祭り〜1
精霊を保護して1ヶ月が経った。
私が《ラグナロク》をぶち込んだおかげで人類は大狂乱の嵐に見舞われたそうだ。
奴隷とかではなくちゃんとした契約をしていた精霊も軒並み人類から手を引いて一切取り合わない様になった為に精霊に頼っていた部分から崩壊し、小さな国もいくつか滅亡した。
大国も甚大な被害が出て戦争どころではないとなり、一時休戦となった。
つまり、世界に一時的な平和が訪れたのだ。
お祭り騒ぎの魔王領と城内。そして、白く透き通っていくアリシア。もう、真っ白に燃え尽きてそのまま消えてしまいそうだった。お詫びに胃腸にいい薬粥を作ってあげたら、ポワーっと擬音が付きそうなくらい顔を緩ませて食べてくれた。
精霊達はというと治療の為に精霊が住む《精霊界》に送り届けた。随分と感謝されたが、私は私がしたいことをしたまでである。
そんで今私は何をしているかというと…………。
「ねえねえ見て、ルナちゃん!あっちでなにか盛り上がってるよ!行ってみよ!」
「おぉ、そうじゃな。あまり慌てるでないぞリュウエンや。転んでしまうぞ」
「わかっているよ!さぁ、行こ!」
私は絶賛リュウエンとデート中である。
〜1週間前〜
「ーーーー祭りとな?」
「…そうだ」
その日はアリシアに新しく与えられた魔導具の修理の仕事をしていたらナザールがやってきて1週間後に祭りがあると言ってきた。
魔導具の修理については《鍛治魔法》と《機械技師》を極めている私にとっては楽な仕事だし、魔導具の構造については称号の《マギアクラフター》のおかげで丸わかりである。
「…共に訓練をしていた騎士によるとイスチーナ様を讃える為の感謝祭だそうだ。3日間行われて最初の2日はみんなで騒ぎ立て、最後の日の夜に死者の魂の弔いも兼ねて天に向かって灯籠を飛ばすそうだ」
「……………なんかお盆みたいじゃな最終日は。姉上はその騎士とやらと行くのかの?」
「…いや、そんな暇があれば鍛錬するさ」
「あ、はい」
まぁ、そんなことだろうと思ったが。
「なら、何故にそんなことを教えてくれたのじゃ?」
「…リュウエンと2人で行ってきたらどうだ?最近はあまりふたりきりになれてないだろ?」
ナザールのその言葉に私は頭の中で気づいた。
確かに最近は夜に眠るくらいしか一緒になれていない。まぁ、夜のベッドの上でイチャコラやっているが。
「…………なるほどのぉ。感謝するのじゃ姉上」
「…気にするな。妹達が幸せになればそれでいい」
その後、私はリュウエンに祭りの事を話して一緒にデートに行く約束をした。
〜そして現在〜
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるリュウエンと共に祭りで盛り上がる城下町を歩いていく。
リュウエンの服装は白のワンピースである。肩紐は細めで胸元が大きく開いており、リュウエンが動くたびに彼女の白くて綺麗な素肌と程よく実った胸が見え隠れしている。腰には細めの黒いベルトが付いていて引き絞られており、リュウエンのスタイルの良さが相まって素晴らしい物となっていた。
そして、何より魅力的なのは、その纏う雰囲気と笑顔だろう。
頬を染めて、楽しくて仕方ありません! という感情が僅かにも隠されることなく全身から溢れている。
惚れている私でも惚れ直してしまうほどの可愛さだ。
「ねぇ、ルナちゃん。さっきからずっと思っていたけど、なんで浴衣?それも男物の」
「これが楽なんじゃよ。それに、祭りといえば浴衣じゃろ」
そう、私の服装は男物の浴衣である。黒地に虎と龍の刺繍があるかっこいいやつ。ちなみに下着はサラシと褌である。
「いやまぁ、そうだけど………。なんかルナちゃんの感性ってズレてるね」
失敬な。
そんなことを話しながら私たちは街を歩いて楽しんだ。よくよく考えると今まで街をちゃんと見て歩くという事をしなかったから随分と新鮮に感じた。
そうして出店の食べ物を手に歩いていると制服の様な物を着た年頃の男女がちらほらと見えてきた。
「なんじゃ?学園でもあるのかの?」
「そういえば、アリシアさんがこの辺りに学校があるって言っていたよ。多分、そこの生徒じゃない?」
「なるほどのぉ。なんか出し物でもあるかもしれんから行くかの?」
「うん!そうしよ!」
私が学校の方に行く事を提案するとリュウエンは輝く様な笑顔を見せた。
あぁ………………心が浄化される……………
リュウエンの可愛い顔と可愛い声で私の薄汚れた心が綺麗に浄化される……
***
魔王領内にある魔導学院…名前は忘れたが確かそんな感じ…の中ではやはり色々な出し物をやっていた。もっとも、そのほとんどが自身の研究成果を発表するものだが。
私としては何を当たり前のことを声高らかに説明しているかと思ったが、リュウエンは私と違い、興味深そうに聞いてたり見たりしていた。
「そんなにためになるのかの?」
「1つ1つは大したことないけど、組み合わせれば案外いいものができるよ」
「ほーん………やはり本職は見方が違うのぉ。我からすると無駄だらけの術式ばかりじゃ」
「あはは……、ルナちゃんは効率重視だからねぇ。最終的に丸か三角で構築するから逆に凄いよ」
「む?それは褒めておるのか?それとも呆れてるのかの?」
「呆れてるよ…………」
そんなこんなでのんびりと会話しながらブースを見ていると突如、爆発音と悲鳴が聞こえてきた。
私はリュウエンと見合わせるとすぐさま騒ぎの中心に向かう。
そこはおそらく魔法の訓練所であるだろう。
そこの中央に騒ぎの元凶がいた。
座っている状態でも3メートルは越す大柄なカエルみたいな身体に鳥の様な嘴、目は4つにバッファローみたいな角。
それは『nightmare memory』でもいた中級プレイヤーのお小遣いの的、『ブルファイティング・トード』である。
魔法に強く物理に弱いどでかいカエルで普段は置物の様に動かないが、怒ると闘牛の如く猛突進してくる。ちなみに肉は食材アイテムである。
そのブルファイティング・トードがグルグルと喉を低く鳴らして今にも男子生徒に突進しようとしている。男子生徒は恐怖で腰が抜けてうまく立ち上がれない様だ。
「あれは………まずいのぉ」
「そうだね。カエル牛もかなり怒っているみたい」
ブルファイティング・トードの角が怒り状態を表す様に赤熱化している。周りを見てみるが、助けようにも助けられないといった感じだった。
「………はぁ、仕方ないのぉ」
私は浴衣の袖を捲り、紐で括った。
「行くの?」
リュウエンが心配そうに聞いてきた。
「まぁ、あのまま見殺しにはできんからな。それに基本的に温厚なあのカエルがあの様になったわけを知りたいからのぉ」
そうして私は両者の間にヒョイっと割り入った。




