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第九話 4
ある男が、再び元刑事のもとを訪れ、あれから何か進展はあったか?と訊ねていた。
「あの件に関しては、俺の認識が間違っていた。全く別の事件のことと勘違いしていた。米澤和吉殺害事件のことは、俺は何も覚えていない」
「は?」
「俺は何も覚えていないんだよ。帰ってくれ」
「約束が違う! あなたは良く覚えていると言ってたじゃないですか!」
「あんたとはな、もう関わりたくないんだ! 帰ってくれ!」
「なんでなんだ! 誰かが圧力をかけているのか?」
「知らないね。大体四十年も前の事件を今更蒸し返しても意味がないだろう?」
元刑事は、掌を返したように、ある男を突っぱね、知らぬ存ぜぬを繰り返した。
ある男は、「畜生!」と叫んだ。