アリシアの付き添い
この章のメインとなる話の始まりです
不意に、私は目を覚ました。どれくらい眠っていたのかがよくわからない。怠く感じる体を起こそうとして自分の腕の中にいるリュウエンに気が付いた。
「あーー…………。……えっと………」
カーテンの隙間から差し込む日の光は随分と高い位置にある。少し眩しく感じて手で遮ろうとして、ふと右手の甲に刻まれている炎をもした緋色の紋様が目に入った。
「ーーーーーーあぁ、そうか」
私はリュウエンと精霊の契約を交わしたのだ。あの日、リュウエンが満足するまで愛を確かめ合った私達は最後の仕上げとしてリュウエンから契約の証を貰った。
精霊の契約の証は精霊がその者に対して絶対的な信頼と大切に思う心でもある。つまりこれはリュウエンが私を大切に思い、信頼してくれているという目に見える証である。
それだけで胸の内が暖かくなっていく。
「ん…ぅ…んー…」
とここでリュウエンが目を覚ました様だ。
「おはよう、リュウエン」
「ぅん…………おはよぅ」
ぽへーとした寝起きのリュウエンはやっぱり可愛かった。
***
「ようやく終わったかいな。お前らは蛇か」
「いや、龍じゃよ」
起きて身支度を済ましてアリシアの執務室に向かうと仕事をしていたバルザックに会って早々そう言われた。
バルザックは現実世界だと会計士を務めていた為に数字にはめっぽう強く、不正を見つけ出すのもお手の物…………らしい。
「というかヌシが厚底丸眼鏡をしてると違和感しかないんじゃが?」
今のバルザックの装いは清潔感のある白のワイシャツにジーンズ、黒い腕カバーに指サックを嵌めており、髪を後ろに引っ詰めにして厚底丸眼鏡を装備しているというどこかの事務所に絶対に1人居そうな格好をしていた。
「なんや?これはうちの仕事着や。文句あんか?」
「いや、別にないんじゃよ。あ、そうだ。一応、精霊達には節度を守って行動する様にと言っておいたぞ」
「おぉ!ほんまかいな!ありがとなぁ。ウチが言っても言う事聞くのせいぜい水の精霊くらいやからなぁ」
「あぁ、戻ったか………」
とここでアリシアが戻ってきた。時間的に昼ご飯を取りに行っていただろう。
「おぉ、アリシアか。すまなかったなぁ、無断休暇取って」
「いや、あれは仕方ないだろう。精霊というのは嫉妬深いからな。ははは…………」
………………なんというか、凄くいい上司だな。アリシアは。
「あぁ、そうだ……、ルナティア。近々、私は獣王国タルザリアへ向かうのだが、ルナティアも私の部下として来てくれないか?」
「獣王国?名前からして獣人の国かの?外交関係ならバロメッツ殿とかが良いじゃろ」
「向こうからの要望でな。君たちに会いたいそうだ。それに今回は外交ではなく式典に参加するんだ」
「なるほどのぉ。それなら仕方ないじゃな。しかし、バルザックも連れてゆくのか?此奴は前に獣人の国でやらかした前科があるぞ」
「……………………ま、まぁ、大丈夫だろう。大丈夫だよなバルザック?」
アリシアは少しというかかなり間を開けて返事をしてバルザックに確認を取った。
「ウチはそんな節操なしに食いついたりせぇへんで。ま、ウチの好みだったら別やけどな」
「………………やはり此奴は置いていくべきじゃろ」
「し、しかし、先方に既に4人いると伝えてしまったからなぁ」
こうして私たち『七大罪龍』の4人はアリシアの付き添いで獣王国タルザリアへと向かうことになった。
大丈夫かなぁ?




