第九話 7
山本道代は、検察官時代の同僚であり、沢登小五郎がビルから飛び降りたことを一番に知らせてくれた大杉颯太郎に連絡を取った。実は、松沢啓介の出所時期を調べてくれたのも彼だった。
「大杉君、この間はありがとう、沢登君のことを教えてくれて」
「ああ、山本、お前、大丈夫か? 彼は、お前の幼馴染みだったんだろう?」
「うん、そう。でも、あんまり優しくしないで。また、涙が出るから」
「ああ、ごめん……」
「それで、もう一回だけ聞きたいんだけど、彼の自宅で遺書は発見されなかったのよね?」
「うん。見つからなかったんだよ。遺書があったら、米澤もすぐに釈放されるだろうに……」
「そうだよね……、うん、分かった」
「俺も、米澤のために何か出来ないか考えてみるよ」
「ありがとう」
山本道代は、再び唐吉に接見した。
「どう? きちんとご飯は食べられてるの? なんだか痩せたみたい……。欲しい物があったら言って」
「ありがとう。でも、やっぱり、いくら何でも、飯はそんなに食べられない」
「そりゃ、そうだよね……。あのね、小五郎の遺書を探しているの。自宅では発見されなかったけれど、遺書があるはずなの。小五郎が、亡くなる前に会っておきたいと思ったのはあなたなのよ。思い当たるところはない? あったら教えて」
「自宅以外の思い当たるところと言えば、やっぱり、マツ婆ちゃんのところかな……」
「……」
「あそこには、思い出がいっぱいあるから」
「そうなんだ……」
「ガキの頃の俺達は、俺も小五郎も孤独な出来損ないで、心にぽっかり穴が開いていた。マツ婆ちゃんが、その穴を埋めてくれてたんだよ」
「マツ婆ちゃんが、その言葉を聞いたら喜ぶよ」
山本道代がそう言うと、唐吉は笑った。