魔王降臨〜1
撫でて笑いかけたらリュウエンが泣き出して焦った。本当に涙もろくなったなぁ……。
私たちはしばらくそうしていた後、支度を済ませて朝食を取った。
「ルナちゃん。他のみんなを探すってなにかアテとかあるの?」
のんびりと朝食を取っていた時、リュウエンがそう聞いてきた。
「一応、アリシアが協力してくれる事になっておるが、どれだけ時間がかかるか分からんからのぉ。しかも戦争中じゃし、集まる情報もたかが知れておる」
探しに行こうにもこの世界がどれだけ広いかわからないし、全員がリュウエンの様にすぐに来るのかもわからないのだ。
「まぁ、気長に待つとするのじゃ」
「そうだね」
私たちはそうして朝食を食べ終えてからアリシアの元に向かった。
***
リュウエンとこれからの事を話しながら魔王城に着くとなにやら騒がしい雰囲気に包まれていた。
「なんじゃ?何があったのじゃ?」
「なんか、問題が発生したみたいだね」
そんなことを話しながら歩いていると前方からバロメッツさんが走ってくるのが見えた。
…………あの人、走ってるところしか見たこと無いなぁ。
「ルナティア様!リュウエン様!ちょうど良かった!着いて早々申し訳ないですが、すぐに会議室へッ!」
バロメッツさんは何やら急かす様に私たちを案内した。
駆け足気味に着いた会議室には真剣な表情をしているアリシアとその配下達が話し合っていた。
「おぉ、来たか!待ってたぞ2人共!」
入って来た私達を見つけると、アリシアは途端に明るい表情になった。
「随分と騒がしいのぉ。何があったんじゃ?」
私は城が騒がしい原因についてアリシアに聞いた。
「今から3日程前に人類軍の要の一つであるテンプレス帝国で勇者召喚があったそうだ。召喚されたのは女1人、露出度が高い漆黒のドレスアーマに闇色の剣を10本背に浮かせていたそうだ」
「露出度が高い漆黒のドレスアーマに10本の闇色の剣?……………………」
そこまで聞いて私は1人該当する人物が思い浮かんだ。リュウエンも同じ人物が思い浮かんだ様で頷いている。
「あの、その女性って、髪が足まで伸びた闇色で気怠そうな顔に目はルナちゃんと同じ十字の金眼、体型は女性ならば誰でも羨む様な抜群のスタイルだったりしますか?」
「報告ではそうだが…………、知っているのか?」
リュウエンの質問にアリシアが肯定した事によりそれが誰なのか確定した。
「…………間違いなくナザールじゃな」
「………………そうだね。ご愁傷様、帝国の皆さん」
「そうじゃな。魂が残っておればいいんじゃが…………多分無いな」
「……………………絶対残ってないよね」
「「……………はぁーーーー」」
私たちは今までナザールが引き起こした事件を思い出してため息をついた。この時ばかりは勇者ガチャで"災厄"を引いてしまった帝国に同情の念が塵の大きさ程浮かんで消えた。
「な、なんだ2人共?そんなにまで危険な者なのか?そのナザールという人物は」
私たちの様子にオロオロとした様子のアリシア。外面の面が剥がれておるぞ。
「そいつはほぼ確実に我らの仲間であるナザールじゃ。司る大罪は"憤怒"。基本的に何事に対しても無関心じゃが一度火がつくと世界が終わるんじゃないかとくらい破壊のかぎりを尽くす『憤怒の暴虐帝』、『破壊龍神』と恐れられてきたのじゃ」
「普段はのんびりしていておっきな猫みたいな人ですけどね〜………」
"憤怒龍"ナザール・テンペスト。
最初に大罪スキルを習得し、ギルド『七大罪龍』の発足者にして"最強"の剣士。
『剣を振るえば大地は削れ、山は崩壊し、海が海底が見えるまで吹き飛ぶ』
これは比喩ではなく実際に起きた事だ。
『nightmare memory』では一時期、プレイヤーやモンスターの行動によりフィールドが抉れたり傷ついたりするというシステムが試験的に導入された。
その時に既に人外レベルで火力がおかしかったナザールが本気で剣を振るった。すると、まるで世界の終焉が訪れた如く崩壊し、それに気を良くしたナザールは龍化して更なる破壊を繰り返した。
結果、被害は甚大で巻き込まれたプレイヤーは2万人以上にも昇り、運営も地形破壊のシステムの導入を取りやめた。そして、ナザールには『破壊龍神』という二つ名が着いた。
そこまで聞いたアリシア達魔王軍の皆さんは青い顔を通り越して白くなっていた。まぁ、そりゃあそうか。
「あ、でもナザールさんが人間の味方をするなんてあり得ませんよ。だってあの人、極度の人間不信で人間を見たら即座に殲滅する様な人ですから」
気の毒なくらい真っ白になったアリシア達にリュウエンは補足を加えた。
ナザールは現実世界での人間関係が原因で重度の人間不信に陥っていた。それは血縁関係の家族にまで及んでいたから相当である。私たち『七大罪龍』のメンバーはそれはもう血が滲む努力の末になんとか人間不信の枠から除外されたのである。
まぁ、私は最初から除外されていたが。
何故かって?そりゃ、ナザールは私のーーー
ーーーーパキンッ
「………………ん?なんじゃ?今の音はッ!?」
後ろから聞こえたガラスを割る様な音に振り向こうとした途端、心臓を鷲掴みされた様な感覚に襲われた。
振り向いたら死ぬ。
それだけが直感でわかった。
ーーーパキンッ、バキッ、バキバキッ!!
後ろから聞こえる音は大きくなり、生暖かく私にとって美味しそうな香りが会議室を包んだ。
ガシャン…ガシャン…と鎧が歩く重い音が聞こえてきて、私の後ろで止まった。
「ーーー久しいなルナティア。息災であったか?」
女性としては低くて聞き覚えのあるダンディな声が私の後ろから聞こえてきた。
恐る恐る振り返ると、そこには魔王がいた。
髪が足まで伸びた闇色で気怠そうな顔に目は私と同じ十時の金眼、長身の体型は女性ならば誰でも羨む様な抜群のスタイルである。服装は露出度が高い漆黒のドレスアーマにその下に紫色のボディスーツを着ていた。
背には闇色の剣を10本、翼の様に展開しており、その刀身からはぼんやりと黒い輝きの軌跡を空間に残していた。そして、手には黒い片刃の血に塗れた剣が握られていた。
そして、頭には鎌の様な黒塗りの角と剣の様に鋭い鱗に覆われた長い尾が生えていた。
「…なんだ?姉である私が来てやったのにダンマリか?」
「ひ、久しぶりじゃ、姉上」
そう、目の前の魔王ことナザールは私の実の姉であるのだ。




