第一話 14
海東光次遺作展の葉書を見ながら、昨日の霊能者は本当に凄かったなぁと僕は事務所で回想していた。そんな僕を見て、事務員の新宅正司は、「今日は機嫌がいいですね」と言った。
「俺は、いつも機嫌が悪いと言いたげだね」
「いっ、いえ、そういう訳じゃありませんっ……」
新宅正司は、慌ててそう言い繕った。
しかし、今日も朝から、外が工事で騒がしかった。またすぐ傍に新しい会社が出来るらしく、一週間前から始まった内装工事を終え、今日から外装工事を始めるらしい。外装工事と言ったって、間口が二間の小さな事務所だったので、今日中に工事は終わるだろうなと思いながら、窓から左斜め向かいの工事の様子を僕は眺めていた。
右斜め向かいの加賀美佐助の事務所に目をやると、儲かっているのか、客がひっきりなしに出入りしていた。あらゆる年代層の老若男女が出入りしていた。しかし、アイツのことだから、どうせ浮気調査だとか離婚相談でも受けて儲けているのだろうと思った。この自分が加賀美佐助に負けていると思うとイライラしたが、海東光次遺作展の葉書に何度も目をやり、気を紛らわせた。
夕方になり、外装工事も終盤を迎えていた。後は、看板を掲げるだけらしい。何の会社なんだろうと僕と新宅正司は興味津々だった。二人で、窓に張り付いて、看板が掲げられるのを眺めていた。三人がかりでやっとのことで作業が終わったが、その掲げられた看板を見て、僕も新宅正司も凍り付いた。看板には「山本調査事務所」と書かれていた。
新宅正司は、「え~っ、また調査事務所ができるの……」とウンザリした声でぼやき、僕はひたすら大きなため息を吐いた。
第二話へ続く