最終話 1
伊東の老人福祉施設「青空園」で働く南条久志と水瀬桜は、施設の入居者のベッドのシーツを二人で替えながら話していた。
「南条さん、今年もみなさんで桜を見に行くんですか?」
「当たり前ですよ! 何を言ってるんですか! 水瀬さんだけじゃなくて、みなさん楽しみにしているんですから。でも、みなさんが本当に楽しみにしているのは、花より団子だとは思いますけどね」
「まあ!」
「今年は、どこにお花見弁当を頼めばいいですかね?」
「去年と一緒でいいんじゃないですか? 去年のお弁当、彩りも良くて、お婆ちゃん達、みんな喜んでいましたよ」
「そうだったかな……。量が少なくて、僕は、それが不満だったんですけど」
「ふふ、南条さんは、男の人ですからね。量が気になるのは仕方ないですね」
「はははは、すみません……」
「今年は、どこに桜を見に行くんですか? 去年は熱海でしたよね?」
「ああ、今年は城ヶ崎灯台にするらしいですよ。所長がそう言ってました」
「そうなんですか」
「あそこはお花見もできるし、海も見られるし一石二鳥ですよ。坂田のお爺ちゃんが所長に、どうしても城ヶ崎灯台に行きたいと言ったらしいですよ。元漁師だし、海が見たいんでしょうね」
「そうですか、私も海は大好きなんです。でも、もう何年も見に行ってないんですよ。どうしてだか、見に行けないんです……」
「そうですか……」
「ええ」
南条久志は、海が好きなのに見に行けないと俯いた水瀬桜を、心配そうに眺めていた。