない。だからここでは活躍できない。ティアは殲滅力に優れているが今回の獲物には相性が悪いのだ。
とそうこうしているうちに吹雪の中から今回の獲物が姿を現した。
それは全身を白く長い毛と雪で覆い尽くし、4つの長い鼻に片側3本計6本の長い象牙に見上げても背の天辺が霞んで見えない程巨大なマンモスだった。
コイツは『nightmarememory』で雪原ステージのフィールドボスとして中級者の登竜門として立ちはだかるモンスター、アイスエイジマンモスだ。
雪は天然の鎧として物理攻撃を弾き、長い体毛は攻撃の威力を半減する。魔法は雪鎧の時は火属性しか受け付けず剥がれると今度は火属性が効かなくなり、代わりに雷属性が効くようになる。しかし雪鎧は一定時間で再復活する為、非常にやりづらい相手だ。
しかも攻撃力も非常に高く、脚によるスタンプ攻撃には一定範囲内の味方を行動不能にする効果がある為なにも準備しなければすぐやられる。
そして、その身は極寒の地で生き抜く為に必要な脂肪が蓄えられており、全身に脂が乗っていて非常に美味であり、中でも1個体に数キロしか取れない希少部位の霜降り肉には最低金貨数百枚はくだらないそうだ。ちなみに魔王であるアリシアも食べたことが無いそうだ。
『バオオオォォォッ!!!』
アイスエイジマンモスはウチらを視認するなり、咆哮を上げて戦闘態勢を取った。
「ナザールゥゥゥ!?!?戻ってこいナザールゥゥ!?!?」
ウチがナザールに往復ビンタしてもナザールはぶつぶつ独り言言ったまま戻ってこない。
「チィッ、仕方ありませんわね!バルザック様ッ!!その使えない置物を連れて早く離脱を『『『バオオオォォォ!!?』』』ッ!?」
とその時、周りから別個体のアイスエイジマンモスの咆哮が響き渡り、辺りを見渡すといつの間にか3体追加されていた。
「…………あらあら。これは少しキツイですわね」
アイスエイジマンモスはイスチーナ様から間引きを依頼されているモンスターで複数体いることはわかっていたけど、まさかここに集まるとは…………
「…………しゃあない、ウチも参加するで。肉はボロボロになってまうけど、腹に入れれば同じや」
ウチは防寒具を脱ぎ去り、いつものフル装備に切り替える。
「……そうですわね。今回の目的は出来る限り傷付けずに捕獲するでしたが、複数体が相手では無理ですし間引きの件もあります故に。最悪、ハンバーグにしましょう」
とティアも自身の愛銃を構えて不敵に笑った。
アイスエイジマンモス自体はウチらにとって雑魚や。しかし、倒し方がスプラッタになり味が落ちる為参加しない予定だったが、ナザールが使いもんにならん状態やから仕方ない。
そうしてウチとティアが乗り出そうとした次の瞬間、雪原一帯に強烈な殺気と圧力が発生した。
一瞬のうちにウチとティアは地面に縫い付けられて恐る恐る振り返るとそこには仁王立ちしたナザールがいた。そして…………
『ーーー大人しく逝け、獣ども』
と『覇王の威圧』をMAX手前まで一瞬開放してそう地の底から響く様な声で呟くとアイスエイジマンモスは白目向いてぶっ倒れた。そしてそのあとナザールは自身の剣を手に取り、空に向かって振るうとたちまち吹雪は強制的に晴れた。
「「……………………………」」
あまりに非常識な光景に唖然とするウチら。
「…さて、これで間引きは済んだ。あとは回収だけだ。バルザックとティアムンクは血抜きを頼む。私は遠方のやつを回収してくる」
ナザールはそう言ってスタスタと所々に点在する小山に向かって歩き出した。
「…………………ひとつよろしいでしょうかバルザック様」
「……………なんや?」
「私達って……………必要でしょうか?これ」
「必要ないじゃろ。ウチらは荷物持ち兼雑用係として同伴を強制させられたんやから」
「なるほどそうですか。………………………」
「…………………血抜きするで」
「……………はいそうですね」
そうしてウチらは黙々と血抜きしては自身の《アイテムボックス》に詰め込んでいく作業を始めたのであった。
漫画のトリコを読んでいたら思いついた話です




