郷土料理〜1
こちらの方はお久しぶりです。
幾分か客室でのんびりと過ごしていたら、入り口のドアからノック音が聞こえて来ました。
「どうぞ」
私が返事をすれば「失礼します」と声がかかり、扉から年若い女官が入ってきました。
「ティアムンク様。お食事の準備が整いました。貴女様の準備が整い次第ご案内致します」
それは食事の時間を知らせる案内でした。
「わかりました」
私はそう答えて立ち上がり……とこのままの服装では失礼に当たりますので、トンッと踵を鳴らして別の服へとドレスチェンジしました。
この技は別に珍しいものではありません。設定されたワードを行えば瞬時に着替えられる『ドレスアップ』という技能です。まぁ、他の視点から見るとさっきまで着ていた服が空気に溶ける様に消え、それと同時に別の服が出てくる様に見える様ですが。
今回の服装は黒をベースにカッチリとした軍服です。デザインとしては旧日本軍陸軍制服に似た感じでしょうか。服装に合わせて髪も短く肩口まで。私の髪は瞬時に伸縮自在ですからね。
「では、案内をお願い致します」
「は、はい。ではこちらです」
メイドさんは少し驚いた様子を見せましたが、すぐに表情を整えて案内をしてくださいました。やはり、本職は違いますねぇ。
***
「──あ、良い匂いですね」
案内された部屋に近づくにつれて漂ってきた匂いが鼻をくすぐり、私は笑顔を浮かべます。
私のこの身体は本来食事を必要としません。
私が“狩り"をする理由は単に自身の嗜虐心を満たす目的と衝動を抑えるため。今の私にとって食事とは身体と心のバランスを整える為のものです。
ですので私は食べる事は好きですよ?
部屋に着くと既にメアリーとアリシア様がおりました。
「………先生髪切りましたか?」
とメアリーは目を丸くしてそう言いました。まぁ、知らない人からすればそうでしょうね。
「いえいえ。私の髪……というよりこの肉体は無数の触手が寄り集まって人型を形成して出来ております。この様に」
私はそう言って右手だけを触手に戻して見せました。
「ですから身体的見た目は自由自在ですの。……ただ、色彩はこれに固定になっております」
「なるほど、そうでしたか。………さ、さぁ!立っているのもアレですので先生どうぞ、食事をしながら」
「えぇ、わかりました」
私はそうしてメアリーに席を促されて座りました。テーブルの上には郷土料理なのか様々な料理がとても良い香りを放ちながら置いてありました。
……………ただ、気になる点が1点。
「見事に赤いですわね」
殆どの料理が赤い。香りからして唐辛子などの辛い物はあまり使っていない様ですが、それにしても赤い。あと、肉が多い。
「我が国の伝統的な料理でな。本来なら血を使うのだが、……あまり好まれなくてな。代わりにトマトやビーツなどの赤い食物で色付けしている。かなり美味しいぞ」
とアリシア様が楽しそうにそう言った。
「なるほど………では思う存分楽しませてもらいましょうか」
こうして私たちはカタキムルバスの郷土料理を味いながら楽しい会話を始めました。
少しばかり宣伝を
気休めに書きました。好評であるなら続くかもしれません。
『仙天狐の付き人〜傀儡使いの月梟が自らの居場を見つけるまで〜』
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