第四話 3
「昨日の依頼は、どうだったんですか? 簡単に解決しそうなんですか?」
次の日、新宅正司が僕に訊ねた。
「ああ、うん。今回は楽勝だろう。チケットを手に入れればいいだけだから」
「何のチケットですか?」
「キングスクラウンというイギリスのロックバンドの来日公演」
「キングスクラウン!」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、超有名ですよ! キングスクラウンを知らないのはモグリだけです!」
「……」
「だって、日本のCMにもしょっちゅう使われてるじゃないですか! この間はオリンピックでも使われてましたよ!」
「そうか、そんなに有名なのか……」
「それで、なんですって、チケットを手に入れるんですか? もしかして、一週間くらい先のヤツですか?」
「うん、十日後」
「ええーっ、マジでっ? そんなの絶対無理ですっ! 後十日なんて無理に決まってるでしょっ! 半年前に完売してますっ! 実は僕も、チケットを手に入れようと頑張ったんですけど、撃沈してるんですっ!」
「マジかっ?」
「マジですっ!」
僕は、新宅正司とこんな会話をして、大いに凹んだ。
しかし、勿論、簡単に諦めるわけにはいかない。新宅正司とそんな会話をした瞬間から、修羅場は始まった。まずはネット検索し、チケットセンターで合法的に転売しているチケットを探した。しかし、あまりに人気があるためか、全然売りに出されない。もしくは、ようやく売りに出されて買おうとしてパソコンのキーボードで手打ちして手続きしているうちに、「受付は終了しました」と何度もはね返された。仕方がないので、都合で公演に行けなくなったので売りたいという一般人のSNSにコンタクトを試みたが、こちらも何度コンタクトしても「すみません、もう売れてしまいました」と返事をもらう羽目になった。仕方がないので、チケットセンターや金券ショップに片っ端から電話を掛け、売りに出されていないか確認した。しかし、いつも「あったことはあったが、つい先程売れました」とか「いつ入ってくるか分からないので、まめに連絡ください」と言われるばかりで、電話する度に毎回同じことを言われて疲れ果ててしまった。
そんなことを繰り返していたら、新宅正司が「あーっ!」とパソコンを見ながら大声で叫んでいる。
「なんだ? 何かあったのか?」
「フリーマーケットで売りに出されています」
「ええっ? 買えるのか?」
「買えますけど、一枚五十万円です……」
「なにいっ! じゃあ、二枚で百万円?」
「そうなりますね」
「バカか! 調査料が吹っ飛ぶどころか大赤字だよ!」
「でも、チケット代は白石さん持ちなんですよね?」
「そうだけど、チケット代が百万円だなんて言えるか?」
「そうですよね、言えませんよね……」
「というか、それ、ダフ屋が出品してるんだろ?」
「でしょうね……。それに、元検事が犯罪に加担するわけにいかないですもんね」
「当たり前だ!」
「その前に、このチケットだと会場に入れない可能性もありますけどね。最近、厳しいですから」
「そうだろうな……」
僕と新宅正司は、パソコンの画面を、ただ恨めしい表情で睨みつけることしか出来ずにいた。