最終話 4
「水瀬さんの元住んでいたところがここで、この☓印が付いている所が、すでに聞き込みが終わっているところです」
先に南条久志に話を聞いていた新宅正司は、僕と山本道代に、富戸港近辺の地図を見せながらそう言った。新宅正司によると、この近辺に水瀬夫婦の親戚は住んでおらず、夫婦が亡くなった後、家を相続した東京に住む甥は、家を売りに出し、現在は水瀬夫婦のことを全く知らない別の人間が住んでいた。水瀬桜も青空園で働くことが決まった時点で、この家を離れ、青空園の近くに引越しているということだった。
調査が終わっている地区に☓印が付いている地図を見ながら、☓印以外の地区を三人で手分けをして聞き込みをすることにした。しかし、四十年も前のことなので、水瀬桜が保護された当時のことを知っている人間は少なく、調査は難航した。夕方になっても、有力な情報は全然入って来なかった。
「あんた達も大変だねぇ。また人探しをやってるのかい?」
「うーん、人探しというより、情報を知ってる人を探しているんですよ」
僕がそう言うと、常木美也子は、「ふーん」と言った。
「四十年前の富戸のことを知ってる人を美也子さんはご存知じゃないですかね?」
「母が生きてりゃ、知ってる人間もいたんだろうけど、母は二十年前に亡くなってるからねぇ。四十年も昔のことを知ってる人間は、もうあんまりいないんじゃないの。ああ、でもね、漁協の組合長さんは、うちの店の常連だから、今度、店に来た時、聞いておいてあげるよ。あの人なら顔が広いだろうからさ」
「そうですか! ありがとうございます!」
僕と山本道代が同時にそう返事をした。
そんな話をしていた時、不意に新宅正司の携帯が鳴った。新宅正司は、誰からの電話か名前を確かめた後、電話に出るために席を立ち、そそくさと店の外に出て行った。
「珍しいわね。いつも悠然としてる新宅君が慌ててるわ」
山本道代がそう言った。
「そう言えば、そうだよな。最近じゃ俺より弁が立って貫禄があるし」
「そうよね。あの慌てようは、彼女からかもね」
「そうかもな。あ~、羨ましい」
僕と山本道代は、店の中でそんな会話をしていたが、新宅正司は、僕達の想像と全く違った人物から電話を受けていた。
「米澤さんと山本さんが伊豆に到着し、三人で富戸で聞き込みをしています。まだ、特に進展はありません」
新宅正司は、ある男に、そう報告していた。