怒り〜3
今回は長めに
〜sideアリシア〜
「ふと気になったのだが、 『七大罪龍』とは一体どんな組織なんだ?」
魔王城の執務室にて私は書類整理の手伝いをしてもらっているリュウエンに聞いてみた。
「いきなりどうしたんですかアリシアさん」
「いや、イスチーナ様や君達の話を聞く限りだと世界から見てかなりの実力を持つ組織なのだろ?」
リュウエンは書類整理の手を止めてぼんやりと考える素振りを見せた。
「そうですね……。元々、『七大罪龍』はルナちゃんとナザールさんが伸び伸びと過ごす為に作ったものですからね」
「伸び伸びと?」
「はい。私たちがいた世界だと色々と規律が厳しい場所だったんですよ。そんな縛られた環境が嫌でルナちゃんとナザールさんは同じ境遇の者を集めて楽しくやっていました。けど、あっちの神様的な奴らが、それを許さなくて……というか気に入らなくて私たち全員を奈落の底に追放したんです」
リュウエンはそう言って小さくため息をついた。私はどこの世界にもそんな自分勝手な神はいるもんだと思った。
「奈落に落とされた私たちは大罪の力を手に入れてそのクソジジィ共をぶち殺して、それはもう楽しくやりましたよ。私もルナちゃんと結婚できたし。……………………なのに」
そこでリュウエンは言葉を切ると目のハイライトを消してメラメラと黒い炎を出した。
「なんですかあの女神は?私からルナちゃんを奪って何様のつもりなんですか?人間が至高の存在?あの低脳で下品で自分勝手で自己中で何一つ取り柄のないあの欠陥品が至高の存在とか笑わせますねルナちゃんは勇者を呼び寄せる為の誘拐に巻き込まれたんですよ?…………………アノ女神ィィイ!!!!!」
そのままリュウエンは全身火ダルマ状態となり女神ナシアナへの怨嗟の呪詛を叫んだ。幸いにも力の制御をしている様でどこも焦げた様子はない。
「…少しいいか?」
とここで入り口からシャツに短パンというラフな格好をしているナザールが入ってきた。
絶世の美女である彼女がその白魚の様に美しい四肢を惜しげもなく晒して尚且つ身体のラインがはっきりとわかる服装だと女の身である私の目にも毒である。
「あ、ナザールさん。今日は城下町20周ランニングじゃなかったんですか?」
ボフンッという音を立てて鎮火したリュウエンがナザールに聞いた。
「…今終わったところだ。それよりもルナティアが《セフィロト・シュヴァリエ》を呼び出したみたいだ」
「は、はぁぁああああ!?!?」
ナザールの報告を聞いてリュウエンは驚愕の声を上げた。
「《魂魄残響団》ならわかるけど、《セフィロト・シュヴァリエ》を出すって!?」
「…あの子があれを神殺し以外で出すのは激怒した証拠だろう。それだけのことを人間はやらかした様だ」
「お、おい、その《セフィロト・シュヴァリエ》とは一体なんなんだ?また、かなり危険なものなのか!?」
私が聞くとリュウエンとナザールは顔を見合わせた後、ナザールがリュウエンに顎で指示した。
「《セフィロト・シュヴァリエ》っていうのはルナちゃんの対神撃最終兵器軍のことです。世界に10個しかない神霊晶を核にした10体のデウスエクスマキナに超弩級空中戦艦と100体以上のエクスマキナで構成された最強最悪の兵器です。エクスマキナっていうのは生命に最も近い構造を持つゴーレムです」
「……正直言って、私もあの軍団とは正面からやりたくない。私でも下手すると死ぬからな」
「………………………そのエクスマキナはどれほどの強さなんだ?」
「強さはこの世界の基準からすると一番低い斥候でアリシアさんといいレベルです。ただ、ルナちゃんのエクスマキナは一度見た技とかを完全に模倣する能力を持っていますから……………」
なるほど、私では敵うかどうか怪しいところか。
…………………………………………………………。
「…………………胃が痛い」
最近、ストレスで胃が荒れてきたのだ。
「…見に行くか?直で見れば多少は理解できるだろう」
「……………あぁ、行くとしよう」
ナザールの提案に私は乗ってそのままルナティアがいる戦場に転移した。
***
〜sideルナティア〜
戦場の空を覆い尽くす銀色の巨大な魔法陣。そこからゆっくりと降下してきたのは魔法陣と同じく巨大な銀色の空中戦艦であった。左右に広げた巨大な鳥のような5対の翼、戦艦を3つ繋げた様な見た目にその全長は優に2000mを超えていた。
《対神撃超弩級空中戦艦・イグドラシル》
それがその銀色の艦の名だ。
イグドラシルはしばらく停滞した後、艦中央下部のハッチが開き、大量の人が降ってきた。
いや、それは人ではなかった。
見た目は人間そっくりではあるが、肘や膝などの大きな可動部分が機械であり、背には機械仕掛けの翼、胸の中央部に緋色のコアが埋め込まれていた。そして、右手の肘から先は光の剣を装備した銃剣になっていた。
その数は100を超えていた。
その人型機械………エクスマキナの軍隊はその全てが戦場に拡散する様に飛び立ち、地上を俯瞰した。
そんな中で10体の他のエクスマキナとは見るからに違うエクスマキナが私の側に降り立った。
全身を覆うラバースーツにまるで機械の甲冑を思わせるパーツ、背には機械仕掛けの翼に加えて巨大な剣型と砲台型の装備があった。
「《対神撃超弩級空中戦艦・イグドラシル》及び《世界樹乃葉》及び《世界樹乃天使》、全機顕現致しました。マイマスター、命令を」
全身が真っ白なエクスマキナは清らかな声で私にそう聞いた。
「精霊が人間に囚われて利用されておる。奴らは我らが隣人を道具として使い、使い潰しておる。これ以上の犠牲を出さぬ為に精霊を下劣な人間どもの手から救助せよ。無論、精霊の救助の際は人間はどうなっても構わん。行けッ!!」
『YES.My load』
私の命令によりエクスマキナ達は行動を開始した。
そこからは蹂躙の一言だった。
《世界樹乃葉》と《世界樹乃天使》は主であるルナティアの命令に従い、精霊が囚われている小瓶や奴隷扱いされている精霊を救助した。もちろん、その際の人間への配慮はない。
逃げられない様に手足を切断し、腕の太さもある釘で地面に縫い付ける。そして、感知を使い精霊を探し当てると精霊を解放と治療を行い、最後に人間を"焼却処分"する。
それが淡々と行われていくその様は地獄そのものである。
「なんだよ…………なんなんだよッ!一体、なんなんだよあいつらは!?」
私はみっともなく騒いでいる霧旨を処分するべく、私のメイン武器である『嘆きの翼』を手にして近づいた。『嘆きの翼』は血塗れの大きな肉切り包丁で生物に対して絶対優勢を持つレア武器だ。
「く、来るな!来るんじゃねぇ!!」
霧旨は私から離れようと必死逃げようとしているが、恐怖ゆえか足がもつれている。
「情けないのぉ、それでも勇者か?ほれ、剣を取れ。最後まで足掻くのじゃ」
一歩、また一歩と私は霧旨に近づいていく。
「ま、待ってくれ!お前、俺たちと同郷だろ!?なんで………ッ!」
そのセリフに私はイラつき、一気に近づき腹に蹴りをかます。もちろん、弾け飛ばない様に手加減をして。
「貴様らと同郷など一寸も考えたくないわ!貴様らの様な屑共と一緒にされるなど吐き気がするわッ!!」
「ゲホッゲホッ!!……わ、悪かった!ぜ、前世では悪かった!俺もほら、色々とストレス溜まってたせいで、な!?だからっ……」
「それで我を虐げて発散しておったか?…………………つくづく呆れる」
「ヒッ!?.......や、やめろ。やめろやめてくれッ!!ぎゃあああああ!!!」
私は既にへたり込んでズルズルと後退りしている霧旨の足を踏み砕いた。骨が砕ける音と肉が弾ける音が響き、霧旨の情けない絶叫が木霊した。
「貴様らは決して許さぬ。別に我を虐げたことや殺したことについてはこの際どうでも良い。じゃが、貴様らは我が愛しき嫁、最愛にして宝であるリュウエンを泣かせた。そして、我らが友であり、良き隣人である精霊すらも虐げた。それだけで貴様らの地獄行きは確定じゃ」
私は霧旨の残りの手足を力任せに切り飛ばし、動けない様にする。ダルマ状態になったそいつの頭を掴んで持ち上げる。
「さぁ、喜べ。死ぬ前に貴様には極上の痛みと苦しみを与えるぞ」
私は霧旨の顔を覗き込み、とびっきりの笑顔を見せて言った。
「や、やめて.......くれ.......やめてください.......」
私は《精神魔法》と《人体破壊魔法》で肉体と精神を保護する。こうすれば、痛みで狂うことが出来ず、肉体的にも死ぬことが出来なくなる。
「きひ、きひひひひひひッ、きひひひひひひひひひッ!」
自然と笑みが溢れる。
「我が《拷問魔法》の最高魔法の1つに体感時間を強引に引き上げるものがある。今回は最大の百万倍引き伸ばして20秒間放置する。ついでに痛覚を強化しておくぞ。
…………………精々死ぬ程の痛みで死ねない感覚を楽しむが良い」
「うわあああ!嫌だ嫌だ!助けてくれ!助けて!助けてください!!....... あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
そうして私はスキルを発動させた。
20秒後、霧旨は最早廃人のようになった。こいつの感覚で20秒の百万倍……約230日間、狂いそうな激痛の中で狂うこともできずに放置されていたから当然か。
「さて、長旅ご苦労。最後はそのまま我が喰ってやるのじゃ。もちろん、痛覚と感覚の引き上げはそのままじゃ。………………………来世などないからな」
そうして私は霧旨を《暴食の骸》を発動させて喰った。




