第七話 8
僕は、新宅正司と共に、城ケ崎マリーナの近くにある賭博場の前にいた。指定暴力団、流山組の本部は横浜だが、組長の別荘が城ヶ崎海岸にあり、クルーザーも所有していると坂崎雄二から情報を得ていた。
「シキがあるのはここだな」
「シキ?」
「あ、すまん、賭博場のことだ」
「でも、常木彰浩が潜伏してるのは伊豆じゃないですよね。絶対、東京とか横浜とか都会ですよね?」
「坂崎が、流山組の若手が常木彰浩を追って出没しているのは、東京か神奈川だと言ってたから、まぁ、そうだろうな。でも賭博場の近くの飲み屋をあたってみる価値はある」
「なんだか、刑事か探偵になったような気分ですね! ワクワクしてきました!」
「こら! お遊び気分でいると、痛い目に合うぞ! 常に細心の注意を払い、緊張感を持って仕事しろ。そしていつでも逃げる体勢を整えておけ」
「はい、わかりました!」
僕と新宅正司は、賭博場の近くにあるバーに入った。小さな店には、一般客が十人くらいと、ヤクザと思われる客が数人いて、僕と新宅正司は、そのヤクザとホステスの会話に神経を集中していた。
「今日の賭けは凄かったな。篠田の兄貴が独り勝ちしてたじゃないですか」
「ああいう勝ち方は良くないな。ほどほどにしておかないと後が怖い」
「まぁ、そうですね。大勝ちしても大負けしても良くないですね。ほどほどがいいですね」
「ところで、お前、常木はどうなったんだ? 何か情報はあったか?」
急に常木の名前が飛び出したので、僕も新宅正司も飛び上った。
「それがですね、全然分かんないんすよ」
中年の男が、反対側の席にいるホステスに話し掛けた。
「おい、リサ! お前、何か知ってるんじゃないのか? 常木のヤツ、お前を気に入ってただろう?」
「冗談はやめてよ! 私が知ってるわけないでしょ! 常木さんとはもう完全に縁が切れてるの! 浮気してるのがバレて、奥さんに乗り込まれて大変だったのよ。それ以来、常木さんとは関わらないようにしてる。ボトルを何本も入れてくれた良いお客さんだったけどね」
「そうだったのか。しかし、あの女房は昔っから人騒がせなヤツだな。ヤクザに女が何人もいるのは当たり前だろ」
「そうでしょ? 私も、本気じゃなくて浮気なんだからいいじゃないのと奥さんに言ったんだけど、いきなりビンタ食らったもんだから、つかみ合いの喧嘩になって、店が滅茶苦茶になったの。後でオーナーに大目玉食らっちゃった。それ以来、常木さんとは会ってもないわ。どうせまた、新しい女でも捕まえてどっかに潜伏してるんじゃないの? 年寄りだけど、良い男だからね」
それから、一時間ほど店にいたが、常木の話はそれ以降出ず、僕と新宅正司は諦めてバーを後にした。
捜査を開始してから、十日間が過ぎていた。坂崎雄二は頼りになるヤツだったが、僕は次第に焦りを感じていた。




