第七話 3
みやこ食堂に午後三時十分前に到着すると、「待ってました!」とばかりに常木美也子が僕達に話し掛けてきた。
「それでさ、うちの旦那を捜して欲しいって話なんだけどさ、アイツほんとにどうしようもないヤツなんだよ。道具でクンロクを入れてくるわ、女房のアタシにカスリをよこせとか、ありえねぇだろ? アタシはこれでもカタギなんだよ。アイツは金主でもなんでもねぇ、ヤクネタでしかねぇ。アタシはアイツから一銭も貰ってないからね。なんであんなのと結婚したんだろう? 苦労しっぱなしだよ。アイツは切符貰って大学に行きゃあいいんだよ。シャバにいちゃまずいヤツだからさ。どこへバックレやがったんだか、どうせまた賭けに負けてケツを割ってるんだろうけどさ」
と、一気に常木美也子はまくし立てたが、新宅正司は、口をポカンと空けたまま、僕に「常木さんのおっしゃってることが全く理解できません」と小声で僕に耳打ちしてきた。僕は、新宅正司に通訳してやった。
「それでさ、うちの旦那を捜して欲しいって話なんだけど、あの人は本当にどうしようもない人なのよ。拳銃で脅してくるわ、妻の私にみかじめ料を払えだとか、ありえないでしょ? 私はこれでもヤクザじゃなくて一般人なのよ。あの人はスポンサーでもなんでもない。疫病神でしかない。私はあの人から一銭も貰ってないからね。どうしてあんな人と結婚したんだろう? 苦労しっぱなしだわ。逮捕状を貰って刑務所に行けばいいのよ。一般社会にいちゃまずい人だからね。どこへ行ったのか、どうせまた賭けに負けて逃げたんだろうけど」
新宅正司は、目を白黒させ、感心しながら頷いていた。
その様子を見ていた常木美也子は、「あら、ごめんね。カタギになったのに、ついつい癖が抜けなくてね。でも、米澤さんて、ヤクザ言葉が分かるのね」
「所長は元検事なんですよ」
新宅正司が言った。
「そうなの! だったら、話が早いわ! 米澤さんの情報網を使ったら、うちの旦那なんかすぐに捕まるわよね?」
「はい、そうかもしれません……」
そう僕は常木美也子に返事をして、早々にみやこ食堂を後にした。
「所長、凄かったですね! あのヤクザ言葉がすんなり分かるなんて尊敬しましたよ! さすが元検事!」
「新宅君、問題はだな、俺が検事じゃなくて元検事ってことなんだよ」
「あそっか」
「はぁ……」
僕は大きなため息を吐いた。




