リュウエンの特別講義
今回は難産でありました
設定って難しいですね…………
〜sideリュウエン〜
「え?魔法の特別講師……ですか?」
スルースが来て1週間後。特にこれといって何もなく平和な1日を過ごしていた日にアリシアさんがそう言った。
「理事長からの提案でな。異世界の魔法を知りたいそうだ」
「まぁ、別にいいですけど………。私の魔法はほとんどオリジナルですよ?」
私の魔法は『nightmare memory』に存在している闇と光と特殊系を除いた火、水、土、雷、風を極めた《元素魔法》と火炎系魔法最高位の《爆炎魔法》を主軸に《複合魔法》でブレンドするという自分で言うのもアレだけど随分とぶっ飛んだ代物だ。
「まぁ……………それを含めて知りたいんだろう。理事長は研究熱心な方だからな」
アリシアさんは苦笑いを浮かべてそう言った。
「……わかりました。アリシアさんの頼みならいいですよ」
「あぁ、ありがとう」
アリシアさんは最初に会った時よりも老けて見える疲れた笑顔を見せてそう言った。
………………今度、プリンでも差し入れに行こうかな。
***
エンフィエル魔導学院。
魔法の技術や知識を学ぶ場所であり、次世代の魔導士の卵達が日夜勉学に励んでいる。
「えー、今日は異界の魔導士であるリュウエン・フランメ様が魔法の特別講師に来てくださいました。今回の講義は非常に貴重なものですので皆さん、心して聞く様に!」
アリシアさんに学園の特別講師の依頼を引き受けてから5日後。私はエンフィエル魔導学院の巨大なコロッセオとでもいった様な円形の広場にいる。踏むと程よく反発する土の地面に、周りを囲む三メートルほどの壁。その外側は、数十人の身なりの良い若い男女が座っている客席が並んでいる。
恰幅のいい理事長からの簡単な紹介の後に私は自己紹介をした。
「はじめまして、エンフィエル魔導学院の学生方及び関係者のの皆様方。私は『七大罪龍』"嫉妬龍"リュウエン・フランメといいます。種族は極炎龍種と精霊のハーフである《煉獄龍精》、私の故郷、皆様からは異界の地に於いては賢者の称号を有しております」
ちなみに私の装いは他所行きも兼ねてフル装備である。出発前に随分とルナちゃんに心配されたけど。
「さて、自己紹介も終わりましたし、講義を始めますよ。皆様、ノートの準備はよろしいですか?まずはじめに言っておきますが、私が扱う魔法はこの世界とは違う原理で発動しますのでご了承を」
そうして私は講義を始めました。
***
リュウエンは魔法の基礎属性となる5元素のオーブを出す。
「私の故郷では火、水、土、雷、風の五元素属性と闇、光の相対属性の魔法が主流となっています。『火は風を受けて激しく燃え、大岩でさえ風に浸食され、地面は電気を吸収し、水は電気をよく通し、火は水で消える。そして、闇と光は互いを牽制し合う』。つまり、火は風に強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強く、水は火に強いというわけであり、闇と光はお互いに強く弱点でもあるという意味です」
「五元素属性を極めると使える魔法の階級が上がり、例えば"火"ならば火、火炎、豪炎、爆炎と4段階の階級があります。相対属性の場合は"闇"ならば深淵、"光"ならば神聖となりなす」
リュウエンはあらかじめ用意したスクリーンに表を映し出しながら説明します。
「ここまではこちらの世界と同じであります。次にこの2つの枠組みに囚われない特殊系です。私たちの世界には特定種族のみが使える《血統魔法》、特定職業が獲得する《生業魔法》、複数の属性が合わさった《特殊魔法》があります」
「《血統魔法》はその種族のみが使える魔法で、獣人種ならば肉体のスペックを大幅に引き上げてその身に眠る獣の力を使う《獣解魔法》、夢魔やファントムなど人の夢を糧にして生きる種族ならば《幻夢魔法》といった感じです。私の場合は火の龍精である為、《火龍精魔法》という魔法が使えます」
そこでリュウエンは一度言葉を切って、《火龍精魔法》の魔法陣を出す。この世界の魔法陣とは違う言語と記号で編まれた魔法陣を前に会場はにわかにざわつく。
「試しに派手なものを使いますね」
そうして、リュウエンは魔法陣を消して目を閉じた。
会場内の温度が上昇していき、どこからか火の粉が舞い上がる。そして、地面に先程の魔法陣が展開され会場を揺らしていく。
『さぁ、どうかご照覧あれ!触れし者全てを焼き尽くす、天上の業火を我が身に!《極炎演舞・火生三昧》!』
リュウエンが詠唱を終えると彼女の周りからその身を炎で構築された無数の蛇が出現し、巨大な火柱を形成していった。無数の炎の蛇が天に向かって這いずり回るその光景は見る者を圧巻とさせた。
『その身焼き尽くすならば、大輪の彼岸花となれ!《彼岸楼・解華》!』
凛としたリュウエンの声が響くと螺旋渦巻く火柱は轟ッ!という爆音とともにサラサラと崩れていき、その欠片は彼岸花の花となり会場に降り注いだ。
そして、会場の中央には金属でできた2つの扇を手にしたリュウエンが舞を終えた後の様なポーズを取り、お辞儀をした。
「ーーー素晴らしいッ!」
すると、学園長が立ち上がり賞賛の声を上げる。やがて他の者達も我に返ったかの様に、溢れんばかりの拍手をリュウエンに送った。
「今のは《火龍精魔法》の初期の魔法、《極炎演舞・火生三昧》というものです。こちらは対集団用拘束魔法であり、捕らえた対象を焼き尽くします。ただ、見て分かる通り初動に時間がかかる事と派手で目立つことからあまり使えません」
リュウエンはそう言うと手を叩き、今もなお舞い散る炎の彼岸花を跡形もなく消した。
「続いて《生業魔法》には2種類あります。鍛治職や錬金術師といったいった生産系の職業は《生産魔法》、剣士や重装戦士といった戦闘系の職業は《戦闘魔法》と呼ばれています。これは単に魔導士などの後衛職と差をつける目的でつけられた名称である為、あまり意味はありません」
「最後に《特殊魔法》は私の故郷の世界では1番多くの種類があった魔法です。その数は私が知る物でも数百種類もあります。五元素属性と相対属性の複合系から始まり、そこからある効果に特化させた派生系、それらとは全く原理が違う希少系など様々です。あまりに多過ぎるので今回は私の夫が持つ《特殊魔法》を紹介します」
リュウエンはそう言い、スクリーンに概要を映した。
「私の夫が持つ《特殊魔法》の名前は《拷問魔法》というものです。こちらは名前の通り拷問に特化した魔法です。対象の肉体構造を理解でき、尚且つ急所の位置や肉体部位の耐久性が分かる魔法で、肉体を傷つけずに拷問の様な痛みを負わせることができます。そして、極めると体感時間を強引に引き上げる事が出来る様になり、本人曰く最大で百万倍引き上げることが可能です。これは例えば20秒に置き換えると引き上げられた対象は約230日間苦しむことになります。何故、それを知っていたかと言いますと一度試したことがあったみたいですよ?」
リュウエンの説明が終わると会場にいる者は少なからず青い顔をしていた。
「この様に私の故郷では数多くの種類の魔法が存在していました。これほど魔法の種類が増えた理由としては私の故郷はこの世界よりも非常に過酷な世界だったことが理由に挙げられます」
そう言ってリュウエンはスクリーンに1枚の画像を出した。そこには荒れ果てて無数の亀裂が入った大地に血の様に真っ赤な空、そして空からは無数の星礫が降り注いでいた。
「この画像の場所は比較的"安全"な場所です。隕石は降って来ていますが、これは地中深くに穴掘れば防げるものです。この様な環境で生きていたこそ生き抜く為に様々な魔法が生まれました。平和であるこの世界にはあの世界ほど魔法の種類は必要ありません。しかし、だからといって魔法の鍛錬は怠ってはなりません。知恵と経験は必ず自らの糧となり、支えとなります。これからも勉学に昇進してください。ーーー以上で講義は終わります。ご静聴ありがとうございました」
リュウエンがそう締めくくり挨拶をすると会場は割れんばかりの拍手に包まれた。




