第一話 10
その後の僕の人生は、悲惨だった。山本道代と付き合う以前よりも、女嫌いが加速していた。女などこの世からいなくなればいいと思い始めていた。女がいるから、余計なトラブルが増えるんじゃないか、いなけりゃもっと世の中は平和なはずと信じて疑わなかった。
イラつくことはまだあった。最近ではあまり気にならなくなっていた加賀美佐助の妨害に、終始悩まされるようになっていた。彼は僕の発表するリポートに、重箱の隅を楊枝でつつくように、毎回難癖を付けた。加賀美佐助と同じく法科に所属する山本道代とは、受講中に何度も顔を合わせたが、お互い素知らぬふりをした。そんな味気ない大学生活を送っていたにも関わらず、いや、味気ない大学生活だったからこそなのかもしれないが、僕達三人は、大学三年生で、見事三人とも司法試験予備試験に合格し、その後の司法試験にも難なく三人とも合格した。
三人ともこのまま同じ道を歩むのかと思われたが、僕と山本道代は検察官を目指し、加賀美佐助は裁判官を目指した。加賀美佐助は、司法修習を受けている間も、執拗に僕に嫌がらせを続け、修習期間が終わる頃には、「何故、お前は裁判官を目指さないんだ? お前なら絶対裁判官を選ぶと思っていたのに!」と叫んだ。その彼の言葉を聞いて、彼によってもたらされた悪夢は、やっと終りを告げるのだ、と僕はほっとしていた。
それから、二十年の歳月が流れた。僕は、相変わらずの日々を送っていたが、つい先日、漸く決心し、長年務めた検察官を退職した。