目が覚めて
淡い日差しで目が覚めて、ふと胸あたりに重みを感じ、下を見ると私の胸に顔を埋めて寝ているリュウエンの姿があった。
猫のように身を沈めて、気持ちよさそうに眠っているリュウエンを見ていると自然と顔が綻んだ。あの日、私が死んでなければあの世界でもこの様な光景を目にできただろうかとふと思った。
私はさらり、とシーツに広がる炎の様な灼髪に指を通す。さらさらと指通りが良く、ほんのりと熱を持つそれを触るとなんだか楽しくなる。
「あいしているよ、リュウエン。……もう、ひとりにしないよ」
私は静かに寝ているリュウエンに小声で囁くと起こさない様に抱きしめた。
「…………………そういうのは起きている時に言ってほしいな」
とここでムスッとした声が聞こえてきた。
見下ろすと朝から不機嫌そうに細長い尾をゆらゆらと揺らしている半目のリュウエンがいた。
「なんじゃ、起きておったか。おはようリュウエン」
「…………………………」
「…………リュウエン?」
リュウエンは何故か押し黙ったまま私を見つめていた。何かやらかしただろうかと不安になっていると、リュウエンは布団から這い出て私の両頬に手を添えた。
「リ、リュウエン?ど、どうしたのじゃ?」
「……………………」
少し顔を起こせばキスができるくらい近づいたリュウエンの紅玉の様に輝く瞳は真っ直ぐ私に向いていた。そして、
「ーーーよかったぁ、夢じゃ、ない」
リュウエンはひどく安心した様子で私に抱きついてきた。強く強く、絶対に離さない様に強く。
私は言葉が出なかった。私の死が、彼女をそこまで苦しめていたなんて思いもしなかった。今の発言は今までに似たような夢を見たことがあったからだろう。でなければ、この様にはならないはずだ。
「ルナちゃん………おいてかないで、ひとりに、しないでっ……」
嗚咽混じりの声に私は心臓が痛くなった。『天野 澪』だった頃、どんなに傷つけられても貶されてもうんともすんとも無かった。
けれど、リュウエンの嗚咽混じりの声を聞いた途端、今までにない痛みが私を襲った。耐えられない、耐えようと微塵も思えないつらい痛みだった。
「ひとりにせん、ちゃんと側におる。お前を置いてどこかに行かんよ」
私は出来るだけ優しくリュウエンの頭を撫でた。
***
〜sideリュウエン〜
正直、不安だった。
昨日のあれこれが夢で今もまだルナちゃんがいないあの世界にいるんじゃないかと思った。だから、確かめて目の前のルナちゃんが本物だと確信してほっとした。
朝、とろとろとした睡眠から、ゆっくりと、でも確実に目覚めに向かっていく微睡みの中、体が温もりに包まれて起きたくないと寝ぼけていた時、
「あいしているよ、リュウエン。……もう、ひとりにしないよ」
そんなルナちゃんの甘くて優しい声と抱きしめられる感覚に覚醒して目を開けると優しく微笑んだルナちゃんの顔があった。
私はすぐにルナちゃんに近づいて本物かを確かめた。
雪の様に真っ白な肌に赤銅色のまだら模様のある絹の様は銀髪、澪ちゃんの面影を色濃く残している整った容姿に焼きたてのお菓子のような魅惑的な甘さを持つ香り。戸惑った様に揺れる瞳と反応は澪ちゃんと同じだった。
そこで私は安堵して抱きついた。ルナちゃんの匂いが一層強くなって、泣きそうになった。
夢じゃなかった。紛れもない現実だ。それだけで私は嬉しかった。
するとしばらく驚いた様子で固まっていたルナちゃんが凄く優しい声で泣いてる私の頭を撫でてくれた。
「ひとりにせん、ちゃんと側におる。お前を置いてどこかに行かんよ」
身体や喋り方が変わっても声と撫で方は変わってなかった。見上げるとキラキラと輝いて見える顔で笑っていた。
その顔を見てまた涙腺が緩んでしまい、泣いてしまった私をルナちゃんは黙って抱きしめてくれた。
神様…………ありがとう。




