幕間〜方舟の仕事
しばらく幕間が続く予定です
そして気づけばブックマーク500件越え。本当にありがとうございます
一昔前までは想像の産物と思われていた呪術や超能力が日の元に晒されて人々に認知される様になった時代において、呪術や超能力といった力はほぼ日常的なものになっていた。
……そして、その力を悪用する者もまた増える一方である。
「──おい、これで全部か?」
とニットのフルフェイスマスクをつけたいかにも強盗ですと言わんばかりの格好をした男が他の仲間にそう聞いた。
「金庫の中はこれで全部だ。あんまりガメつくと後が困るからこれで仕舞いにしようぜ」
そう答えるニット帽にバンダナで口元を覆った男の側には大量の札束や宝石や時計など貴重品が入ったボストンバックがいくつか置いてあった。
某県某所のとある銀行にて強盗が発生した。
犯人は2人組の男でどちらも化学処理異能力を施されており、超能力を扱う事ができる。
化学処理異能力とは現代の化学技術により発現した超常的な能力のことであり、種類は様々である。パイロキネシスやサイコキネシスなど既存の異能力もこれで手に入れる事ができる。
一般的には超能力の方が普及しており、呪術は専門的なものである為、あまり流通していない。
もちろん、超能力も呪術も悪用することは法律で禁止されており、発現した場合はすぐに法的機関に届け出を出して登録を行わなければならない。
「しっかし、ほんといい時代に生まれたよな俺たち」
「だな。こんな便利なやつがあるからな。力は使ってこそのもんだぜ」
と男たちは上機嫌にそう会話している。もちろん、彼らは異能力の届け出を出しておらず、違法手術により異能力を手に入れた者だった。
彼らはその違法な手段で手に入れた異能力を使って、銀行強盗や窃盗を繰り返している常習犯だったのだ。
今回もいつもの様に犯罪を犯していたが…………今回は運が悪かった。
「───まったく、お前んらみたいな輩がおるからウチらの仕事が増えるんやで?」
「「ッ?!」」
突然背後から聞こえた女の声に驚き振り返れば、そこには人懐っこい猫の様な容姿のスーツ姿の女……薫海がいた。
「お前、何者だッ!!どっから入って来たッ!!」
とフルフェイスマスクの男はそう怒鳴る様に言った。
「どうやって?まぁ、まずはそう聞くやな。入り口はシャッターで閉じらた上にどっちかのあんちゃんの超能力でガチガチに固められておったしな。窓も同じやったね。ま、ウチには関係ないんやけど」
薫海はそう言うとその瞬間、身体が半透明になり近くに建っている柱をすり抜けて見せた。
「……壁抜けか!」
「いや壁抜けやないんやけど……まぁ、似た様なもんやな。……………さて、さっさとお縄に付いてもらうでやんちゃ坊主ども」
と薫海はそう言って、警棒の様な物を虚空から取り出して悪人ヅラで笑った。
「テメェ1人で何ができるんだよ。俺たちは戦闘型だぞ?テメェは非戦闘系に加えて女じゃねぇか」
とフルフェイスマスクの男が薫海を嘲る様にして言った。
「いや、あんちゃん達アホか。ウチがいつアンタらを相手するって言ったんや?相手するのはこっち」
と薫海が警棒でピッと壁を指すと分厚く作られている筈の銀行の壁の一部が轟音を立てて砕け散り、その穴から氷の様に冷たい双眸を持った美女……鈴奈が現れた。
鈴奈は薫海と同じ黒いスーツを着ており、両手には甲に幾何学模様が刻まれた革手袋を付けていた。
「おい鈴奈。あんまり壊すやないで?まぁた、怖ーい局長にどやされるで?」
「…これは必要経費だ。私は普段から被害を最小限に抑えてるぞ」
「いや、抑えてるぞって………まぁいいや。ほなよろしくなぁ鈴奈」
「…わかっている。お前は結界を張っとけ」
「はいはいわかっちょるよ〜っと」
と薫海は手で印を結んだ後に両手の平を床に叩きつけた。すると彼女を基点に半球体状の術式が宙に舞い、銀行の建物ごと包み込んだ。
「はい。終わったで。ほれ、あんな赤子ちゃんをちゃっちゃと片付けてくれや」
「…了解。一応聞くが、投降する気はないか?」
鈴奈はそう面倒くさそうに彼らに言った。
当然この行為は彼らのプライドを傷つけるもので現に彼らからは怒気の気配が伝わってくる。
「……する気はないな。では、いくぞ」
彼らの様子を見て、鈴奈は小さくため息をついて拳を構えた。
────そこからは蹂躙だった。
まず鈴奈はたった一歩でフルフェイスマスクの男に距離を詰めると下から掌底打ちで相手の顎を砕くと同時に脳を揺らして脳震盪を起こして昏倒させた。
遅れてバンダナの男が気づいた時には既に鈴奈はフルフェイスマスクの男の顎を砕き終わったところで彼は慌てて鈴奈に向かって指を銃の様な構えを取り異能力を発動させようとしたが、鈴奈はその指を回し蹴りで根元からゴッソリ蹴り飛ばし、そのまま顎を踵で蹴り昏倒させた。
その一連の流れにかかった時間は僅か20秒である。
「うわぁ…………大体わかっとたが、あっという間やなぁ」
「…薫海。後処理は頼むぞ」
「はいはい。了解でーす」
こうして地元警察を悩ませていた2人組の強盗犯の鎮圧は終了したのであった。




