第八話 8
ある男は、十年前に退職した元刑事に話を聞いていた。
「私は、四十年前に起きた米澤和吉殺害事件を調べているんですが、あなたが事件を担当されてますよね? 覚えてらっしゃいますか?」
ある男は、元刑事に資料を渡すと、元刑事は最初は怪訝な顔をして、ある男を睨みつけていたが、渡された資料を食い入るように読み込むと、「ああ、あれか!」と叫んだ。
「ああ、思い出したよ! あの事件は、変な事件だったからな」
「やっぱり、そうだったんですか」
「あの事件は、被疑者の自分が夫を殺したという書置きがあったことと、被疑者が投身自殺していることで、すんなり処理されてしまったが、俺は米澤和吉の遺体に違和感を抱いていた。検死した監察医に、もう一度調べろと言ったのに、アイツは『その必要はない』の一点張りで、遺体はすぐに遺族に戻されてしまったんだ。俺も在職中は、多くの事件に関わってきたから、普通だったらこういう事件はすぐに忘れるもんだが、この事件だけは、ずっと頭の中に残ってたな」
「そうなんですか」
「それにな、被疑者が海に飛び込んだ時、目撃者は数人いたものの、いくら探しても遺体は、上がって来なかった」
「ええっ!」
「まぁ、あんなところから飛び降りたら、ひとたまりもないだろうがな。沖へ流されて、鮫の餌にでもなったんだろう。俺も昔の仲間に連絡を取って、もう一度調べてみてやるから、何か分かったら、教えてやるよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ある男は、自分の連絡先を書いたメモを元刑事に渡すと、元刑事は「ここに連絡すればいいんだな」と言い、ある男は頷いた。




