第五話 2
数日後、依頼人である香月由美が、事務所を訪れた。僕は、開口一番「来てくださって嬉しいです」と心にもないことを言った。いや、嬉しくないことはないのだが、どうも相手が女性だとしっくりこないのである。しかし、香月由美は、そんな僕の様子に気付いてないのか、満面の笑顔で「その節は、お世話になりました」と言った。僕は、ほんの少し、後ろめたくなった。
「小夜子さんが亡くなった時、私もご主人と一緒に傍にいたんです。でも、小夜子さんは、苦しまずに、本当に安らかな顔をして眠るように亡くなりました。ご主人もおっしゃってたけれど、それは米澤さんのおかげだと私も思います。小夜子さんは、きっと心残りなく旅立たれたんだと思います。勿論、残していくご主人のことは気がかりでしょうけど……」
「少しでもお役に立てたのなら、私も嬉しいです」
「少しどころか、大いに役に立ってますよ」
「そうでしょうか」
「ええ。それでね、今日は、私も米澤さんに、是非お願いしたいことがあってここに来たんです」
香月由美の依頼は、彼女が預かっているタイムカプセルの中身を消息不明の親友を捜し出して渡して欲しいというものだった。
香月由美が、中学生の時に母校が百周年を迎え、「二十歳の自分へ」という手紙を書き、二十歳になったら開けようということでタイムカプセルにして母校の校庭に埋めた。二十歳の時に田舎で同窓会があり、タイムカプセルをみんなで開けたが、中学生当時、親友だった朝比奈真理とは、東京に転校していったため音信不通になっており、彼女はその場にいなかった。彼女と親友であり、東京で働いていた香月由美は、朝比奈真理の自分への手紙をみんなから託されたと言う。しかし、あれから、四十年経った今も渡せていない。もう時間がない。どうしても親友を探し出して手紙を渡さなければならない、親友を捜し出して手紙を渡して欲しい、と彼女は言った。
「朝比奈真理さんは、東京にいるんですか?」
「中学生の時、突然、東京に転校して行ったんです。しばらくは文通していたんですけど、ある日を境に、手紙を送っても、送り返されてくるようになりました。だから、今も東京にいるのかどうなのか、分からないんです」
「そうなんですか……」
「でも、彼女が元住んでいたお父さんの実家は、まだ残されているそうです」
「誰か、住まわれているんですか?」
「分かりません……。私の身内も、もう田舎には誰も住んでいないので……。でも住所は分かります」
そう言って、香月由美は、鞄からメモ帳を取り出すと、朝比奈真理の元住んでいた住所を僕に教えてくれた。彼女の田舎は、四国の愛媛県松山市だった。




