第一話 13
ということで、僕は、今、通算十人目の霊能者に電話している。小五郎から紹介された霊能者は、超人気で滅多に捕まらないらしく、取りあえず誰でもいいかと電話したら、ことごとくハズレを引いた。霊能者なんか本当にこの世にいるのか?というような、お粗末な結果に陥っていた。しかもほとんどが女性。それが一番気に食わなかったが、それは横に置いておくとして、まず、彼らは、僕の職業を言い当てられなかった。それだけでなく、年齢も住んでいるところも当てられない。しかも、当たらないのは自分ではなくお前のせいだ、と異口同音にほざいた。今日、このレイデンとかいう霊能者と話してダメだったら、金輪際、霊能者の電話相談などするものかと思いながらコールしていた。
プルルルル、プルルルル、プルルルル、カチャ
「はい、レイデンです。初めまして。今日は、いかがされましたか? その前に、お名前を伺っていいかしら?」
「霊能者のくせに、名前も分からないんですか?」
『何、この人、いきなりこんな失礼な言い方をするなんて』とレイデンは思った。
「登録されているのは、セイヤさんですよね? そうお呼びしていいかしら?」
「呼んでいいから、登録しているんです。それで僕の名前は?」
「本名のことをおっしゃってるの? じっくり霊視すれば分かるかもしれませんが、料金もかかることですし、そんなことに時間をかけるよりお悩み解決をされたほうがいいと思うんですけど」
「……」
「何かお困りごとがおありのようですね?」
「困っているから、電話しているんです」
「どのようなことを相談されたいんですか?」
「とにかく商売上がったりなんです」
「商売上がったり……、そうですか。ビジネスのご相談なんですね」
「解決策を教えてください」
「あの、ごめんなさい。もう少し情報がないと……。あえて言うなら、そういうお話は、もうご本人の努力しかないと思うんですね。どんな時、どんな人に対しても、親切丁寧な対応を心掛け、それを持続していくことが大切です」
「あなたもそうやって、一般論で誤魔化すんですか?」
「そういう訳じゃありません。もう少し情報をください」
「近隣に新しいライバル会社が出来て以来、商売がうまくいかなくなりました」
こんな情報だけで、具体的なアドバイスなど出来る訳がない。レイデンは、「少し時間をくださいね。霊視してみますから」と言って電話の主を霊視し始めた。しかし、何度試しても全く見えない。客は、疑り深い性格をしているせいか、彼の心の中に入っていけないのだ。
「あの、セイヤさん、何か楽しいことや好きなことを考えて頂けますか?」
「何のために?」
「霊視するためにです。霊視するには、まずリラックスして貰わなきゃいけないんです」
客は、「そんなバカな」とブツブツ言いながらも、何かを考え始めたようだった。すると、数分後に少しだけ視界が開けた。レイデンは、事務所の奥の戸棚に大事そうに隠されている団子を見つけた。その瞬間、「セイヤさん、戸棚の奥にお団子があるでしょ? それを食べてください! それと、ほうじ茶も一緒に用意してください!」と叫んでいた。「何故それをっ!?」と言いながらも、彼はその言葉に従った。
客が、団子を食べ始めると色んな映像がレイデンの中に流れ始めた。彼が、子供の頃、友達と思われる男の子と一緒に近所のお婆ちゃんと団子を食べながら仲良く歓談している様子が見えた。その様子を見て、レイデンは、どうして!と驚いていた。実はレイデンにとっても、その老婆は身近で大切な人だった。レイデンは、その情景を眺め、いつの間にか涙している自分に気付いた。そして、そこから一気に彼の今の状況が見えてきた。
「何か分かりましたか?」
「調査事務所を開かれているんですね」
「えっ、そ、そうです……」
「画家の海東光次さんは、セイヤさんと何か関係があるんですか?」
「えっ? ああ、父の友人だったはずです」
「そうでしたか……。海東光次さんの甥御さんと、セイヤさんが事務所で打ち合わせしている様子が見えました」
「そう言えば、家に海東さんの遺作展の案内が来ていたような……」
「それです! 是非、遺作展に行かれてください!」
「え? は、はい」
「他にご質問は?」
「いや、そう言われても、もう特に思い付かないです」
「じゃあ、今日はこれで終わりでいいでしょうか? また何かありましたら、お電話くださいね」
「はい、ありがとうございました」
今日のレイデンという霊能者は、他の霊能者と明らかに違っていたと僕は感じていた。まず、当たり前のように、父の友人であった海東光次の名前が出てきたことに脅威を覚えた。そして何よりもびっくりしたのが、彼女に事務所の戸棚に団子を隠していたことを言い当てられたこと!
僕は、彼女に言われたように、自宅へ帰るとすぐに執事の森山に、海東光次遺作展の葉書を探させた。祖父は、また、僕が何かをやらかすのではないか、と眉をひそめながらその様子を眺めていた。