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米澤唐吉調査事務所  作者: 早瀬 薫
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第一話 4

「唐吉! 唐吉! どこにいるんだ? ちょっとこっちに来なさい!」

 祖父が大声で叫んでいる。また、僕を説教するつもりだ。僕は、渋々自分の部屋を出て、祖父の書斎へ急いだ。

 祖父は学期末に貰って帰って来た僕の学校の成績表を見ながら、渋い顔をしていた。僕の成績は、オール5ではなかった。体育を除く教科は5だったが、体育だけが4だった。この間の学校の三者面談でも祖父は「何故、肝心の体育が5ではないのか?」と担任に食って掛かっていた。

「こんな良い成績を取る子なんて一人もいませんよ。自慢すべきことであって、卑下することなんてないです。一つくらい4があってもいいじゃないですか?」

「私はそんなことは訊いておらん。何故、体育が4なのか?と訊いている。旗本の男たるものが一番求められるものは、体力であろう。勿論、知力も必要ではあるが、まず体力だ。まず、体育が5でなければならん。理由を聞かせてくれ」

「あえて言うなら、彼は跳び箱が苦手です。走るのも早いし、球技も得意なのに、唯一跳び箱が苦手みたいです」

「それで成績が下がったと?」

「そうです」

「そうか、分かった。ご助言に感謝する」

 祖父は担任と三者面談でそうやり取りしていた。


「唐吉、今日から跳び箱を頑張りなさい」

 僕が書斎に着くなり、祖父は、執事の森山熊三に用意させた庭に置かれた跳び箱に顔を向け、そう言った。またかと思ったが、家長である祖父に逆らえず、僕は、跳び箱が跳べるようになるように、打ち身やねん挫と闘いながら頑張った。

 しかしながら、どうしてだか僕は一向に跳び箱が跳べなかった。走り幅跳びや走り高跳びはクラスでも一位だったのに、跳び箱を前にすると萎縮し、いつも僕は跳び箱に激突した。その度に、執事の森山が飛んできて僕を看護してくれたが、祖父の落胆ぶりは酷かった。

「お前の父親は、優秀だった。頭も優れていたが、身体能力は誰にも劣らなかった。それなのに、お前ときたらなんだ! やっぱりお前は母親に似ているのだな!」

 祖父は、そう僕に冷たく言い放つと「もういい、出ていけ」と僕を書斎から放り出した。


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