第七話 5
沢登小五郎は、仏壇に手を合わせていた。仏壇には、五年前に亡くなった妻のあおいと、三年前に亡くなった母の遺影が置かれていた。しかし、位牌は三つある。妻と母と、もう一つは、この世に生まれてくるはずだった子供のものだった。
アトリエには、あおいをモデルにした等身大の木彫りの像が置かれていた。まだ、製作途中だったが、完成は間近だった。沢登小五郎は、両腕を回して肩をほぐし、一呼吸吐くと、完成に向けて一心に彫り始めた。
山本道代は、団子屋に立ち寄り、団子を土産に沢登小五郎のアトリエを訪れた。小五郎と唐吉が子供の頃に仲良くしていたマツ婆ちゃんは、実は自分の祖母だと告白しようと思っていた。
「こんにちは」
山本道代は、尻尾を振って近付いて来た豆太郎の頭を撫でた。
「あ、どうしたんだよ。珍しいな。君がここに来るなんて」
「この近くのお客さんの家を訪問しなくちゃいけなかったから、ちょっと寄ってみたのよ」
「そうなんだ」
「お団子好きだったでしょ?」
「ああ、うん」
「うちのお祖母ちゃんも団子屋やってたから、私も好きなのよ」
「え? 団子屋やってたの?」
「うん、三丁目の団子屋」
「え? もしかして、煙草屋の真ん前の?」
「そう」
「えーーーっ!!! もしかして、マツ婆ちゃんの団子屋!?」
「そうだよ」
「なんで早く言ってくれなかったんだよ! 僕も唐吉も子供の頃に、マツ婆ちゃんには凄くお世話になってたんだよ!」
「うん、私もつい最近知って、びっくりしたんだよ」
「ふーん、そうかぁ」
「子供の頃、もっとみんなで仲良くしておけば良かったね」
「そうだなぁ」
山本道代は、アトリエに飾られているあおいの写真を手に取り、「あおいちゃんとも、もっと仲良くしておけば良かった」とぽつりと呟いた。
山本道代が唐吉と付き合っていた学生時代、沢登小五郎と来栖あおいの四人で仲良くしていた時期があった。しかし、唐吉との付き合いがたった三ヶ月で終わったせいで、唐吉の親友だった沢登小五郎とも自然に会わなくなり、その後、自分が調査事務所を開くまで、二十年近くも沢登小五郎と疎遠になっていた。
「あのさ、私、もう後悔したくないんだよ。だから、唐吉にも打ち明けて、みんなで仲良くしたいと思ってる。そのほうがいいでしょ、人生短いんだから。人間なんて、いつ死ぬかわからないもの」
「そうだな。本当にそうだよ。君の言う通りだよ。もっと早く仲良くすべきだった」
沢登小五郎は、そう言って笑った。




