第三話 5
山本調査事務所のドアを開けて中に入ると、十人くらいの女子高生が一斉にこちらを振り返り、汚いようなものでも見るような目つきで僕を睨みつけた。神崎美波は、女子高生の占い相談を一手に引き受けてやっているようで、机の上には、タロットカード、水晶玉、筮竹まで置いてあった。僕が事務所に入って来たことに気付いた山本道代が、奥のデスクからツカツカやってきて、「何の御用ですか?」と憮然とした表情で言った。
「早速本題に入りますが、僕は女性を苦手としているので、僕の代わりに話を聞きに行って貰いたいんです」
「は? 女性が苦手なのに、今、私と話してますよね? 私は女性ではないということですか?」
「まあ、そういうことなのかもしれません」
「どうぞっ! お帰りくださいっ! 出口はあちらですっ!」
「いや、そうじゃなくて、あなたに依頼したいんです」
「どういうこと? 女性が苦手なら新宅さんに頼めばいいじゃないですか?」
「新宅は二週間田舎に帰る予定だし、半人前のアイツには任せられません! あなたのあの裁判での答弁は実に理路整然としていた」
「……それって褒めてるんですか?」
「そうなりますね」
山本道代は、唐吉の前で思わず笑顔になりそうになるのを我慢し、唐吉から顔が見えないように体を捩じって後ろをむくと、ニヤッと笑った。
「わかりました。お仕事の依頼なら、ビジネスとしてきちんとお受けします」
商談が成立し、ほっとしていたら、山本調査事務所のドアを開けて、加賀美佐助がずかずかと入って来た。何事?と思いながら、彼を眺めていたら、「お客さんからケーキを大量に頂いたので、みなさんで食べましょう」と彼は言った。すると、女子高生達も神崎美波も山本道代も、そしていつの間に事務所に入り込んでいたのか、平林真奈美までもがキャーキャー言いながら、ケーキを選び、楽しくおしゃべりしながら盛大にお茶会が始まった。加賀美佐助は、部屋の隅にいる僕を見つけて「君も一緒にどうだ?」と言った。
「どうして敵と一緒にケーキを食わねばならんのだ?」
「俺は君の敵なのか?」
「敵だと思っていたが違うのか? まぁ、喧嘩をフッかけてくるのは、いつもお前のほうからだったがな。俺は、どうしてお前が俺のことを敵視するのか、未だに理解できない」
「まぁ、イライラさせる存在には違いない。それは認めるよ」
「しかし、お前が山本道代と手を組んでいるとは意外だな」
「手なんか組んでいない。ただの昔馴染みだ」
「へぇー、昔馴染みなのか……。あんな美人を昔から知ってるなんて、大したもんだな」
「お前! ついに気が狂ったか! 一体何を言ってるんだ!?」
「何をって、疑問に思ったことを口にしただけだ」
僕がそう言うと、加賀美佐助はますます変な顔をした。すると、平林真奈美が、「唐吉は、頭のネジが外れているから、相手にしないほうがいい。まともに相手をすると、こっちが頭がおかしくなる」と言った。
僕は、なんでこのクソババアにこんなことを言われなければならないのとかと腹が立ったが、山本道代や神崎美波や部屋中の女子高生にまで、変な目で見られているのに気付き、反論するのをやめた。ここは自分の事務所ではない、敵陣にいるのだ。こういうお茶会は、ここではしょっちゅう行われているのだろう。しかし、その輪の中に入っていけない疎外感を感じ、僕は山本道代に「じゃあ、例の件、お願いします」とだけ言い、すごすごとその場を後にした。




