アリシアの帰郷
〜sideアリシア〜
ルナティアの男体化騒動が終結し、ようやく普段の日常が戻ってきたある日、私にとある連絡が来た。
連絡は妹のメアリーからだった。
連絡の内容は近々、吸血鬼族の祭典である『血天祭』の時期が来た為、共に参加しようといったものだ。
これまでは戦やら政務やらで忙しくて帰郷できてなかったが、ようやく落ち着いてきた。
そういうことで私は久々に実家に帰ることにした。
そして、次の日…………
「………はい?私が同行………ですか?」
私は執務室にティアムンクを呼び出した。
「あぁ、そうだ。メアリーが是非君もと言っていてな。………随分と慕われている様で何よりだ」
ティアムンクはメアリーに呪術系魔法講座を定期的に開いてくれている。そのおかげもあってなのか、メアリーからの連絡には必ずティアムンクのことが出てくる。
…………妹を慕う姉としてはなんだか取られた感じで複雑な気分だが。
まぁ、お互い面識のあるし、それに彼女は妹の恩人でもある。そういった事で祭りに招待するのもいいと考えた。
「……わかりました。そういう事でしたら私も同行させていただきますわ。ただ、準備の為に少々お時間をいただいても?」
「あぁ、構わない。すまないな」
「いえいえ。私もフロイラインとも直ででお話したりしたいので。それにアリシア様の故郷というと吸血鬼の国というわけでしょ?そちらの方にも興味がありますので」
そうして、ティアムンクとの打ち合わせは終わった。
………………その日の夜。
今日はここら辺では珍しく大雨が降って来た。
この辺りの気候は夏は日ざしが強く乾燥して冬には雪ではなく雨が降る。雨といってもせいぜい地面を湿らす程度の弱いものがほとんどだ。
(……………今日は雨が酷いな。何かの前兆で無いといいが)
そう思いながら私が1日の仕事を終え、寝る支度をしていたその時、
辺りから音が消え、明かりも消えた。
「ッ………なんだ?」
この城の明かりは大半が魔蓄式の魔導具を使用しており、定期的に内蔵魔力の補充を行っている。明かりについてはちょうど内蔵魔力が切れたということで説明は付くが、外の音まで消えるのは不自然だ。
私はそこで留まるのは良くないと思い、部屋から出ようとしたその直後、身体の芯がゾッと冷え込む様な異様な魔力を背後から感じた。そして私が後ろを振り返ろうとした時、
『待てアリシア、振り返るで無い。我じゃ、ルナティアじゃ』
と妙にぐぐもったルナティアの声でかけられて肩に手が置かれた。ただ、その手の感触が明らかに人の体温が感じられず、非常に冷たかった。
そして、声に関しても何重にも合わさった様な不気味なものになっていた。
「る、ルナティア………なのか?」
『あぁ、そうじゃ。すまないな、少し話しておきたい事があってそれが誰かに聞かれると少々まずい事なんじゃ。故に我の領域に主を引き込んだのだ』
「そ、そうなのか………なら何故振り向いてはいけないのだ?」
『我は深き者達の王であり、この領域において今の我が姿を直視すれば精神に異常をきたしてしまう。だからこのままで話を聞いてくれ』
「………………わかった」
ここは素直に従うことにした。何故なら先程から私の《危機察知》が最大レベルで警報を鳴らしていたからだ。
『では伝えるぞ。…………我が伝えたい事はティアの事じゃ』
「ティアムンクが………どうした?」
『ヌシはティアを同行人として連れて行こうとしているそうじゃな。……まぁ、それは別にいい。奴は枷が外れている時は手に余るが平常時は一応まともじゃ。立場等がわかっているが故にうまく立ち回るだろう。…………………じゃが、今日の様な雨が降る夜には決して奴には近づくな』
「…………それは、何故だ?雨の日に何か起こるのか?」
『あぁ。我とティアが人喰いだというのは知っておるな?特にティアは雨の日の夜にその人喰い衝動が強く出る。性格も普段のものから打って変わって残忍なものとなる。その状態のティアは敵味方関係なく"狩り"と称して殺戮を繰り返す。そうなったら私でも止めるのは難しい。ヌシの故郷がどんな場所かは知らんが充分気をつけろ』
「…………わかった。肝に銘じておく」
『あとは出立する時にメモとして渡しておく。夜遅くにすまなかった』
そうしてルナティアの寒気がする様な気配と共に消えると部屋の明かりと外からの雨音が戻って来た。
「…………………はぁ」
これは………帰郷してもまた面倒なことになる




