お約束☆
あの式典の騒動から1週間が経った。
あの狸のお家、確か名は…………忘れたがその家の血族や関係者は行方不明扱いとなった。まぁ、仕方ないか。だってもうこの世にいないし。
式典に海神龍が現れたことにより国中大騒ぎで狸のお家のことなんてみんなの頭からすっぽり抜けていた。
その海神龍騒動の当事者であるバルザックから話を聞いて、私たちは呆れた。だってやった最初の理由が『小鈴さんが欲しかったから』だからだ。まぁ、途中から救うに変わっているのがバルザックらしかった。
というかナザールは最初、理由はわからないが罰としてハリセン100発で済まそうとしたが、小鈴さんが泣きながらバルザックを庇ったおかげでバルザックには何もお咎め無しとなったわけだ。
その後、獣王国タルザリアとの正式な国交が決まった事で外交官を派遣するべくアリシアは先に自国へ帰って行った。
私たちは銀鉄さんからどうかもう少し居てくれと言われてそのまま滞在している。
それから私たちはタルザリアの人達と見聞を広げていき、充実した日々を送っている。
そして、とある朝の朝食時。
「バル様。はい、あーん」
「んむっ……ん、美味しいなぁ」
「そうでありましょ!バル様に喜んでもらえて嬉しいです!さ、これも美味しいですよ!」
「いや、ウチは自分でも食べられる──んぐっ、美味しいのぉ」
小鈴さんがバルザックに朝食を与えている。ちなみにバルザックは今日の朝食は一切手を動かしていない。小鈴さんに成されるがままである。
「なぁ、我らは朝から何を見せられておるんじゃ?」
「…普段のお前たちもあんな感じだぞ」
「マジで?」
私たちって側から見ればあんな感じだったのか………。
「小鈴さん……バルザックに甘々だね。……ルナちゃん。はい、あーん」
「む?あーん………。うむ、美味いのぉ」
「そうだねぇ、えへへ」
やっぱり嫁から貰う食事は良いものだ。
「…………………朝から胸焼けするな」
相手がいないナザールは1人味噌汁を啜った。
***
「小鈴さん。あれ絶対にバルザックに惚れてるよね」
昼の自由時間。私とリュウエンは花見をしているとリュウエンがそう聞いてきた。
「確かにのぉ。というか彼女の境遇とバルザックがした事を考えると惚れても仕方ないじゃろ」
自身が不幸のどん底にいた時に無条件で手を差し伸べてその不幸から自分を引っ張り出してくれた。確かにそれだけ見れば惚れてしまうのもわかる気がする。
「けど、バルザックはなんだか小鈴さんを避けてるみたいだよね?なんでだろう」
リュウエンが言う様にバルザックは小鈴さんを避けている。普段のバルザックならすぐさま飛び付くであろう超絶美少女な小鈴さんだが、バルザックはなんというか………意図的に避けている感がある。今朝の一連だって、バルザックは少し引き気味だった。
「何かあやつの中で引っかかっておるやもしれんのぉ」
「引っかかっている?」
「そうじゃ。バルザックは前から一度決めたことは曲げない主義じゃったろ?もしかすると、バルザックは小鈴さんに対して自分に何か決め事をしたのかもしれん。例えば………手を出さないとか?」
「あー………、あり得る話だね。それだと、小鈴さんの恋は成就しない事になるのかなぁ?」
「さぁ……それは分からん。まぁ、成就したとしても我らと小鈴さんは寿命が違い過ぎる。バルザックはそれを配慮しようとしておるやもしれん」
「ーーーーあ、そっか」
私たちの種族はゲームだった頃、寿命という設定が無かった。一応、言及されてはいるがそれでも不老不死に限りなく等しい時間を生きるというのが共通点だ。
私とリュウエンはお互いの寿命に関しては問題ない。しかし、バルザックと小鈴さんだと小鈴さんの方が早く死んでしまう。いつもおちゃらけているが根は優しく寂しがり屋なバルザックはそれが嫌なのだろう。
「全く、難儀なものじゃなぁ」
「ほんとだねぇ………」
「ーーーなんや?ウチの話をしとるんかいな」
と後ろから声が聞こえてきて、振り返るとそこにはバルザックがいた。
「あ、バルザック。彼女さんとは一緒じゃないの?」
「小鈴ちゃんとウチはそんな関係ではあらへんよ」
「………私は一言も小鈴さんの事とは言ってないけど?」
リュウエンはからかうようにバルザックに言った。するとバルザックは顔を茹で蛸の様に真っ赤にしてそっぽ向いた。
「ほんとわかりやすいのぉ。気があるなら受け入れれば良かろうに………。小鈴さんがヌシに惚れてるの気づいておるんじゃろ?」
「わかってるわそんなこと。…………せやけど、ウチはそれに応えることはできん」
バルザックは少し遠くを眺めながらそう言った。
「寿命のことか?それとも自分で決めた決め事かの?」
「両方や。ウチは銀鉄殿に約束したんや。小鈴ちゃんには手を出さへんとな。それに悠久の時を生きるウチらに比べたら小鈴ちゃんの寿命はほんの一瞬。好いてくれるのは嬉しいやけど、時間が経てばそれは冷めるはずや」
バルザックはあっけからんとした様子でそう言い切った。
「せやけど、ウチの事やから、酒に酔って朝チュンかましたら責任は取るやで?それはそれであり得んがな!にゃははは!!」
バルザックはそう笑いながら言うとどこかへ行ってしまった。
「「………………」」
最初は良かったのに最後のあれはどうなんだ?まぁ、バルザックらしいからいいか。
「ーーーーーーーー」
そして、その話を桜の木の裏で聞いていた者が1人いたがルナティア達は気づかなかった。
***
〜sideバルザック 〜
朝起きるとチュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「ん、ん……」
気持ちのいい朝日が襖の隙間から差し込んでいる。
「あ゛ー……、なんか、頭が重く感じるなぁ…………………ん?」
二日酔いの様な鈍い痛みが感じる頭を抑えながら起きてふと違和感に気づく。
……………………なんか部屋がいつもと違へん?
ウチが寝起きしている部屋は旅館の客室の様な最低限の家具と飾り物がある部屋や。けれど、この部屋は物に溢れておる。着物や化粧台といったもので、まるで一個人の部屋みたいな……それに嗅ぎ覚えのある匂いがして…………。
「ん…う…」
「ッ!?!?」
聞き覚えのある……というかここ最近、よく聞く声が隣から聞こえて、心臓が飛び跳ねた。そして、恐る恐る隣を見ると………。
雪の様に真っ白でふわふわな銀髪に時折ぱたぱた動く白い狼耳、シミひとつない透き通る様な素肌。そして、あどけなさが残る保護欲を唆る可愛らしい顔。
つまりは小鈴ちゃん。最近ウチが恋した可愛い狼娘。そんな子がウチの隣で寝ている。しかも双方裸。これってつまり…………朝チュン?
(いやいやいやいやいやいや!?!?)
ザァーっと頭から血が抜けていく感覚を感じてウチは慌てて昨日の出来事を思い出した。
(えっと、いつもの様に風呂入って、出たらナザールに珍しく酒の席に呼ばれて行ったら、小鈴ちゃんがいて、3人で楽しく飲んで…………ありゃ?記憶が…………というかどなんすんねんこの状況ッ!?)
「んぅ…………ばるさまぁ?」
「ッ!!…………お、おはよう」
そうこうしているうちに小鈴ちゃんが起きてもうた。
小鈴ちゃんは起き上がるとしなやかな伸びをした。はらりと落ちる髪が掛かる裸体もまた映える………じゃなくて!
「な、なぁ、小鈴ちゃん?う、ウチはなんで小鈴ちゃんの部屋に?それも裸で?」
ウチは1番重要なことを小鈴ちゃんに聞いた。頼むッ!間違いはなかったと言ってくれやッ!!
「どうしてって、それは…………」
小鈴ちゃんはそう言って顔を赤らめた。
ーーーーーえ?
「バル様ったら、あんなにも激しくて……。その………気持ち良かったですよ」
ーーーーーーーーーーーーエ?
ウ、ウチ、ヤッチャッタ?
「その、今度はお手柔らかにお願いね。バル様♡」
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その後、バルザックはしばらく放心状態となった。
はじめはシリアスにしようかと思いましたが、バルザックらしさを考えたら無理でした。




