第一話 11
鏡に映った自分の顔をじっと眺める。目が二つ、鼻が一つ、口が一つ。これといって、おかしなところはない。中には違う人もいるのかもしれないが、その辺に歩いている人と同じで特に違いはない。
「うわーーーーーっっっっっ!!!!!」
気付けば、そう叫んでいた。
最低で普通じゃない男だということは、最初から自分も分かっていた。分かっていたんだから、別に傷付くことはないと思う。それでも、私はあの時、傷付いたのだ、「男たらしのブス!」と言われて! 一体、私はなんであの男に「男たらしのブス!」と何度も言われなきゃいけなかったのか? 確かに私はブスだよ。だけど、男たらしだったことなんて一度もない。あの男は、ブスが男にモテるとでも思っているんだろうか? だから、彼に復讐するために、いや子供の頃からのコンプレックスを解消するために、私は整形手術を受けた。
その後の人生は、順風満帆に行くかと思われたが、順調に行き過ぎて逆に生き辛くなった。色んな男性から求婚を受けるようになったけれど、ちっとも嬉しくなかった。結局、結婚できる相手は一人しかいないんだから、そのたった一人の自分の愛する人にだけモテればいいのだと気付いた。検察官も辞めた。色々辛くなりすぎていたし、ちょうどそんな時期に、先輩から弁護士事務所に誘えて貰えたのはラッキーだった。
しかし、この間の裁判は本当に酷かった。こちらの仕事は楽だったが、あんなミスを唐吉が犯すなんて、思いも寄らなかった。しかも、加賀美佐助が裁判官だったし、まるで茶番そのものだった。加賀美佐助のあの人を見下したような蔑んだ眼! 子供の頃から何一つ変わっていない。それに、唐吉は、私に気付いていなかった。山本道代というありふれた名前のせいかもしれないけれど、整形後の私だということに、彼は全く気付いていなかった。唐吉の人生も加賀美佐助の人生も、そして私の人生も、このままでいいんだろうか? こんな仕事をしていると、何度もそんなことを考える。人の争いごとの中に身を置くのが、もう耐えられないかもしれないと、私は感じていた。