第八話 1
「それでどうだった? 成果はあったの?」
山本道代は、唐吉の事務所にいるのがさも当たり前のように毎朝現れ、唐吉から常木美也子の調査結果を聞いていた。
「やっぱりやって良かったでしょ?」
「まぁな」
「だって予感がしてたのよ。常木さんは物言いが乱暴だったけど、絶対良い人だって思ってたのよ。気前も良かったんでしょ?」
新宅正司が話に割って入った。
「ええ、すごーく気前の良い人で、案件が完了した途端、請求額の二倍の金額が振り込まれてたんですよ! 僕が、『間違ってますよ』と電話したら、『間違ってないわよ、私の気持ちよ』とおっしゃってました!」
「本当に良い人だったな……。人は見かけによらないって話は、現実にあるんだな」
「そうだよ。でも、私は、世の中、悪い人なんてそんなにいないって思ってるけどね」
「そうかもしれないな」
「それで、城ケ崎マリーナには行ったのね?」
「ああ、城ヶ崎マリーナのすぐ近くの賭博場に行ったし、常木さんと亡くなったうちの父親が偶々知り合いで、父親の趣味が釣りだったそうだから、城ヶ崎マリーナをよく利用していたんだろうなとは思った」
「そうだったんだ……。お父さん、釣りが趣味だったんだね。じゃあ、城ヶ崎灯台は?」
『城ヶ崎灯台は?』と聞かれて、唐吉の顔が急に曇った。
「行かなかったけど、常木さんが城ヶ崎灯台の話をしてくれた」
「富戸港には行った?」
「行かなかったし、話にも出なかった」
「え、なんで?」
「なんでって、そんなの知るかよ。さっきから、というより、君、時々、言ってることがおかしいよね?」
「そうなんでしょうけど、富戸港に行かなきゃいけない気がするのよ」
「依頼は無事完了したんだから、富戸港に行けなかったからって、何ら問題はないだろう」
「それはそうだけど……」
山本道代はそう返事をしたが、唐吉と目の前で話したことで、まだ解決していない唐吉に関する何かが富戸港にあると山本道代は確信していた。山本道代は、ふと腕時計に目をやり、「大変! もうこんな時間! お客さんを待たせちゃってるわ!」と叫び、そそくさと自分の事務所へ帰って行った。




