第五話 5
「森山、もうそろそろ、あの車を処分しなければと思う。私も終活をしなければ」
米澤唐左衛門は、窓から見える車庫の中の古いセダン型の車を見ながら、そう森山に話しかけていた。
「何故、乗りもしないあんな車を何十年も手元に置いていたのか……」
「和吉様があの車を颯爽と運転されていたのが、昨日のことのように思い出されます」
「そうだな」
「和吉様が免許をお取りになって、私をドライブに連れて行ってくださったのが、今でも忘れられません」
「そうか、そんなこともあったな」
「和吉様は、本当にお優しい方でした」
森山がそう言うと、米澤唐左衛門も深く頷いた。
「もうエンジンは、動かないだろうな」
「いえ、動きます」
「えっ? もしかしてずっと整備していたのか?」
「さようでございます。和吉様は、元気になったら、再び運転したいとおっしゃっていましたし、手入れを怠れば、再び動くことはないだろうと思いました。和吉様亡き後、唐吉様が運転されることもあるかと思いまして……」
「この車だったら、あんなことにならなかったかもしれんな。小さな車に乗っていたから、あんなことになった……」
「そうかもしれません……」
「唐吉は車には興味がないだろう。森山、処分してくれるか?」
「はい、承知致しました」
そんな会話を二人で交わしていたら、車庫の前に真っ赤な外国車が停まった。米澤綾子が運転する車だった。米澤綾子は、出迎えたメイド二人に手土産を渡すと、米澤唐左衛門と森山がいる居間へと急いだ。
「伯父様、遅くなってごめんなさい。道が込んでいましたの。私に何の御用だったのかしら?」
「和吉の遺品を整理しているんだよ。なかなか処分出来なくて、ずっと手元に置いていたんだが、私もそろそろ終活をしなくてはいけないし、欲しい物があれば持って帰って貰おうと思ったんだよ」
「終活だなんて、やめてください。伯父様には、まだまだ元気でいてくださらなければ」
「和吉の遺品といっても、大したものはない。アイツは本当に欲のないヤツで、ガラクタしか残っておらん。綾子は、アイツが使っていた万年筆を欲しがっていただろう?」
「ええ。和吉さんが使っていたものなら、なんでも欲しいわ」
「しかし、あの車はいらないだろう?」
「あの車って、白のセダンですか?」
「そうだ。処分しようかと、今、森山と話していたところだ」
「処分するのだったら、私に譲ってください。和吉さんは、あの車で私と森山さんをドライブに連れて行ってくださったの。本当に楽しかったわ。あの車を処分するのは、楽しい思い出まで捨ててしまうような気がします。森山さんもそう思うでしょ?」
米澤綾子がそう言うと、森山も涙ぐみながら深く頷いた。
「だから、伯父様、私に譲ってください」
米澤唐左衛門は「綾子がそうしたいのなら、好きにしなさい」と微笑みながら言った。




