第三話 7
山本道代は、唐吉に頼まれた通り、速水愛に話を聞いている。彼女の雇い主のコンビニの店長に許可を貰い、近くのカフェで向かい合って話していた。速水愛は、物憂げな感じで、ストローで氷の入ったアイスティーを意味もなくかき混ぜていた。本当はここにいたくはないが、しようがなく付き合ってやっているのだという風にしか見えなかった。
「陽介のことが訊きたいの?」
「ええ。でも、それがね、名前まで聞いてないの。でも、体格の良い金髪の男の子らしいの。あなたが付き合ってたのは陽介君というの?」
「うん、桐山陽介。まぁ、身体はでかいね」
「そうなの」
「でも、とっくの昔に別れた」
「えっ? 別れたの?」
「うん、アイツと付き合っててもつまんないから、他の男とも付き合ってたんだよ。で、浮気がバレて捨てたわけ」
「……」
「今、彼はどこにいるの?」
「さぁ? 前は九州に帰って漁師になるって言ってたなぁ。九州で漁師にでもなってるんじゃないの?」
「えーっ? そうなの……」
「うん、捜してもこの辺にはいないよ」
「彼の写真を持ってるなら見せてくれる?」
「ただじゃ、いやだね」
「勿論、謝礼は払うわ」
「なら、いいよ」
そう言って、速水愛はスマホの桐山陽介の写真を山本道代に見せ、画像データをLINEで送った。速水愛への聴取は短時間で終わり、山本道代は速水愛に謝礼を渡して別れた。
「これだから女はくだらん! 調査をあなたに依頼して本当に良かったです!」
僕は、速水愛の調査結果を山本道代から聞き、憤慨していた。
「それで、桐山陽介は今九州のどこに?」
「そんなの知りませんよ。彼女は九州のどこか知らないと言ってたもの」
「え?」
「だって、あなたが私に頼んだのは、速水愛に話を聞きに行けってことだけでしょ? 彼女は知らないって言ってました。彼の名前が桐山陽介だと分かったことと、彼の写真を入手出来ただけでも大収穫でしょ? はい、これ、調査費用の請求書です」
「……」
これだから、やっぱり女はくだらない。




