強欲龍(グリード)
短めで
「「「ーーー船を喰らう幽霊船?」」」
「そうだ。魔王軍海上保安庁が人間の奴隷船を摘発する際に遭遇したそうだ」
仕事に勤しんでいる時、アリシアに呼び出しをくらい全員が揃うとアリシアはそう言った。
「この世界のゴーストシップは随分と物騒じゃのぉ」
ちなみにゴーストシップは海エリアによく出没する船型のアンデットの集団である。
「いや、この世界のゴーストシップは全て我々魔王軍の管轄下にある。そもそも、ガレオン船を丸ごと一飲みできるほどでかいゴーストシップは存在しない」
「…なら、その幽霊船はなんだ?」
「それがわからないから君たちを呼んだんだ。もしかすると見覚えがあるかも知れないからな」
アリシアはそう言って机から取り出したのは丸い水晶玉だった。その水晶玉は対になる水晶玉から映像を記録して映し出すことのできる魔導具である。なんで知ってるかって?私が直したから。
そうして流れた映像はやけに朽ち果てた巨大な船がガレオン船を化け物の如く丸呑みにする映像と見覚えのある旗が揺らめくものだった。
「…………これ、フライング・ダッチマンだよね?」
「……………………じゃな」
「……そうだな。つまりはバルザックか」
該当する人物の顔が脳内に浮かび上がり、頭が痛くなった。
"強欲龍"バルザック・セレスト。
『七大罪龍』のムードメーカーで1番の問題児。彼女に巻き込まれて被害を受けたのは両手両足の指では足らないくらいだ。
そして、映像にあった朽ち果てた巨大な船はバルザックが契約している水系統アンデット最強格の"フライング・ダッチマン"である。
フライング・ダッチマンは船を"喰らう"ことで成長する生きた船であり、ある特定の手順と日にちでしか倒すことが出来ず、野良で出会った場合には即座に逃げることが推奨されているふざけたアンデットだ。それをバルザックはゲーム内時間の1週間を費やして1人で倒して自らの船に魔改造したのだ。
「……やはり知っていたか。一体どんな奴なんだ?」
アリシアは私たちの様子に非常に聞きたくないと言った感じの表情でそう聞いてきた。
「黙れば美女、喋るとエロ親父、海の上では頼りになる海賊女帝」(私)
「美人でモテモテな風貌なんですが、度を越した変態でトラブルメーカーなんですよ」(リュウエン)
「…戦闘では頼りになるが、日常生活ではあまり関わりたくない者だ」(ナザール)
「……………………ハァ」
アリシアは私たちのバルザックの評価を聞いた後、小さくため息をついて机の端に置いてある胃薬を手に取り飲んだ。
「さて、連れてくるか。アリシアよ、場所はどこじゃ?」
「…………北西の海岸地帯だ。今回はバロメッツが同行することになっているからよろしく頼む」
「わかったのじゃ」
そうして私たちはバルザックの回収に向かった。




