第五話 12
朝比奈真理と、女優の原田かおりが感動的な再会を果たして、一週間が経った頃、再び香月由美が事務所を訪れた。彼女が事務所を訪れたのは夕方で、新宅正司は山本道代の事務所を手伝わされるために呼び出されて、事務所には僕一人しかいなかった。
「唐吉さん、本当にありがとうございました。真理ちゃんもお母さんも本当に喜んでいました。お母さん、退院するのは一ヵ月先だそうですけど、退院した後、一緒に住むことにしたそうですよ」
「そうなんですか! それならお母さんも心強いですね」
「ええ。退院しても高齢者の一人暮らしは、何かと不自由でしょうから。でも、私も唐吉さんに会えて本当に良かった」
「白石夫妻を紹介してくれた木本さんが繋いでくれたご縁ですよね」
「そうなんですか? でも、私、看護師になって初めてお世話した患者さんが、あなたのお祖母様の米澤はる子さんなんですよ。だから、はる子さんのことはよく覚えているし、そちらの縁で白石さんとのご縁があったのかと思ってたわ」
「えっ? 祖母を世話してくださってたんですか?」
「ええ」
「祖母が亡くなったのは僕が三歳の時で、祖母との思い出はほとんどないんです」
「そうなんですか……。ああ、でも、今思い出したわ! 私、唐吉さんとお会いしてるわ。お母様に連れられて、病院に来られたことがあったもの。お祖母様もお若い頃は、お綺麗だったんでしょうけど、お母様も随分綺麗な方でしたね」
「母も僕が五歳の時に亡くなったので、あんまり母の記憶がなくて……。でも、この間、母の若い頃の容姿を知る機会がありまして、僕はどちらかというと、父親似だったんだなと思いました」
「ふふ、そうなのかしら? でも、唐吉さんはお母様にも似てらっしゃると思いますよ」
香月由美がそう言ったので、僕は少し照れた。
「母と祖母は仲が良かったんでしょうか?」
「お祖母様もお母様も優しい方だったと思うけれど、ごめんなさい、正直言って、仲が良かったとは言えないかもしれないわね……」
「……」
「人様のご家族のことをこんな風に言うのは、本当に申し訳ないと思うんですけど……」
「あの、良かったら、母と祖母のことを教えてくれませんか?」
「はる子さんが私に話してくれたことがあったんです。唐吉さんのお父様が腕の骨を折られたことがあって、車の運転が出来ない時期があったらしいんです。でも、どうしても出掛けなければならない急用ができて、お母様が自分の車の助手席にお父様を乗せて運転していたらしいんです。その時に、ダンプカーに追突される事故に遭って、お父様は大怪我を負ってしまったの。はる子さんは、優しいお嫁さんで良い人だと分かってるのに、それ以来、私はお嫁さんを恨んで辛く当たってしまうようになって、自分が情けないとおっしゃってたんです」
「そうだったんですか……」
「唐吉さんのお父様は、その事故以来、下半身付随になり、両手にも痺れが残って上手く動かなくなり、ほとんど寝たきりになったそうです。はる子さんは、身体を動かすのが大好きでスポーツマンだった息子が、ベッドに寝たきりでいるのを見るのは、本当に辛いとおっしゃってました」
「言いにくいだろうに、正直に話してくださって、ありがとうございます……」
「真理ちゃんもそうだけど、人生色々ですよね。唐吉さんには、本当のことを言うべきだと私も思うんです。だから、本当のことをお伝えしました」
事務所でそんな話をした後、香月由美は、笑顔で言った。
「小夜子さんが亡くなってから、しばらく仕事をお休みしていたんですけど、白石さんの紹介で明日からまた新しい患者さんのお世話をすることになったんです。明日から、また忙しくなるわ」
僕が「頑張ってください」と返すと、「ありがとうございます」と香月由美は笑顔で言い、事務所を後にした。




