魔王城の賑やかな騒動〜1
3人称のつもりです。
「ーーーーさて、会合を始めよう。というかグラマリーヌはまだ見つからないのか?」
魔王城の円卓会議室にて全員が席につき、司会のアリシアはそう後ろに控えているバロメッツに聞いた。
「申し訳ありません。捜索をしておりますが、気配が気薄な上に行動範囲が読めず………」
「まぁ、あの放浪者なら仕方ないでしょ。そのうち、ひょっこり来るよ」
バロメッツの報告にセシリアはそう言った。
眷属同士の居場所はわかるがそれは大体の位置であり、『○○○辺りに□ □ □がいる』といった感じでピンポイントでわからないのだ。更にこれは気配が拡散していたり、対象が別世界にいる場合だと効果が発動しない。わかりやすく言えば、バルザックが水に溶け込んでいたり、スルースが洞天に引き篭もっている場合、感知できないのだ。
「まぁ、それもそうだな。ーーよし、始めるか」
こうして、人間達から怨敵とされている8人の王(うち1名行方不明)がこの場に揃った。
"戦況の支配者"アリシア・ブラッドエンフィ
"暴虐の竜王"ガゼフ・ドラゴロード
"殲滅の機械王"セシリア・アビスカナトリアス
"深淵の狩人"グラマリーヌ・スブマリーノ
"天雷の賢者"天鳳 索冥
"死滅の冥王"アンダルソン・テンプレス
"原初の悪魔"ディアボロ
"冷血の真祖"メアリー・ブラッドエンフィ
「さて、まずはーーーー」
アリシアがそう言って始めた次の瞬間、
『ヂュドーーーーン!!!』
魔王城に凄まじい爆発音が響き渡り、大地を揺らした。
「な、なに!?なにごと!?」
『敵襲か!?いや、人類軍は衰退している筈では……?アリシア!何か心当たりが………………アリシア?』
アンダルソンがアリシアに心当たりを聞こうと彼女の方を見てみると、アリシアは非常に晴れやかな笑みを浮かべて丸薬を飲んでいた。
「え、えっとアリシア?どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、これがここ最近の我が国の日常さ。はははッゲホゲホッ!」
セシリアの問いにアリシアはその晴れやかな笑みを固定したまま吐血した。その場はなんとも言えない空気になった。
「報告します!"深淵の狩人"グラマリーヌ・スブマリーノ様の所在が判明しました!場所は魔導具工房です!」
「よし迎えに行くか!」
アリシアは伝令を聞いた途端、機敏な動きで立ち上がりスタスタとその場所に向かった。そのあとを他の者達がアリシアを憐れみながらついて行った。
***
爆心地である魔導具工房。
そこは凄まじい熱気に包まれていた。
紅蓮色の業火の奔流が工房を満たし、その熱で木材などは瞬時に灰となり、金属は原型を留めず変形していた。
「な、なにこれ、一体なにが起きてるの!?ーーーーッ!ちょっと兄貴!説明しなさい!」
セシリアは近くで腕組んで見ていたガルムトに掴みかかる勢いで詰め寄った。
「ん?おぉ!セシリアか!久しぶりだなぁ!」
「久しぶりだなぁ!じゃ、ない!状況を説明しろ!」
「うるせぇ黙って見てろ。今、鍛治職の真髄が見れんだ。オメェも鍛治家の端くれならその目に確と焼き付けろ」
「は?なに言って……………」
ガルムトの真剣な顔を見てセシリアは不思議そうに聞いた時、"それ"は始まった。
ーーーーカンッ!ーーーーカンッ!ーーーーカンッ!
工房内に金属を打つ音が響き渡る。そして、
『ほらお前たちッ!気合い入れんかッーーーー!!!!』
『『『ヂューーーーーッ!!!!!』』』
そこに響き渡る怒声。それに答える特徴的な鳴き声。その2種類の声が響くと紅蓮色の業火の奔流が晴れ渡り、現れたのは巨大な鍛治工房だった。
真っ白な身体に赤色の刺青を施した大小様々な丸い鼠が後ろ足で立ち、何千何万匹とひしめき合っていた。
ある鼠達は半透明な石を抱えてせっせと炉にバケツリレーで放り込み、ある鼠達はふいこを踏んで炉の熱を高めていた。
その炉は天を突くが如く巨大であり、凄まじい熱気を放っていた。そして、その中央には全身が燃え盛る焔の様な羽毛に鳥の様な相貌を持った4対の翼の龍が鎮座していた。
「リュウエンッ!!もっと火をくれ!!最上級のじゃ!」
と炉の側からルナティアの声が響いた。ルナティアは上半身を下着1枚になり、汗だくになりながら身の丈ほどの金槌を振り下ろしていた。その表情は鬼気迫る物でどれだけ彼女が本気なのか見受けられる。
『わかった!ーーーーシャアァァァ!!!』
ルナティアの指示を受けてリュウエンはその身を青白い業火に包んで更に燃えがった。
「よし!熱量上限突破ッ!!魔力濃度最高潮ッ!!テメェら腹に喝入れて気合い出すんじゃァ!!!」
『『『ヂュヂューーーーーッ!!!!!』』』
ルナティアの怒声に鼠達は力強く叫び、燃え盛る業火と一体化する。
そうして、ルナティアは"詠唱"を始めた。
『研鑽の果てに行き着きしはただ一振りの刀、幾千もの鍛錬と願いの果てにあるのは破滅か始まりか、一打一打に信念を込め、ただ一振りの刀をその身1つで打ち上げる!!さぁ、我が想いこの魂を糧にこの地に生まれ落ちろ!!《神造鍛造・建御雷神》ッ!!!』
ルナティアが最後の一振りを振り下ろすとルナティアを中心にその場を支配していた熱が集まり、凄まじい魔力と熱気を発生させながら一振りの大剣が姿を現した。
その大剣は全ての色を吸収するが如く漆黒で大きさは2メートル近くあり、柄の先端部分には青い水晶が嵌っていた。何より特筆するべきことはその大剣から滲み出る魔力だ。どこまでも深く深く、まるで全てを飲み込むが如くの貪欲な獣の様に荒々しくも神にも似た神聖さを兼ね備えている…そんな魔力だ。
「ーーーーすげぇ、あんなの魔剣とかそんなちゃちいレベルじゃねぇぞ」
「ーーーーほんと、凄い」
ガルムトとセシリアはその光景を目に焼き付けるが如く注視していた。その顔はまるで憧れを目の当たりにした子供の様なキラキラとした表情を浮かべていた。
「よし完成じゃ。ほれ出来たぞー」
ルナティアは軽い調子でそう言うと物陰からグラマリーヌが出てきた。その背には先程まであった折れた大剣が無かった。
「あとはヌシの魔力で染め上げれば、完全にヌシだけの剣となる。まぁ、そうなるのは早くても1年くらいじゃな」
「それまで待てない」
「あ、ちょッ待て!」
ルナティアの制止を聞かずグラマリーヌは体から膨大な量の魔力を放出し、ルナティアが打ち上げた大剣に魔力を注ぎ込んだ。
すると、大剣の刀身は徐々にグラマリーヌの瞳と同じ深い海の底の様な青色へと変わっていき、形もありふれた両刃大剣から流水線の様に滑らかな片刃大剣へと変わった。
「おぉ………………、変わった」
「それはそうじゃろ。あんなにも急激に魔力を込めたのじゃ。我の渾身の一振りでなかったら、爆砕していたところじゃ。…………ほれ、素振りしてみろ」
「………ん」
グラマリーヌは短く返事すると大剣を大きく振りかぶり、フルスイングした。その度に大きく風が鳴り、風圧で小さいながらも砂煙が起きた。
「悪くない。元から使っていたみたいに手に馴染んでいる。ありがとうルナティア」
「別に我が打ちたかったから打ったまでじゃ。大事に使えよ?」
「言われなくても」
そうして笑い合う2人。
………………そして、その後ろで青筋を浮かべて微笑むアリシアに気づいて、2人して逃走を測るのであった。
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気休めに新作を書きました。好評であるなら続くかもしれません。
私のマイページから読むことができます。
『血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで』




