第一話 9
大学の講義の後、珍しく僕と山本道代は別行動をしていた。僕は、返し忘れていた本を図書館に一人で返しに行き、先に部室に向かった彼女を追った。部室に到着すると、山本道代と数人の先輩がプラネタリュウムの設計図を見ながら、あれやこれや歓談していた。僕は今まで、山本道代が、僕の前では一度も男子学生と話しているのを見たことがなかった。それなのに、今日の彼女は違った。山本道代は、僕がいることに気付いていないのか、男子の先輩達とそれはそれは楽しそうに会話を交わしていた。その光景を見た瞬間、僕は頭に血が上り、彼女の腕を掴んで部室の外に引っ張り出した。彼女の驚きっぷりは尋常じゃなかった。ただ無言で大きく目を見開き、僕を見ているだけだった。
「今、何をしていたんだ?」
「何をって、先輩と話をしてただけ」
「話だと? 笑ってたじゃないか!」
「吉田先輩が冗談ばっかり言うから」
「そんなに吉田先輩の冗談が面白いのか? どうせ俺は面白くないよ!」
「何が言いたいの? ただプラネタリュウムの話をしてただけじゃない。妬いてるんだったら、素直にそう言えば?」
「お前みたいな男たらしなブスに本気で俺が惚れると思ったのか? 冗談も休み休み言え!」
「はぁっ!? どういうことっ!?」
「どういうことって、そういうことだよ!」
「お付き合いも結婚の約束も最初からなかったってこと?」
「そういうことだよ!」
「本気で言ってるの!?」
「俺はいつも本気だ」
「わかった、さよなら」
山本道代はそう言うと、僕の前から走り去った。
その後、僕は退会届を提出し、唖然とする先輩達を置き去りにしたまま、その場を後にした。
僕のバラ色の人生は、たった三ヶ月で幕を降ろした。