第三話 6
その頃、米澤綾子が米澤唐左衛門を訪れ、唐吉の父親、米澤和吉の遺影に手を合わせていた。今日は、米澤和吉の月命日だった。
「綾子、ありがとう。父親の私でも、うっかりすれば忘れているくらいなのに、こうやって、毎月、命日を忘れずにいてくれるなんて、和吉は幸せなヤツだ……」
「和吉さんは、いつまで経っても若くて美しいまま。私はもうおばあちゃんだわ」
米澤綾子は、米澤和吉の遺影を見ながら言った。
「そんなことないですよ。綾子様は、昔と変わらずにお美しいままです」
森山がそう言うと、米澤綾子は、「森山さんは、相変わらずお優しい方ね」と言うと、森山は笑顔になった。
「どうして離婚したんだ? 再婚して再出発する気はないのか? 君ならば、今でも第二の人生を歩めるだろう?」
「伯父様、冗談はよしてください」
「取引先のご令息が、妻を亡くして一人暮らしをしていて、あまりにもふさぎ込んでいるから、誰か良い人がいないか紹介してくれと言われてるんだよ。彼は、物静かなとても良い男だと聞いている。会って見る気はないか?」
「やめてください。私は再婚する気なんかありません。結婚はもうこりごり。父に薦められてお見合い結婚したはいいけれど、会話もなく共通の趣味もなく考え方も全く正反対で、結婚なんかしなけりゃ良かったと後悔するばかりでした。伯父様、やっぱり結婚は、恋愛してするものなんですよ。伯父様だって、そうだったでしょ? 大恋愛して結婚して正解だったと、はる子伯母様もおっしゃってたわ」
「そうかもしれないな……」
「それに、伯父様、私はどんなに良い方でも、物静かな方は苦手です。お喋りが楽しくなければ、一緒にいる必要がないじゃないですか。明るい方のほうが好きなんです、和吉さんのような……」
そう言って、米澤綾子は、米澤和吉の遺影を見つめた。