変態がやってきた
「ーーーーブェックション!『ガキンッ』あっ、やってしまった……」
鍛治作業の途中、妙な寒気がしてくしゃみをしてしまった。お陰で変に打ってしまい、曲がってしまった。
「なんや風邪か?裸で寝んのも控えとかなきゃあかんよ〜」
と隣で見ていたバルザックがそう言った。ちなみに今はバルザックの依頼により和釘の制作をしている。
「それはお前だろ。というか何故に和釘なんて欲しいんじゃ?」
「小鈴達が参拝できる神社を作る為や。ちゃんとアリシアの申請は通っておるよ」
「神社かぁ………。やっぱり祀るのは海神龍様?それは大層ご利益あるねご本人様?」
私はバルザックを揶揄う様にそう言うとバルザックは私から視線を逸らす様にそっぽ向いた。
「……………小鈴がな、ウチの為に作りたいと言ったんや。ウチはいらんと言ったが目をキラキラさせて作ろうと言ってな?」
「それで根負けしたというわけか」
「…………………せや。これは惚れたもん負けや」
私がバルザックの珍しい反応にニマニマしていると。
『ーーーーアッハハハハハハハッ!!!!!!!ーーーー』
外から大音量で聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。あまりの大音量に窓ガラスがビリビリと鳴っている。
「「……………………」」
私とバルザックは顔を見合わせて確認する。
「………………あの声、ティアか?」
「確かに似ておったが、ティアだとは確定では…」
『ーーーお姉様ァ!!お姉様の忠実なる僕であるティアですわぁ!!!世界を超えて、遥々馳せ参じましたわぁあッ!!!アッハハハハハッ!!ーーー』
………………………………………………………
「確定やな」
「…………だな」
よりによってティアかよ…………。カグヤさんの方が良かったよ…………
私は非常に行きたくない気分になるもバルザックに引き摺られてアリシアの執務室に向かった。
***
「…来たか。ルナティア、行け」
執務室に入って早々、ナザールからの死刑宣告。
「嫌じゃ。この一応常識ある変態ならまだしも、頭のネジがダース単位で吹き飛んでおる歩く18禁には近づきたくない」
"色欲龍"ティアムンク・ヴァルプルギスナハト。
『七大罪龍』の中でも度を越した変態である。バルザックが常識ある変態ならばティアムンクは本能で動く変態である。
戦い方は大量の銃火器を召喚して敵味方関係無しの乱れ撃ちか眷属の魔改造吸血鬼軍隊での蹂躙だ。
「でも仕方ないじゃない。ティアムンクちゃん、ルナちゃんの言葉しか聞かないし」
「それだから嫌なんじゃよ」
リュウエンの言う通り何故かアイツは私の言う事だけを聞く。それに何故か『お姉様』と呼ばれてるし。
『ーーーオ姉ェ様ァァアアアアアア!!!!ーーー』
………………そろそろやばそうだ。暴走しそうだ。
「…お呼びだぞ、行ってこい。………今度美味いレストランに連れて行ってやる」
「………」
「終わったら、ボクがマッサージしてあげる」
「…………」
「………今度ウチがでっかいお好み焼き作ったるよ」
「…………………」
「え、えっと、沢山甘えていいからね?」
「行ってくる」
リュウエンに思いっきり甘えられる口実ができるなら私はなんでもしよう。例え、それが度を越した変態の捕縛だとしても。
そうして私は窓から外へ出て行った。
***
出てみると魔王国エンフィエル上空には生き物とは思えない何かがいた。
空を覆い尽くす程の巨大な光と闇の翼、骨でできた大量の触手を纏った全身に多種多様の生物骨で覆った外殻、その外殻の下の肉体は泥の様な形がはっきりしておらず全身に青く光る斑紋を巡らせている。例えるならば骨を纏ったスライムだろうか。そして、頭に当たる部分は3つの龍の頭蓋骨の上部分を合わせた様な歪な物で頭上には光の輪が展開されていた。
私はその歪な龍………ティアムンクから少し離れた位置で《龍化》をした。
『ッ!!オ姉ェ様ァァアアアアアア!!!!』
私に気づいたティアムンクはその歪な頭をまるで花を開花させる様にガパリッと開き、全身の骨の触手をこれでもかとわちゃわちゃさせて、まるで空を泳ぐ様に非常に滑らかな仕草で私に突撃してきた。
『気持ち悪いわッ!!』
私はティアムンクに躊躇いもなく《龍滅魔法》の『カオスブレス』を最大火力でぶち込んだ。
『カオスブレス』は簡単に言うとドラゴンの王道ブレスに闇の属性を付与した物で私の場合だと見た目は紫色のビーム光線である。
『アフンッ!!』
私の『カオスブレス』をモロに受けたティアムンクは後方彼方に吹き飛ばされて王都近くの湖に落ちた。
大きな水飛沫が上がり、辺り一面に局地的な雨を降らせる。そして、爆音と大量の水と共にティアムンクは起き上がった。
『アッハーーーッ!!!いいッ!いいですわお姉様ッ!!その気合の入ったブレスは私の骨の髄まで響きましたわぁ!!さぁ!もっと、もっともっとティアを痛めつけてくださいませぇ!!』
ティアムンクは妙に艶のある声で叫び、身体をくねくねさせた。その奇怪な様子に私は全身に寒気を覚えた。
『やらんわ!というかお前一体何故に《龍化》しておる!人型でこんか!』
『私の顕界をお姉様に知らせるべくこの姿になりましたわッ!さぁお姉様!!再会を祝してティアとこの場で愛を育みましょう!』
『するかボケェエエエエエ!!!!』
『くふぅ!?その返しもかなりいいッ!それでも私はお姉様と愛をッアッヒャーーーーー!!!?』
骨の触手をわちゃわちゃさせて、口からなんだかよくわからない液体をダラダラ流しながら再度突撃をかましてきたティアムンクを鎮圧するのに丸一日かかった。
ーーーのちにその光景を題材にされたその絵のタイトルは『異界の龍の戦』と名付けられ、世界的にも価値がある文化遺産となった。




