第九話 6
その晩、山本道代は河川敷に一人寝転び、北極星を見上げていた。子供の頃から、悲しいことがあると、いつもこうやって夜空を見上げた。けれども、今日以上に悲しかった日なんて、あっただろうか?と思う。父や母、マツ婆ちゃんが亡くなった日も絶望に打ちひしがれていた。けれども、小五郎の場合は、自分自身で断ち切った死だった。
この間、アトリエを訪れた時、もっと早く仲良くしていれば良かったと小五郎は言った。あの時から、彼は、死ぬことを考えていたのだろうか? そう思うと、後悔とやり切れなさで次から次へと涙が溢れた。
「お祖母ちゃん助けて。もう耐えられない。小五郎が死んでしまった。小五郎が亡くなってこんなに悲しいのに、唐吉まで逮捕されてしまったの。もう、どうしたらいいのか分からない……」
そう呟き、北極星を見上げていると、マツ婆ちゃんが現れこう言った。
「道代、人との別れは悲しい。けれども、お前はこうやって、私と会えているじゃないか。霊が見えない唐吉のほうが、余程悲しい想いをしているに違いない」
「そうね、きっとそうだわ。でも、私は、どうやって彼を救えばいいのか分からない」
「遺書を探しなさい」
「遺書?」
「小五郎の遺書だよ。遺書があれば、唐吉を救える」
「遺書を探せばいいのね?」
「そう。遺書を探しなさい」
そう言って、マツ婆ちゃんは消えた。