お友達
いつだっただろうか。桜の花が散り、葉が青くなり始めた頃だったと思う。
どうやら私は人から見ると美人と呼ばれる部類らしく、何度か告白を受けたことがあった。
あの時も突然ではあったが廊下で呼び止められ、好きです、という至極シンプルな告白を受けた。
「高嶺紅葉先輩、好きですっ! 付き合ってください!」
高校2年生になり後輩が入ってきたばかりの私は、先輩、という響きに何とも言えぬ快感や喜びのようなものを感じていた。が、それと同時にある違和感が頭を過った。何か間違ったものを聞いたような。
その違和感の正体は至極単純なものだった。今思うと、あんなことにすぐ気がつかないとは、私はよっぽど気を抜いていたのだろう。先輩、という言葉に舞い上がっていたのかもしれない。
告白の主をよく見てみた。私が165センチと女性としては高めであることもあるが、頭ひとつ違うのではないかと思う程の小さな身体。150センチないのではないだろうか。二つ結びを少し上でしているようなセミロングの黒髪。見るからにサラサラだ。ぱっちりした二重の目。女の私から見ても可愛いと思う整った顔。そして女子用の制服。なによりも―――――。
「あの、先輩……?」
高くやわらかい声。可愛い声。明らかに女の子の声。
あれだろうか。芸能人の佐藤なんたらさんとかなんたらかよさんとかいう人みたいなやつだろうか。オタクっぽい友人がこの前言っていた男の娘というやつだろうか。きっとそうだ。こんなに可愛い子が女の子のはず………ではなくて、こんなに可愛い女の子が私に告白するはずがない。
「その、私には君は女の子に見えるのだけど、君は本当に女の子かい?」
「はい。あ、生徒手帳見ます?」
彼女の答え、彼女の生徒手帳に書かれた性別は、どちらも彼女が女性であることを肯定するものだった。
ううむ。困った。私はそっち側の趣味はないのだが。
「その、だな。私は同性愛には興味がなくて。ああ、いや、別に否定するつもりは全くないんだが、ちょっと急だったもので」
「いいんですよ、それで。だから」
だから?
「その、お友達からお願いします」