魔王との邂逅〜1
「ふむぅ………、なんだか脆いのぉ。これがこの世界の普通かの?」
一面血の海で腹一杯でグースカ寝ている魂喰い達と屍龍を尻目に私は足元で伸びている美青年一団を見てそう口にした。
あの後、すぐに戻ってきたこれは目の前の惨状に怒り浸透してまた斬り掛かってきた。他のメンツも魔法やらでバカスカ打ち込んできたが、私には虫が当たる程度の感覚しかなかった。そして相手するのが面倒になり、《人体破壊魔法》で脳みそを頭蓋骨内からペースト状にした結果、呆気なく御陀仏した。
後になって調べたらコイツ勇者だった。
勇者って強いイメージがあったが、弱かったなぁ。
『それは君が強すぎるんだよ』
私が疑問に思っていると頭の中に突然イスチーナ様の声が響いてきた。
「ぬ?なんじゃ、イスチーナ様か。転生先が戦場とは随分と粋な趣味をしておるの」
『それはごめん。でも転生したって実感できたでしょ?』
「…………………………」
それはそうか。確かにこんな事は日本では味わえなかった。
「……まぁ、そうじゃな。して、我が強すぎるとはどういう事じゃ?」
『そのままの意味。ルナティアちゃんはゲームの世界だと普通の強さだったと思うけど、こっちの世界だとそれはもう手のつけられないくらいの強さだね。君に対抗できるとしたら元の世界のルナティアちゃんの友達くらいかな?』
「…………それはそれでなんだかつまらんのぉ」
私は刺激が欲しいのだ。毎日が楽しく過ごしやすいものにしたいのだ。
『だから、ルナティアちゃんの友達をこっちの世界に連れて───』
そこまで聞いた途端、私の内側から湧き出たマグマの様な憤怒で視界が赤く染まった。
【貴様……、まさか我が友を外道共が我にした様に殺そうと言うわけではないか?我が友、我の愛しき番を巻き込んだ時はお前の喉元を噛み切るぞ】
思いの外、低い声が出た。友人を巻き込むのは許さない。私の恋人、ありのままの私を受け入れてくれた最愛の彼女を巻き込むなら私は神殺しも行う事も辞さない。
『──まッ!?まってまってッ!!最後まで聞いてッ!!殺気を抑えてお願いだからッ!!』
イスチーナは酷く焦った様子で私を制した。
『殺しはしないよ!僕をあんな屑どもと一緒にしないで!!』
私はそこで荒れる感情を抑えつけて平常に戻った。
「で?連れて来るとは一体どういうことじゃ?」
『そのままの意味。この世界と君の故郷は時間の概念がずれていて、あっちだと君が死んで半年は経っているんだよ。それでちょっと君の友人達を様子を見てみたら何故か気づかれてさぁ。ルナティアちゃんは僕が殺したんだと勘違いされてボコ殴りされたよ……ははは。愛されているねぇ』
「……………どうやって認知したんじゃ」
私はイスチーナ様の説明に頭を抱えた。まぁ、非常識の塊であるアイツらならあり得る話か。
『それでなんとか誤解を解いて説明したら、全員がこっちに来たいって言い出してね。特に君の嫁さんは鬼気迫る勢いだったよ。だから近いうちにこっちの世界に来るよ。もちろん、ルナティアちゃんと同じ条件でね』
「そうか…………そうか………………。はは、これは、嬉しい限りじゃなぁ」
私は自然と笑みを溢していた。
この世で唯一無二の大切な友人達。ゲームでも現実でも交流して何度か一緒に旅行に行ったりした。同性の恋人に関してはそれはもう離れることなんてあり得ない、かけがえの無い宝物。幸いなことに同性結婚は一般的なものになっていた為に結婚も約束していた。
事故で巻き込まれて死んだ時、会えないものと悲しんだ。だが、この世界にみんなは来てくれる。それも慣れ親しんだもう一つの姿で。
……………喜べないわけがない。
『早くてひと月後、遅くて半年後だから楽しみにね』
「あぁ、楽しみにしておく。感謝するイスチーナ様」
『どう致しまして。あ、あと、お願い事なんだけど、アリシアさん……私の眷属で魔王やっている子なんだけど、その子と協力してもらえないかな?今は優勢だけど勇者がいるからね』
「わかった」
そうして私とイスチーナ様の会話は終わった。
そして、私は同じイスチーナ様の眷属である魔王に会うべく、気配のする場所に向かった。