第二話 6
にっちもさっちもいかず、事務所で新宅正司と二人でため息を吐いていると、随分と外が騒がしいことに気付いた。窓から外の様子を伺うと、左斜め向かいの山本調査事務所の前が、女子高生で溢れかえっている。
「なんの騒ぎですかね? 女子高生が調査事務所に用なんかないでしょ、ふつう」
新宅正司が怪訝な顔付きで言った。
しばらく様子を伺っていると、「はい、お待たせー。今、お客様が帰ったから、みんな中に入っていいわよ」と山本事務所の事務員兼助手の神崎美波が、女子高生を事務所の中に呼び入れていた。
「ちょっと、見に行っていいですか?」と新宅正司が言いながら、外に飛び出し、山本調査事務所の中を覗きに行った。新宅正司も全然遠慮がない人間で、堂々と山本調査事務所の窓に右耳ぴったり付けてへばり付き、事務所の中で交わされている会話を盗み聞きしていた。山本調査事務所も加賀美調査事務所も、人の事務所の真ん前で自分の事務所のビラ配りをしているくらいだから、別に失礼でもなんでもないと彼は思っているのだろう。
十分後、新宅正司が舞い戻って来て、「占いをやってるみたいです!」と言った。
「はぁ? 占い? 弁護士事務所で?」
「ええ」
「弁護士が占いやるなんて、落ちたもんだな」
「しかも学割で、三十分二千円だと中にポスターが貼ってありました」
そう言って、新宅正司は、スマホの山本調査事務所のホームページを僕に見せた。おまけにホームページには「お客様からの便り」と称し、口コミ欄まであって、「いつも同じことを相談してしまうのに優しく話を聞いてくださいます。先生のアドバイスのおかげで恋愛成就しました! また相談に乗ってください!」と書かれていた。
「弁護士事務所で子供の恋愛相談までやってるのか!」
「そうみたいですね。しかも今日は月に一度の出血特別大サービスデーで、三十分千五百円だそうです!」
「バカバカしい!」
「でも、大人だって弁護士事務所で離婚相談やってますよね。大人も子供も大して変わらないじゃないですか」
「……」
「おまけに、交通事故やら麻薬やら詐欺やらストーカーやら強盗やら放火やら殺人やら、そんなことの後処理を弁護士はするんでしょ? 大して変わらないどころか、大人のほうがよっぽど質が悪いですよ」
新宅正司がそう言ったが、僕は無言だった。全くその通りだと思ったからだった。子供のほうが余程平和でいい。山本道代が弁護士事務所を辞めた理由が、なんとなく分かるような気がした。