再会
魔王であるアリシアと協力関係となった私はアリシアの案内で魔王領にやってきた。
魔王領は黒鳥が辺りを飛んだり、真っ赤な月が辺りを照らしてたりとそんなわけではなく、切り拓いた森に魔王城を中心として城下町が広がっている平和的な場所だった。
城下町に入り、アリシアの城に向かって歩いている時に私の後ろには人型に戻ったミラと10人の妹達、それと双子にしか見えない大鎌持ちの銀髪美少女の屍龍が2人いる。
流石に元の姿では色々と問題があるしね。
「ルナティア達の居住地は城の離宮にしてもらう。少し狭いとは思うが勘弁してくれ」
「構わんよ。居場所を提供してもらったのじゃ。我から苦言を言うのは筋違いというものじゃ」
「そう言ってくれるならありがたい。さぁ、ここが離宮だ」
気づいたら離宮に着いていた。離宮とだけあってもはや豪邸だった。地域の特色なのか近くの魔王城も離宮も真っ黒だった。
「ーーーー陛下ッ!!」
なんだか切羽詰まった様な声が聞こえて見てみると羊頭の男が息を切らして走ってきていた。
「ご無事でしたか!戦場で非常事態が発生したと通達がありました故に心配で……………誰です?この方々は」
羊頭の男は私たちの存在に気づいた様で意識を向けた。
「彼女はルナティア・フォルター。戦場の荒地に召喚されたイスチーナ様の眷属だ。人探しをしていて、その拠点として離宮を貸し出すことにした」
アリシアはそう言って私の肩をポンッと叩いた。
「ルナティア・フォルターじゃ。ヌシらから見て異界からの来訪者じゃ。住まわせてもらう代わりに我が出来ることならなんでもやるぞ。よろしく頼む」
「ど、どうも。私は魔王軍参謀兼宰相を務めているバロメッツと申します。以後お見知りを」
私は彼の名前を聞いて済んでのところで吹き出すのを堪えた。
バロメッツとは羊が実る不思議な植物で『nightmare memory』では食材アイテムであった。その見た目は物凄く彫りの深い勇ましい羊の顔に赤い配管工でお馴染みの土管から生える花の茎と葉を持っていた。ちなみに食べると何故か蟹の味がした。
後ろのミラも同じことを考えたのか唇を噛んで笑いを堪えていた。
「…………?如何なさいましたか?」
私たちの挙動に不審に思ったのかバロメッツさんは不思議そうな顔で聞いてきた。
「い、いやなんでもない。少し、聞き覚えのある名だった故……気にしないで欲しい」
「は、はぁ……?」
流石にあんたの名前が食べ物と同じなんだよとは言えない………。
「それでバロメッツ。非常事態というのは戦場に魂喰いの王と屍龍が現れたことか?」
「えぇ、そうであります。ということはルナティア殿の後ろにいるのが…………」
ずいぶんと察しのいいバロメッツさんは青い顔をしてミラ達を見た。
「そうじゃな。我の後ろに控えておる銀髪メイドが魂喰いの王、大鎌持ちの双子が屍龍、あとの10人は全員魂喰いじゃ。全員、我の契約獣であり忠誠を誓っておるよ」
「我々からしたらその時点で非常識なんだが……、実際に目にすると信じざるを得ない」
アリシアはずいぶんと疲れた様にそう言った。
その後、ささやかな歓迎会を受けて一通り顔合わせをした後、私は離宮で1番広い部屋のベットで眠りについた。
どうやら気を張っていた様ですぐに眠りは深くなっていった。
***
気づいたら真っ白な空間にいた。
宙に浮いているようで、地面に縛りつけられてるような、どこまでも見通せる程に広いようで、異様な程に狭いようなよくわからない場所。
私はここに来たことがあった。
『ハロォー!さっきぶりだねルナティアちゃん!みんなの邪神様、イスチーナ様だよ☆』
「さよなら」
私はそのムカつく挨拶をかましたイスチーナ様から背を向けてスタスタと歩いた。
『待って待って待って!?ちょっと待って!?話を聞いてよ帰らないでぇ!!』
イスチーナ様は私の腰をガシッと掴むとそう叫んだ。
「…………………で?何の用?」
私は埒があかないと立ち止まって話を聞くことにした。
『よくぞ聞いてくれた!君にとって喜ばしくて人間にとっては絶望的な話さ』
「早く結論を言え。私は気が短いんだ」
『わかったわかった………。君の友人達と恋人の転移が明日から始まるよ』
「ーーーーーーーーーーーーーはぁ?」
私はイスチーナ様が言った意味が理解出来なかった。いや、理解できたが早すぎないか?前は早くて1ヶ月だったのに……。
『君の疑問はよくわかる。説明するから聞いてね?』
そうしてイスチーナ様は説明を始めた。
イスチーナ様によると私を早くも危険視したナシアナが召喚途中だったみんなをイスチーナ様から横取りして自分の眷属にして強制的に私と戦わせようとした。
しかし、全員が私の時と同じく相性最悪で加護どころか洗脳すら弾き返してその後、ナシアナを全員でタコ殴りのボコ殴り祭りをして気が済んだ奴からナシアナに強制的に開かせた扉から私がいる異世界に向かったそうだ。
『ほんと君たちって何者なの?ナシアナは中級だけど神だよ?そんな神をタコ殴りとか有り得ないかね?』
「そんなの知らん。ゲームで神様とか色々とやばい奴ら相手に戦ってきたから、そっからじゃない?」
私たち『七大罪龍』は毎日刺激を求めて色んなのに喧嘩をふっかけてきた。レイドボスだったり、世界に数体しかいないワールドボスだったりだ。
『あぁ…………なるほど。ゲームのアバターのまま転生させたから神殺しの力も残っていたってわけか…………それなら仕方ないか』
イスチーナ様は納得した様にうんうんと頷いた。
『まぁ、これは追々だね。というか今もナシアナに馬乗りして殴っている子がいるんだけど、止めてくれる?ずっとここにいるとまずいからさぁ』
「わかった。誰がいるの?」
『それは見てからのお楽しみ♪』
そう言ってイスチーナ様は空間に人が通れるくらいの穴を開けた。穴が開いた直後、凄まじい熱の奔流がなだれ込んできた。
『うわぁ……………すごいなこれ。相当頭にきているみたいだね。………ん?え、ちょっとッ!?』
私は業火の熱の奔流の中を突き進む。火炎完全耐性と炎熱完全耐性を持っている私にとってはサウナの中にいる様なものだ。
見渡す限りの業火。全てを焼き尽くさんとばかりに燃え上がるその光景はあの子の心象を映し出している様だった。
───ドジュッ───ドジュッ───
断続的に聞こえてくる奇妙な音。それは打撃による音と肉を焼いた音が合わさった物だった。
───ドジュッ!───ドジュッ!───
一定の間隔で絶えず鳴り響く音。私はようやく音の出どころである業火の中心部についた。
そこには全身を酷い火傷を負わされた人型とその人型に馬乗りになって顔部分を両手拳を使って殴打する灼髪の少女がいた。
「─────雛?」
私がそう声をかけると灼髪の少女はビクリッと体を震わせて勢いよく振り返った。
背を覆い隠すほど長い炎の様な灼髪に紅玉の様に輝く瞳。人懐っこい容姿でどんぐりの様な丸い目はゲームのアバターでも現実でも愛嬌の1つである。
背は私よりも少し低い感じで体格は非常に華奢ではあるが女性としてメリハリがある体格だ。服装は袖が半端で炎になっている黒い着物風の軍服に天女の羽衣の様に揺らめいている火焔の外套。
そして、頭には揺らめく炎の角に腰からは蛇の様に細長い尾が生えていた。
「───澪ちゃん?ほんとに澪ちゃんなの?」
灼髪の少女……日暮 雛は掠れていて震えている声で私の名前を言った。
「あぁ………、そうだよ。私だよ、天野 澪だよ雛」
「──────」
雛はふらふらと立ち上がって私に向かって手を伸ばしてきた。私はその手を取り、私自身の証拠として2人の証である指輪を見せた。その指輪は雄龍の刻印が刻まれたもので魔力を込めると雌雄となっているもう片方の指輪が光り輝く。
私が指輪に魔力を込めると雛の左手の薬指に通された雌龍の指輪が光り輝いた。
「───っ、ぅ、あぁ」
それを見た雛は両目一杯に涙を湛えていた。顔をくしゃくしゃにしてボロボロと涙を流して泣いていた。
「ごめん、1人にして。本当にごめん、雛」
私はそう言いながら真っ直ぐ雛に向かい合うと、頬を伝う雫にそっと手を触れた。すると雛は、嬉しそうに、しかし少しだけ恥ずかしそうに泣きながらはにかむと、私の手に自分の手を添えて、
「───やっと、会えた……、澪ちゃん……ッ!!」
彼女は堰を切ったようにボロボロて泣きながら私に抱きついた。もう、離さない様に、力強く抱きついた。
私は雛を抱きしめ返して答えた。
私は、最愛の彼女に再会することができた。