海賊女帝の暗躍〜3
そして式典当日…………
ウチは海の中で海竜達と待機して、合図である笛の音を待った。
…………待っている間はとにかく暇。
そんな訳でウチは人型に戻ってリアルではイラストレーターのカグラが描いたお宝本を眺めてる。
…………やっぱ、可愛い子の画集はえぇのぉ〜♪
そうして4冊目の天使っ子画集に突入したその時、
ピィィィィィィィーーーーーーーー………………
笛の音が聞こえてきた。
「お、来た来た。さーて………あーあー、声出るかや……?」
そうしてウチは大きく息を吸い、最大級の咆哮を出した。
『ーーーーーーーーーーーーーー』
思ったより大きい声が出た。
それを合図に海竜達は先に笛の鳴った方角へと一斉に向かう。まぁ、これは演出やからな。ウチ1人で行くよりも海竜達と共に行く方が印象としては非常にいい。
『ーーーーーーーーグゥルァアアア!!!!』
海竜達が先に向かってしばらくした後、合図の咆哮が聞こえてきた。
ウチはそれに咆哮を応えて優雅に泳いでいく。
巨体故にゆったりと泳がないと津波が起きてしまうから出来るだけ静かに行く。
海流を操作してウチの身体を包み込む様にして海面から出ると平伏の姿勢を取る海竜達に放心状態でその場にへたり込んでいる巫女服の小鈴ちゃん、そしてすっごく良い笑顔で武器を構えているナザール、ルナ、リュウちゃん。
ウチはその3人の存在を意識的に外して小鈴ちゃんに近づく。
巫女服を着た小鈴ちゃんはとても綺麗だった。あの夜に出会った時は月光に照らされる儚い月下美人の様であったが、今は新雪の丘に咲き誇る夜桜の様だ。
『やっほー♪小鈴ちゃん!約束通りウチが来たで!』
ウチは小鈴ちゃんの綺麗な装いに見惚れながらも出来るだけ明るくそう言った。…………が、ここでウチはこの姿をお披露目するのは初めてだったと今更気づいた。えーと、どうしよう……。
「ーーーーーーーーえ?ま、まさか、バルザック様?」
小鈴ちゃんはしばらく惚けた後、頭の中で合点が様でウチに確認を取った。
『そうや!3日前の夜に一緒に語り合ったバルザックやで〜♪覚えててくれて嬉しいわぁ』
小鈴ちゃんがウチの事を覚えてくれていた。それだけで凄く胸が高鳴った。それになんだかポカポカしてきた。こんな感情ははじめてだった。
***
〜side小鈴〜
まるで夢を見ている様でした。
合図の笛を吹いたら普段なら群れる事のない海竜が一斉に海から出てきて、その後目の前に海神龍様が現れ、その海神龍様はあの日の夜に私を優しく慰めてくれたバルザック様だったのです。
『さーて、この姿だと色々と面倒みたいやから、人型に戻るなぁ』
海神龍様……バルザック様はそう言うとその身体を淡い水色に輝かせるとあの日と同じ装いの私が見たことのある人の姿になりました。
「やっぱこっちの方がえぇなぁ。ほれ、驚いたやろ?にゃははは♪」
水の中から出てきたバルザック様には何故か水滴が付いておらず、それどころか濡れている様子もありませんでした。
「……………貴女様は、海神龍様だったのですか?」
「"海神龍"ちゅうのは小鈴ちゃんのご先祖様が生み出した偶像の産物。全ての生命の祖であり故郷である大海を具現化したものや。………しかし、ウチは違う。水に棲まう全ての生きとし生ける生命の頂点にして原点、大海の王龍『深淵皇海龍』バルザック・セレスト。"海神龍"ちゅうもんがおるんやったら、ウチのことを指すんや。わかったかな?」
バルザック様はそう言って私に手を差し出してきました。
私は戸惑いながらその手を取ると、バルザック様は私を立ち上がらせて腰に手を添えて私を抱えました。
至近距離になったバルザック様の凛々しい顔に私の鼓動は激しく脈打ちました。身体が熱を持ったみたいに熱くなり、途端恥ずかしくなりました。
近くなったことで感じるバルザック様の低い体温が熱くなった自身の体温を冷ましてくれて心地よく感じました。
「……さぁ、銀狼の姫君。この私に天女の様な美しき舞を捧げてはくれぬか?」
バルザック様は私のあごを持ち上げ、その心地よい響きの声で私の耳元で囁きました。それだけで私の頭は沸騰して気絶しそうになりました。
その時、バルザック様は急に私を抱えたまま身体を移動させました。そして、
ーーーーキンッ!
バルザック様の背後から硬い金属が打ち合う音が聞こえてきました。バルザック様の肩越しから見るとそこには鬼の形相で斬りかかっている私が婚約する予定だった釜成家の長男……妙重様がいました。
「童……貴様、小鈴ごとウチを斬り捨てようとしたな?一体、どんなつもりや?」
妙重様の刀をその光沢のある艶やかな尾で受け止めているバルザック様から低く唸る様な声が出たと同時に冷たい殺気が辺りに撒き散らされました。
「貴様が現れた所為で計画はめちゃくちゃになったんだぞ!ようやく我ら釜成家の悲願がなし得たというのに!それを貴様が、貴様がぁ……!」
「悲願?それはこの国の当主になることか?」
「そうだ!そして、この国1番の美姫と謳われる天狼の姫をこの私から横取りしやがって、貴様は絶対に許さなぬぞ!」
「横取りって…………、そもそもお前は龍の嫁の代替えや。ウチが出てきたからにはお前は必要ない。それにお前さんのお家は墨のように真っ黒やないか」
バルザック様はそう言って虚空から何やら分厚い書物を取り出しました。
「なッ!?そ、それは……、貴様ッ!どこでそれを!!」
その書物を見た妙重様は何やら慌てた様子でバルザック様に問い詰めました。
「ウチの特技の1つや。もっともこれはほんの一部、他の記録は既に民衆に瓦版としてばら撒いてある。これで一族終わりやなぁ?にゃはははは!!」
バルザック様は凄く悪い顔で笑いながらそう言いました。対する妙重様は怒り心頭で顔が真っ赤になりました。他の釜成家の者も似た様な反応を見せていました。
「まぁ、しかし、婚約者を横取りしたというなら取り返してみるのも1つの示しや。どうや?ウチと決闘してみんか?試合の決め事はただ1つ、どちらかが降参して相手がそれを了承するというのや。どうや?」
「………………その決闘の対価は?」
「ウチが勝ったらお前さんら全員豚箱行きで一族断絶。お前さんが勝ったら小鈴ちゃんは好きにしてもええし、一族全員逃がしてやる」
「………わかった。その決闘、受けようじゃないか」
「バ、バルザック様!?そんな勝手にッむぐ」
私はバルザック様の無茶苦茶な提案に抗議しようとしましたが、その本人に優しく抱き締められて言葉を出せなくなりました。
私とバルザック様は頭1つ背が違う為にバルザック様の豊満な胸に私の顔がちょうど収まる形になってしまいます。
「安心せい小鈴ちゃん。ウチは負けへんよ」
「で、ですがッ!」
「……………信じてくれや。必ずお前さんを救い出すから」
バルザック様はそう言って私の頭を優しく撫でてあの夜と同じ様に慈しむような優しい微笑みを浮かべました。
その微笑みを見た途端、鳴りを潜めた私の鼓動がまた大きく跳ね上がりました。そして同時にこの方を信用してもいいと思いました。
「………………わかりました。必ず勝利を収めてください」
「あぁ、我が名に誓って、其方に勝利を送ろう」
そうしてバルザック様は私をお父様の元へ連れて行き、私を預けました。
「さて、当主よ。勝手にやってすまへんなぁ。しかし安心せい。ウチは約束は絶対に違えへんよ」
「……………わかった。頼んだぞ」
お父様にそう言われたバルザック様は手を振ることで返事をしました。その後、式典に参加していた来賓の皆様の元に行きました。
「みんな勝手にやってすまへんなぁ。事情はあとで話すから今は邪魔せんといてくれや」
「…元より邪魔するつもりはない」
「訳ありみたいだからねぇ。頑張ってね」
「ちゃんと後で逃げずに説明するんじゃぞ。……ほれ、武器じゃ。普段の奴では分が悪いはずじゃからのぉ」
みなさんはバルザック様に健闘を祈り、一振りの刀を手渡しました。
「おぉ!ありがとな。ほな、行ってくるわ」
そうして、バルザック様は舞台へと上がって行きました。
その後ろ姿に私は見惚れながらもあの方の勝利を心から祈りました。
バルザックの声のイメージは鋼錬のエドで有名な朴 璐美さんをイメージしています。
…………合いますかねぇ?




